自動車メーカーの社長が自らの愛車を自慢! クルマ愛、バイク愛を語って未来のモビリティを提言するトークショーは、開始早々から予想外の展開になった。
ジャパンモビリティショー2025期間中の10月30日、ショー主催者の自工会は、未来モビリティ会議特別セッション「トップが語る『モビリティ愛』とは!」を開催した。セッションでは、「未来はみんなでつくるもの」の合言葉のもと、日本を代表するモビリティ企業のトップが、それぞれの「モビリティ原体験」や「溢れるクルマ・バイク愛」を語り合った。
登壇者は自工会の会長・副会長。会長はいすゞ自動車の片山社長、副会長は各メーカーの社長だ。それぞれドライブする時の服装で登壇、また周囲には各人の愛車、思い出の車が並べられた。
登壇者
片山正則(自工会会長/いすゞ自動車代表取締役会長CEO)
鈴木俊宏(自工会副会長/スズキ代表取締役社長)
佐藤恒治(自工会副会長/トヨタ自動車代表取締役社長)
イヴァン・エスピノーサ(自工会副会長/日産自動車取締役、代表執行役社長兼最高経営責任者)
三部敏宏(自工会副会長/本田技研工業代表執行役社長)
設楽元文(自工会副会長/ヤマハ発動機代表取締役社長社長執行役員CEO)
松永明(自工会副会長専務理事)
トヨタ MR2 初代(ジャパンモビリティショー2025)◆今の車に無いもの
トークショーは自工会会長・副会長らによる、自らの愛車、思い出の車についてのスピーチからスタートした。
片山:トラック愛四十数年の片山です。私の愛車はキャンピングカーのいすゞ『トラヴィオ』(2024年、現行)。普通免許で乗れてATという扱いやすい車ですよ。実は未来の愛車なんです。リタイアしたらこれで孫を“運ぶ”。孫と日本一周したい。
鈴木:初めて乗った四輪車と二輪車が、初代スズキ『アルト』(1979年)と『マメタン』(1977年)。アルトは大学を卒業して買った。となりに女性を乗せると肩が触れるぐらいの大きさ。バックする時、今の車はリアビューモニターがついてるけど、当時の車ではドライバーが助手席側から後ろを向いて、片手を助手席の後ろに回す。女性が乗ってるとドキドキした。マメタンは、弟が大学に入る時に買って、借りて乗った。二輪車に興味なかったのが、これで風を切って走る良さを知った。ワクワクドキドキの2台です。
佐藤:私の愛車はそこにある初代トヨタ『MR2』(1984年)。日本で初めての市販ミッドシップです。去年、前のオーナーから譲っていただいて、1年かかって整備した。当時の車はエアコンがオプションで、これにはついていない。今年の夏は暑かったけど、どうしても乗りたくて乗ったら、人間がオーバーヒートした。
ヤマハ RZ250(ジャパンモビリティショー2025)
◆カリフォルニアに電話した
エスピノーサ:私の愛車は日産『フェアレディZ』(2022年、現行)の左ハンドル仕様です。日本ではお客さんの納車待ちが長いので、カリフォルニアに電話して、左ハンドル仕様を取り寄せました。Zは若い時から好きな車です。
三部:私の愛車はホンダ『プレリュード』新型(2025年、現行)。今日の企画に展示するために納車を急がせて、2週間前に届いたばかり。オドメーターは200kmいってない。
設楽:もう他人に譲ってしまいましたが、若い頃乗ったヤマハ『RZ250』は軽量コンパクトで速かった。『XSR900』も軽量コンパクト。赴任先のインドであまり二輪に乗れなかったので、日本に帰ってきて買った。うちは役員よりも一般のお客さんが優先で、1年ぐらい待たされた。そしたら社長になったので、こんどは忙しくて走行距離が伸びず、フラストレーションがたまってます。
松永:私は自工会事務局専任なので、自動車は作っていません。そこで自動車愛を語ります。私がミャンマーに駐在していた時、マツダ『B600』(1960年代。編集部注:『B360』の輸出仕様)が人気でした。自動車が日本の象徴であり、技術が信頼されて、リスペクトにつながっていた。車はそういう存在です。
片山:トークショーの企画を見て、愛車スピーチは1分じゃ無理だと思ったんだ。みんな5分以上話してるよね。
日産シルビア S110型◆プレリュード対シルビアの勝者は?
佐藤:三部さんに謝らないといけない。最初の企画の段階で「三部は何を持ってくるの?」と聞いたら「『レジェンド』を持ってくるよ」と言っていた。ところが直前に出品リストを見たらプレリュードになってる。新型車の広告? 事務局に抗議したんですよ。そしたら本当にご自分の愛車だった。
三部:開発初期から試作車に乗っていましたよ。どんどん良くなっていった。社長になったとき、ホンダにはスポーツ方向の車がなかった。F1なんかやりながらこれはない。実は開発当初はプレリュードの名前はついてなかった。開発中盤で、これはプレリュードでいいんじゃないの、となった。足回りがいいんだ。
佐藤:三部さんがプレリュードについて話すから、イヴァンが『シルビア』について語らせろと言いそう。
エスピノーサ:シルビアは私が長年、好きな車です。S110=エスワンテン・シルビア(1979年)は、日本のほかはアメリカとメキシコぐらいでしか売ってなかった。私の地元、メキシコでは『サクラ』と呼ばれていました。いまでは軽EVの車名ですね。シルビアについて話せることはありますよ。S15シルビアは日産車でもっとも良いシャシーを持つ一台です。
三部:デートカーはプレリュード対シルビアで競っていたよね。
佐藤:そこにトヨタが『ソアラ』を出して、勝ち(笑)。
スズキ・アルト初代(ジャパンモビリティショー2025)◆デートで乗るなら…
鈴木:話についていけないなあ。小さい車で肩が触れ合うぐらいでドキドキしてたのに。
三部:バイクは二人乗りできるじゃない。
設楽:後ろに誰かを乗せてブレーキかけるとね。鈴木さんもそのためにアルトにしたんでしょ?
鈴木:いや、デートが目的ではない。たまたま乗せたら、たまたまそうなって……。
片山:この会話、どうなっちゃうんだろう(笑)。ここではトラック、俺だけなんだよな。トラックで助手席の後ろに手を回して、というのはないなあ。商用車メーカーはしっかりしてるなと思って聞いてました。愛は孫。
ヤマハ・モトロイド・ラムダ(ジャパンモビリティショー2025)◆2035年の車・バイク
続いて2035年の車、バイクを予想した。どうなっているか、あるいは、どうなって欲しいかを、それぞれフリップボードに書いた。
松永:自工会14社が協力して作る車。各社の良いところを持ち寄って。
設楽:転ばないバイク。『モトロイド・ラムダ』というコンセプトバイクをブースに置いてあるので見てください。実現は2035年より、もう少しかかりそうですけど。
鈴木:転ばないバイクなんて面白くないんじゃないかな(笑)。ねえ、三部さん?
三部:ホンダも不倒バイクを開発してました。もともと自分で倒す乗り物なのにね。信号の前だけ機能するようにしました。
設楽:だから、急なリスクがあった時の安全面です。
エスピノーサ:私が想像する2035年の車は、インテリジェント、コネクテッド、無事故。設楽さん寄りの考えですね。ヤマハのモトロイド・ラムダを予約します(笑)。
三部:あれ? イヴァン、ホンダの『アフリカツイン』に乗るって言ってたじゃない?
エスピノーサ:はい、三部さんが予約してくれますか? 私はバイクも好きです。会場で見てアフリカツインはいいと思ったので、ヤマハと両方買います。
ホンダ・アフリカツイン(ジャパンモビリティショー2025)◆夫婦間の問題を解決する車
三部:SF映画の世界は実現する! ということで2035年の車は「パーソナルオウンド空飛ぶ車」。実現したら社会が変わる。こういうのをやって世界をリードしたい。
佐藤:私が欲しいのは駐車の時に小さくなる車……。みなさん共創とか安全・無事故とか、いいこと言ってるのに、自分の困りごとで恥ずかしい(笑)。車を所有しようとすると、駐車スペースの確保が難しいんです。若い人には特にそう。私は8台持ってるんだけど(笑)、夫婦間の問題の多くは駐車場。
鈴木:自分で操る車。2035年に自動運転が可能になっても、自分で車を動かしたい。今と同じではない。人の脳と車を繋いで、ステアリングホイールがなくても動かせる。人が真っ直ぐと思えば真っ直ぐ、止まろうと思えば止まるような車です。思う通りに動かしたい。
三部:自分で操る車は必ず残る。1台で両方に使えるのか、2種類の車になるのかは、わからないが。運転して楽しいモビリティは無くならない。
片山:本気で思っているのがトランスフォーマー型トラック。トラックは自動運転で無人走行しても、前後に荷物の積み下ろし=荷役があって、人の作業が必要なんです。運ぶのは自動走行、着いたらロボットに変形して荷役。三部さんが言ったように、夢は語れば実現するんです。
片山:(客席を向いて)このトークショーが自工会の実態です。どうやってモビリティを作っていくのか? いつもみんなで、こんな雰囲気で話し合っています。
<文責 高木啓>










