“小さな高級車”はもはや手垢のついた賛辞かもしれないけれど、やはりこの言葉を当てはめるのが相応しく、決して満艦飾ではない。銀座通りの路面店にある高級ブランドを、これみよがしに着飾るような過剰な華美ではなく、上質という言葉がこのクルマにはふさわしい。
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そんな小さな高級車を体現した1台が日産『オーラ AUTECH』だ。あえて抑えた高級感ともいうべき、むしろ控えめな質感が本物であることを主張しているような、どこか厳かな質感を感じさせる。留めきれずに滲み出る高級感が凄みの源だ。
現代から古来の風景にまで溶け込む細微なデザインが街中で映える
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今回のドライブルートは東京の池袋から埼玉県川越の小江戸が最初の目的地。そしてわずかな休憩を挟み、一路群馬県四万温泉まで足を伸ばした。昼間は晴れており、絶好のドライブ日和だった。だが青空は次第に黒い雲に変わり、老舗旅館・積善館に辿り着く頃には時雨となっていた。それがある意味で都合が良かった。というのも……。
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今回の旅の友は、『オーラ AUTECH』日産が誇るコンパクトハッチバックの『オーラ』をベースに、AUTECHが魅力的なスパイスを注ぎ込んだ特別なコンパクトカーである。
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小江戸で昼食をとり、夕まぐれに老舗旅館を目指した。旅館というより古風に旅籠と言ってしまいたくなるような、あるいは到着ではなく草鞋を脱いだと表現したくなるような、そんな厳かな気分になったのは間違いなく、それはオーラ AUTECHの高級感に包まれてきたからに違いない。
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オーラ AUTECHは先進的でありつつも、日本伝統美を感じさせるプレミアムスポーティコンパクトと呼ぶのが相応しい。ジャパニーズモダン、それが証拠に元禄7年開業の積善館を背景にしても見劣りしない。冒頭で口にした「小さな高級車」は言い得て妙だと、自分でも納得した。
本物の中に、心を落ち着かせる装飾が気持ちを冷静に熱くさせる
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オーラ AUTECHで移動をしていて、心落ち着かせていられるのは、そのデザインが高級だからだろう。シックな黒基調であり、掌にしっとり馴染む本革がふんだんに使われている。そこにAUTECHブランドのイメージカラーとなるブルーがアクセントとなる。
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本革ステアリングやレザレットを使用したインストパネルにブルーの糸が編み込まれているのはもちろんのこと、本革シートの「AUTECH」のロゴは縫い込まれた刺繍だ。立体感がある。思わず指の先で触れてみたくなった。
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専用のダークウッド調フィニッシャーは深みがある。そこにもブルーパールを混ぜ込んでおり、紫壇模様が相まって落ち着きのある室内空間を演出している。ここには誇らしげに「AUTECH」のプレートが組み込まれている。それすらもチープなシールやプリントであるわけなく、立体感のあるエンブレムなのである。
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デザインには落ち着きがある。面を捻ったり、突起を畝らせたりすることがない。線と面はシンプルでありながら、抑揚が効いている。これを上質というのだろう。
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AUTECHがブランドとして成立しているのはストーリーがあるからだ。今回試乗車に選んだオーロラフレアブルーパールは、AUTECHブランド発祥の地である湘南・茅ケ崎の「海」と「空」をイメージしている。特徴的なフロントグリルは、海面の煌めきを感じさせる。陽の光を受けてキラキラと眩く水面を想像させる。
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専用17インチアルミホイールは、海の中に差し込む光を表現しており、伸びやかなスポークは大径のエネルギーを強調している。前後のメタル調フィニッシュの専用プロテクターは打ち寄せる白波であろう。湘南ブルーに光るLEDには、海面に船が描いた航跡波の模様がほどこされているのだという。アフターパーツを寄せ集めただけのカスタムではまったくなく、AUTECHブランドの思いが込められているのである。
クルマの上質さは走りにも反映され、小さな高級車らしくしなやかに駆け抜ける
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走りもとても上質だ。オリジナルのオーラと技術的な変更点は少ないが、そもそもオーラの走りはスポーティでかつジェントルに振る舞う。
サスペンション系の剛性感に抜かりはない。ともすれば高級感を船のようなフワフワな乗り心地は誤解している御仁もおられるかもしれないが、それとは対極にある。ショックアブソーバの減衰力は低速域から曖昧な感覚なく仕事をしているから、不快な上下動を規制してくれている。鍛え上げられたアスリートの足腰のように、しなやかでありながら締まっているのだ。
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川越から四万温泉までは、関越道をひたすらハイスピードで移動した。直進安定性にブレはなく、ステアリングに添えた手に力を込めることなく突き進む。ホイールベースは2580mmだ。コンパクトモデルとしては余裕があるものの、ビックセダンと比較して長いわけもなく。それゆえに心配された高速安定に関しての不安は杞憂に終わったことには驚かされた。
天候は急激に悪化したものの、安定性には1点のくもりがなかったのが驚きだ。雨粒が視界を制限したというのに、路面に吸いついたまま直進した。ただ普通に直進することすら怪しいほどの豪雨にも祟られたが、疲労感が増すことはなかった。
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それでいて、ステアリング応答性が確かなのも印象的だった。ステアリングを握った手を、指にして2本分ほど切り込んだ瞬間からすでに、ヨーゲインが確認できる。微小な舵角から旋回挙動が得られるのは、ショックアブソーバの反応の良さの証明だろう。スタビライザーの効きも効果を発揮している。やや強引にコーナーに飛び込んでも、不快なロールに陥ることはまったくない。まるでスポーティカーであるかのように、姿勢をフラットに保ってくれた。
e-POWERならではの、大人の余裕を感じさせるドライビングフィールで走り続ける
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オーラはそもそも、ライバルに比較して操縦安定性の高さに特徴がある。特にオーラ AUTECHになると、内外装のブレミアムフィールに一家言ある。オーラ AUTECHは都会の高級ホテルのエントランスに乗り付けても様になる。そんな高級感を備えている。アーバンハッチバックではいるのだが、ベース車両となるオーラの走りの切れ味が想像以上に備わっていることを知って感心した。プレミアムモデルは走りの性能を得てはじめて成立するのである。
同様に、e-POWERの力強さは頼もしい。搭載するエンジンは駆動輪と直結しておらず、あくまで発電機として機能に留める。そこで得た電力を頼りにEV走行するのだ。つまり走りはEVのそれだから、レスボンスは驚くほど鋭い。内燃機関はもちろんのこと、一般化的なハイブリッドの低速域の鈍さとは別次元にあるのだ。
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エンジンは直列3気筒なのに、チープな振動やサウンドとは無縁だったことにも驚かされた。電力補充のために頻繁にエンジンは始動と停止を繰り返すが、走行中にエンジンの存在を感じることは、エネルギーモニターで確認しなければ感じられなかった。それほどエンジンの回転フィールも上質なのだ。
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内外装のデザインや上質なフットワークだけではなく、直列3気筒1.2リッターエンジンですら、「小さな高級車」であり続けてくれ、日本の和の侘び寂びを感じさせる高級モデルが存在していることが誇らしい。小江戸の街並みや老舗旅館でもオーラ AUTECHは存在感を披露した。
撮影中に驚くほど多くの観光客の視線を浴びつつけたことが、何よりもその証明だろう。オーラ AUTECHの個性は、日本の伝統建築や街並みにも負けていなかったのだ。オーラ AUTECHがあれば、どこへいっても日常がグレードアップする、小さな高級車という枠に留まらない魅力的な1台に違いないだろう。
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実は、先日発表された『オーラ AUTECH』のスポーティグレード「AUTECH SPORTS SPEC」(オーテックスポーツスペック)に、一足お先に試乗する機会があった。オーラ AUTECHでも高い走りの質感を感じたが、スポーツスペックになると専用チューニングが施され、より一層走行性能に磨きがかかったことで、より爽快なドライブフィールを体感できた。今後、スポーツスペックが様々な車種に展開されることを期待したい。
“小さな高級車”が醸す余裕と品格、日産『オーラ AUTECH』の詳細はこちら