【ホンダ フィットクロスター 3400km試乗】EVリーフに遜色ない応答性は正直「すごい」[後編]

フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のフロントビュー。バンパー形状の違いにより全長は4mをわずかにオーバー。またオーバーフェンダー装着で全幅はわずかながら1.7m超の3ナンバーサイズ。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のフロントビュー。バンパー形状の違いにより全長は4mをわずかにオーバー。またオーバーフェンダー装着で全幅はわずかながら1.7m超の3ナンバーサイズ。
  • 無塗装プロテクター風のアンダースカートが特徴的だったフィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のリアビュー。改良型はシルバーのアンダーガード風の加飾になった。
  • ボンネット下には1.5リットル+2モーターのシリーズハイブリッドシステム、e:HEVが収まる。
  • バックドア上のe:HEVエンブレム。従来は「i-MMD」という名だったが、2020年のフィット以降、順次e:HEVに改められている。
  • 185/60R16サイズのダンロップ「エナセーブEC300+」。エコタイヤを非常に上手く履きこなしており、乗り心地は上々だった。
  • ボディ下面。現代のモデルらしくフラットボトムに仕上げられていた。
  • e:HEVクロスター4WDの燃費は悪くはないものの、ロングランでは『アコード』『インサイト』など、より重量の大きい上級モデルに負ける結果となった。
  • エンジンカバー上の「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」エンブレム。現在このネーミングはフェードアウト中で、改良型では外されているという。

ホンダのBセグメントクロスオーバー『フィット e:HEVクロスター 4WD』(改良前モデル)での3400km試乗レビュー。前編では総論およびシャシー性能についてお届けした。後編では動力源であるハイブリッドシステム、e:HEVのパフォーマンスから述べていこう。

◆日産リーフに遜色ない応答性のよさは正直「すごい」

ボンネット下には1.5リットル+2モーターのシリーズハイブリッドシステム、e:HEVが収まる。ボンネット下には1.5リットル+2モーターのシリーズハイブリッドシステム、e:HEVが収まる。

e:HEVクロスター 4WD(以下クロスター)のパワートレインは動力部はFWD前輪駆動)と共通。1.5リットルミラーサイクルエンジンで発電機を回し、駆動用電気モーターで車輪を回すシリーズハイブリッド運転を基本とし、一定速度以上になると巡航や緩加速などエンジンの動力を使ったほうが効率が高い軽負荷時はエンジンを直結状態にして電気モーターがそれをアシストするパラレルハイブリッド運転を行う。いわゆるシリーズ・パラレル方式の一種だが、変速機を持たず、エンジンを直接駆動に使うシーンが限定的であることに鑑みると、パラレルモード付きのシリーズハイブリッドという感じである。

試乗車のスペックは駆動用電気モーター出力が最高出力80kW(109ps)、1.5リットルエンジンの最高出力が72kW(98ps)。この性能は9月のマイナーチェンジでそれぞれ90kW(123ps)、78kW(106ps)へと引き上げられている。さて、その前期型のパフォーマンスだが、応答性、スムーズネス、静粛性については素晴らしかった半面、トータル燃費や動力性能は期待値を下回った。

普通に乗っているぶんにはファミリーカーとしてもツーリングカーとしても申し分ない。電気モーター、インバーター、エンジンのいずれもノイズはきわめて小さく、動作も滑らかだった。スロットルを踏み込んで発進したときに特徴的だったのはアクセルペダルを踏んでから実際にクルマが反応するまでのタイムラグの小ささで、スロットルを狙ったところまで踏み込む途中ですでにクルマが加速を始めるくらいのリアルタイムぶり。その応答性の良さは過去の長距離試乗の経験に照らし合わせると日産自動車のBEV(バッテリー式電気自動車)『リーフ』の40kWh版に遜色ないレベルで、正直すごいと感じた。

エンジンカバー上の「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」エンブレム。現在このネーミングはフェードアウト中で、改良型では外されているという。エンジンカバー上の「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」エンブレム。現在このネーミングはフェードアウト中で、改良型では外されているという。

人間の脳はクルマのクセを覚え込んで感覚を補正するので普段はあまり意識することがないのだが、応答性の良し悪しはクルマによって結構な差がある。それが最も顕著に出るのは0-100km/h加速で、スロットルを踏んだ瞬間から実測100km/hまでのタイムを映像でタイムスケール解析した数値とクルマが動き始めた瞬間から計測するGPSロガーの数値のズレはクルマによってまちまち。ホンダはそこへのこだわりがよほど強いのか、ハイブリッドやBEVに限らずエンジン車でもそのタイムラグが異常に短い。クロスターもご多分に漏れずという感じであった。

応答性の良いクルマは乗っていて気分がいいし、登坂車線ありの急勾配で低速車に追い越しをかける時などもタイムラグを考慮せずアクセルペダルをバーンと踏むだけで自在にクルマをコントロールできる。これは加速タイムもさぞや速いのだろうと思いきや、クルマが動き始めた瞬間から実測100km/hまでをGPSロガーで計測したタイムは10秒2と、重量がかさむAWD車であることを考慮しても予想外に振るわない結果であった。

このタイムは1.5リットルミラーサイクル+DCTの1モーターパラレルハイブリッドだった第3世代に2秒以上の後れを取るもの。第3世代は電気モーターとエンジンの合成出力値が101kW(137ps)もあったので、負けても致し方ないというものだろう。が、最高出力が85kWh(116ps)とクロスターより少し高いだけの日産『ノート』の電動AWDに3秒差をつけられたのは完敗。タイム差の多くが0-50km/hで生まれていたことから、ノートは前後の電気モーターでいきなり4輪にフルパワーを叩きつけられるのに対し、クロスターは前輪主体で加速するという駆動方式の違いが速さの違いにつながったのだろう。FWD同士の対決であればクロスターは車両重量が軽いぶんより速く、ノートは過渡領域のトルクが落ちるぶんより遅くなるので、両者の差は大きく縮まるものと推測される。

冒頭で述べたようにフィットシリーズのe:HEVは9月のマイナーチェンジで12.5%ものパワーアップが図られた。これはおそらくユーザーズボイスで動力性能についてのコンプレインを汲み取ったことと、販売不調を商品力強化で何とか改善しようという意図によるものだろう。そのパフォーマンスもいずれ試してみたいと思うところである。

◆燃費性能は期待を下回った

山口県ののどかな田園風景の中を行く。山口県ののどかな田園風景の中を行く。

次に燃費。まず、満タン法による区間実測燃費を列記してみる。

東京・葛飾~愛知・幸田 348.6km 23.1km/リットル
首都高、東名高速と国道1号線バイパスを混走。平均車速中庸。

愛知・幸田~福岡・門司 779.6km 22.8km/リットル
大阪以西は山陽道と一般道併用。一般道では渋滞あり。

福岡・門司~鹿児島市 359.3km 21.0km/リットル
熊本までは山岳路中心、熊本以南は高速主体。平均車速高。

鹿児島エリア 355.7km 17.9km/リットル
市街地8、高速2の割合で走行。渋滞多くトータルの平均車速18km/h。

鹿児島エリア~福岡・門司 726.6km 20.2km/リットル
鹿児島エリアと長距離が半々。鹿児島では前回より郊外路の比率が高かった。

福岡・門司~岐阜・海津 770.8km 22.7km/リットル
日本海側の山陰道回り。平均車速やや高。

岐阜・海津~神奈川・厚木 367.1km 24.8km/リットル
途中給油した浜松までは22.6km/リットル。その後の200kmはエコランで26.8km/リットル。

経済性についてはハイブリッドAWDとしては十分にリーズナブルと言える。動力性能ではノートに後れを取ったが、燃費では全般的に優越していた。が、実はこの燃費は事前の期待値を下回るものでもあった。

e:HEVクロスター4WDの燃費は悪くはないものの、ロングランでは『アコード』『インサイト』など、より重量の大きい上級モデルに負ける結果となった。e:HEVクロスター4WDの燃費は悪くはないものの、ロングランでは『アコード』『インサイト』など、より重量の大きい上級モデルに負ける結果となった。

筆者は第3世代フィットのパラレルハイブリッドi-DCD前期型でも東京~鹿児島ツーリングを行っているが、その時には山口・下関から神奈川・相模原まで1027kmを無給油で走り切り、区間燃費は27.2km/リットル。また2モーターの旧型『アコードハイブリッド』前期型では鹿児島から東京まで1400km強を無給油で走破し、燃費は25.7km/リットル。同じく第3世代『インサイト』では兵庫・豊岡から静岡・浜松までの400km区間で28.4km/リットルを記録した。筆者はもともと堪え性がなく、エコランは苦手である。いずれも燃費向上に血眼になるという感じではなく、クルマの運動エネルギーを無駄に浪費しない、言い換えればブレーキを多用しないですむ運転をするという程度でこのくらいの燃費は出せていた。

クロスターとそれらのモデルの最大の違いはFWDかAWDかという点だが、ホンダのAWDがそんなに引きずり抵抗が大きいとも思えなかったので、パワートレインとの相性があるのだろうか。ホンダの沽券にかかわる問題なので、オンロード燃費はもう少し伸ばしたい。ちなみに9月の改良でe:HEVクロスター4WDのWLTC総合値は24.0km/リットルから24.2km/リットルへとわずかながら向上した。オンロードではさらに改善されていることを期待したいところである。

◆パッケージングヲタクではないかと思うほどの空間設計

ドア開放の図。乗降性が良く、タウンユースでも利便性の高さは傑出したレベルだった。ドア開放の図。乗降性が良く、タウンユースでも利便性の高さは傑出したレベルだった。

クロスターのパッケージングはノーマル車高のフィットと同一。第4世代フィットそのものがパッケージングヲタクではないかと思うくらいの空間設計を持っていることもあって、居住感、使い勝手とも大変良いものであった。

居住区は前後席とも十分な広さ。Bセグメントサブコンパクトは通常、前席優先のパッケージングがなされるが、クロスターとノートはファーストカーとして使えるだけの後席スペースとシート設計を持つ。グラスエリアが広く、視界、採光性も良好。後席はヒップポイントが高く取られたシアターレイアウトで、そこからの眺望の良さは低車高Bセグメント随一だった。

収納もミニバンモデルほどではないが充実している。ドアポケットの容量は十分であるし、助手席側ダッシュボードにはフタつきの収納ボックスが備わる。運転席、助手席のドア側には牛乳パックサイズまでの容器が立てられるドリンクホルダーが設置されており、それも便利だ。

後席の足元空間は広く、ヒップポイントの高さや前席ショルダー部のそぎ落としなどのおかげで眺望も非常に良かった。後席の足元空間は広く、ヒップポイントの高さや前席ショルダー部のそぎ落としなどのおかげで眺望も非常に良かった。

空間設計と並ぶ美点はドア開口部の設計。後ドアの長さは同クラスの中で最長。またドア開口部の上端もボディ剛性とのバランスが取れるギリギリの高さまで攻めており、後席への乗り込み性もBセグメントとしてはナンバーワン。これらの実用性重視の設計は実に行き届いていた。

難点は居住区ではなく荷室にある。フィットといえば初代から室内だけでなく貨物の収容力もすごいということを売りにしてきたが、ハイブリッド+AWDの場合、荷室の床下がハイブリッドシステムと駆動ユニットの両方に陣取られているため狭く、荷室形状もあまり良いものではなかった。荷室の広さを求めるならVDA方式で427リットルもの容量を持つガソリンFWDに尽きる。e:HEVでもFWDなら340リットルはあるので、今回のAWDよりは広く使える。ただしAWDでもノートのAWDと互角。トヨタ『アクア』、同『ヤリス』、マツダ『マツダ2』、スズキ『スイフト』よりは余裕があるので、大荷物を積む機会がないのであれば大きな問題にはならないだろう。

◆クロスオーバー的な雰囲気づくりは…

運転席側からダッシュボードを撮影。表に出す機能を絞るシンプルさは個人的には大いに好感を持ったが、惜しむらくは質感の出し方が雑。運転席側からダッシュボードを撮影。表に出す機能を絞るシンプルさは個人的には大いに好感を持ったが、惜しむらくは質感の出し方が雑。

このように機能設計はバッチリなのだが、クロスオーバー的な雰囲気づくりという点については成功しているとようには到底思えなかった。前編の総論でも触れたが、シート生地は撥水タイプ、ステアリングはプラスチック製で、アウトドアで雨に降られたりウォータースポーツを楽しんだ後でも気軽にクルマに乗り込める仕様にしている点は素晴らしい。

問題はそういった仕様策定ではなく、ボロ臭く見えるという点。シルバーと黒のシート生地は新興国製の安物ジャージみたいに見えるし、プラスチックハンドルの触感もBセグメントの中ではビリだと思う。世界のメーカーがシボの与える感触など官能品質の研究に心血を注いでいる中、ホンダの同分野の研究はかなりの後れようだ。別に素材そのものをケチっているわけではないのにみすみす安物に見えてしまうというのは失策というほかない。

作り手が自分で欲しいと心から思うようなクルマづくりをやってほしい。同じホンダ車でもそういう気持ちが出ているモデルがないわけではないので、やればできるはずだ。また中国版フィットである『ライフ』にはサンルーフが存在する。グラストップとは言わないまでも、それを日本モデルにも用意するくらいの遊びゴコロがあってもよかった。これらは9月のマイナーチェンジでも変わることがなかったので、次のマイナーチェンジがあるのなら変化を期待したい。

◆まとめ

俵山温泉の旧市街を行く。俵山温泉の旧市街を行く。

クロスターはパッケージング、ユーティリティに優れ、平滑な乗り心地やまったりとした操縦フィールなど動的質感もフィットシリーズ、ひいては国産Bセグメント随一の良さという長所を持ちながら、オーナーを嬉しい気分にさせるような良いモノ感、クロスオーバーモデルならではの野趣の演出をまるっきり欠くという弱点がその足を引っ張るという、何とも悩ましいモデルだった。

使う喜びに極度に寄り、所有する喜びはおざなりにされているという特質は、良く言えば人目を気にしない質実剛健のデキるヤツだが、悪く言えば自己アピールに尻込みする陰キャだ。大衆車クラスのクロスターは本来、分かる人、好きな人だけに売れればいいという立場のクルマではない。商品の特質や企画の意図をもう少ししっかり表現すれば化けるかもしれなかったのにと思うと惜しい気がする。

そんなクロスターはどういう顧客に向いているのだろうか。クルマの格好、質感はどうでもいいから小型で快適なロングツーリングのギアが欲しいという人には鉄板でおススメできる。不整路面や路盤の継ぎ目を終始柔らかな当たりでいなしながらゆるゆると巡航する走行フィールは遠乗りの嬉しさを2倍にも3倍にもすることウケアイである。またシートは撥水クロスだし、ステアリングは拭けばすぐに綺麗になる樹脂製だしと、アウトドアレジャーにも向いている。

刺激性は薄いのにドライブに全然飽きない。不思議な感覚のクルマだった。刺激性は薄いのにドライブに全然飽きない。不思議な感覚のクルマだった。

では、それ以外のユーザーにとってはどうか。本編でも述べたように、乗り心地の良さを求めるならクロスオーバーモデルに興味がないとしても、実はクロスターがイチオシだ。9月のマイナーチェンジでルーフレールが標準になるなど普通に乗るにはオーバーデコレーションのきらいがある一方、選べる外装色は劇的に減ってしまったのは寂しいところだが、ルーフをブラックに塗り分けないモノトーンであれば純粋なシティカーとして使ってもそう違和感はないだろう。コストパフォーマンス追求派、装備充実派、お値段オリエンテッド派のユーザーについては、ノーマル車高のモデルを選んだほうがいいだろう。

最後にパワーソースと駆動方式の選択について。9月のマイナーチェンジで純エンジングレードのユニットが1.3リットルから1.5リットルに変更された。変更時にかなりの値上げが行われたが、e:HEVとの価格差はFWD、AWDとも1.3リットル時代と同じく約35万円とかなり大きい。アイドリングストップが落とされてしまったのは残念だが、エンジン出力は72kW(98ps)から87kW(118ps)へと20.8%も増強されたことを考えるとこれは意外とおトクかもしれない。

ただ、第4世代フィットのシャシーはガソリン車よりe:HEV車のほうが全般的に滑らかなので、より高い快適性を求めるならやはりe:HEVだろう。普通に走るならばFWDで十分だし、ショートテストドライブの経験を思い返すに燃費ももちろんFWDのほうが良い。が、今回のドライブ中に暴風雨レベルの悪天候に遭遇した時も安定性が高いレベルで保たれたことを考えると、より高い安心、安全を求めるならAWDで決まりだ。

夕暮れの桜島をバックに記念撮影。鹿児島市心部は渋滞全国ワースト1、その周囲はこのような小高い丘だらけと、燃費には非常に厳しい環境。夕暮れの桜島をバックに記念撮影。鹿児島市心部は渋滞全国ワースト1、その周囲はこのような小高い丘だらけと、燃費には非常に厳しい環境。
《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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