製品、戦略、開発力、インフラなどさまざまな視点からEVのこれからについて、モータージャーナリストの岡崎五朗氏が語るインタビュー連載企画「EV新時代到来」。第一回では、“日系メーカーのEV戦略は「出遅れていない」その理由”と題して日系メーカーがこれまで進めてきたEV戦略について語った。第二回目の今回は、各社が開発中のEVや実際に市場に投入しているモデルに注目する。
EV開発においては、欧州・中国などと比べて遅れをとっているといわれていた日系メーカーだが、その認識は覆されようとしている。日系メーカーが強みとする技術蓄積をベースとした車両開発に加えて、新たなカテゴリーとして軽EVへの期待も高まっている今、攻勢を強めている日系メーカーの取り組みに迫る。
『bZ4X』に見るトヨタの見識

----:まずは今年のEVラッシュの中でも目玉車種といえるトヨタ『bZ4X』です。スバルの『ソルテラ』と基本部分はほぼ共通のクルマで、スバルの開発メンバーがトヨタに出向いて開発されたとのことですが、このあたりにクルマとしての特徴があるのでしょうか。
岡崎五朗氏(以下敬称略):そうですね、スバル色がとても強い車だと思います。そして、これは良いところ悪いところあるのですけど、最低地上高を210mmも取っています。そのために、リアの着座位置に対する床が少し高くなってしまうのですが、そういうところを犠牲にしてまでも、210mm取っています。僕は180mmくらいでいいんじゃないかと思うんですが、そこにこだわるのがスバルなんです。
---:開発体制はどちらかというとトヨタ寄りなのかと思っていたのですが、かなりスバルの思想が反映されたということですか。
岡崎:はい。トヨタはこれまでマツダともアライアンスを組んだりしていますが、他のブランドと組んだ時に、自分たちの価値観を押し付けないところが共通認識として現場に浸透しているようです。他にもスバルのノウハウをちゃんと活かしていて、スタックした時に脱出するX-MODEが付いていますね。
それから一番の個性は、テスラみたいにドカンと速くないことです。
---:と言いますと…
岡崎:前輪駆動モデルと同じモーターを四駆モデルにも付ければ、もっと速くはできるはずなんですけども、それを敢えてしていません。四駆モデルは、わざわざフロントのモーターを小さくして、リアのモーターと同じにしています。前輪駆動のモデルが100馬力だとしたら、後ろに同じをモーター付ければ200馬力になりますが、この四輪駆動のモデルはフロントも出力を抑えています。
これは、普通の人にひと踏み0-100km/h加速4秒なんていう車を与えて本当にいいのかという点で議論すべき問題です。僕はやめた方がいいと思いっています。例えばGRバージョンを出して「これは速いですよ」と言うのだったらまだ分かります。スポーツカーとして作っていますし、値段も高いですから。トヨタは、その辺りの見識を持ってやっているんだと見ています。
本来は大きいモーターを積めばいいのに、それはあえてやらない。手間をかけてまで、前輪駆動モデルと四駆モデルでほぼ同じ動力性能にしています。中にはつまらないと言う人もいますが、僕はこれにはそういう理由がきっとあったんだろうと思っています。

---:販売はKINTOでのサブスクのみという形になりましたが、これについてはどうお考えですか。
岡崎:トヨタが言うには、バッテリーEVが中古で下取りになる時にいくらになるのかが見えないためだと。もし中古価格がかなり下がってしまったら、顧客に迷惑が掛かることを気にしているようです。最初なのでそういう方法を選んでいるのですが、そこは非常に慎重ですね。
EVはサブスクと親和性が高く、向いているのではないかと感じています。スウェーデンの方が言っていたのですが、急速充電を繰り返すとバッテリーがへたりますよね。そうなると、自分の車の場合は「今急速充電しておきたいけれど、ちょっと我慢して家で充電しよう」などと気を使うことになります。こういった気を使わなくていいように、EVはサブスクで買う人が多いらしいです。4年縛りなどがあったりして使い勝手は良くないのですが、そういう考え方もわかります。