EVのこれからについて、製品、戦略、開発力、インフラなどさまざまな視点からモータージャーナリストの岡崎五朗氏が語るインタビュー連載企画「EV新時代到来」。今回は、近年勢いを増す韓国勢からヒョンデの動きに焦点を当てます。
ヒョンデといえば、昨年日本に再上陸を果たしたことで大きな話題となりました。現在は北米や欧州での販売が好調とのことですが、その背景とこれまでも度々問題となっていたバッテリー面での課題に迫ります。
マーケティングに長けたヒョンデとキア
---:2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーではEV(電気自動車)『アイオニック5』が「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しましたが、ヒョンデの現状はいかがでしょうか。
岡崎五朗氏(以下敬称略):ヒョンデやキア、プレミアムブランドのジェネシスも何台か乗っていますが、ここ数年の韓国車の出来は素晴らしいですね。日本に参入したばかりの頃のヒョンデとはまるで違うメーカーになっている。単に安くて売れているわけではなく、車の魅力で売れていますね。
ヒョンデの小型クロスオーバーSUV『コナ』にも乗りましたが、EVとしてはそんなに静かでもなく速くもなく、内装が素晴らしいわけでも外観がかっこいいわけでもないけれど、値段を考えるとあまりこだわらない人はこういうのを買うのかなと思いました。
---:ライバルがいないのもポイントですよね。あの価格帯でちゃんとディーラー網があって、しかも人気のSUV。日産『リーフ』がSUVだったらもう少し売れていたかもしれないですけど、そこでSUVを出してくる企画のうまさがありますね。
岡崎:それはあると思います。一方で、アイオニック5というのはコナとは正反対の、テスラの客を奪ってやろうというモデルで、それができてしまうのも素晴らしいですね。デザインも今まで見たことがない感じじゃないですか。ハッチバック的だけれども、SUV的でもあり、無国籍な感じで都会的で、ユニークで、中も広いということで、なんだかうまいなと思います。
デザインに対する投資や理解は日本を超える
---:既存のOEMの中では非常に上手くやっているなと感じます。
岡崎:トヨタ『bZ4X』や日産『アリア』と比べても、「おっ?」という感じがあるじゃないですか。好き嫌いはあるけれども、目を引くようなデザインを出してくる。おそらくあのようなデザインを出すのは、メーカーのトップがそういうマインドをもっていないとできません。「これはちょっと変だぞ」とか、「もっと普通にしてくれ」というような空気が社内にないということです。
ヒョンデのデザインのトップは以前ベントレーにもいらっしゃったそうで、デザインに対して真摯に取り組んでいる感じがあります。そして、ヒョンデグループのキアの社長はペーター・シュライヤーといって元々はアウディのデザイナーだった人です。私も彼にインタビューをしたことがありますが、ヨーロッパの優秀なデザイナーを連れてきて社長にしてしまうくらいデザインに対する投資や理解が進んでいるということです。
加えて、韓国人のデザイナーは優秀です。カリフォルニアにアートセンター・カレッジオブデザインというプロダクトデザインの名門校がありまして、日本人はほとんどいない一方で韓国人留学生はかなり多いらしいですよ。だからGMのデザインスタジオに行っても、日本人は1、2人しかいないけど韓国人は何十人もいるという。韓国はデザイン大国になりつつありますね。
---:もともと美意識が高いということでしょうか。
岡崎:多分そうだと思います。美意識や美的センス、デザインに対する理解は日本を超えているので、かなりの脅威ですよ。日本のメーカーは、デザインを尖らせると顧客からのウケが悪いと思って丸めてしまうようなところがあるじゃないですか。そこを超えているということが、韓国の車を買うユーザーたちのデザインリテラシーが高いとも言えるわけですよね。
ただ、アイオニック5は乗りましたけど、出来は普通です。そこまで素晴らしいものではない。多分ハンドリングや乗り心地でいえばbZ4Xの方がいい。そういう意味では、1つの選択肢にもなるが、bZ4Xや『ソルテラ』、アリアと比べるとどうだろうか? とは思います。
サービス体制の未成熟度からいえばテスラと同じくらいなので、テスラとアイオニック5で悩む人が多いのだと思います。
充電性能と火災のリスクはトレードオフ
---:かなりの台数のEVをきちんと作れるのも強いですね。
岡崎:そうですね。韓国にはバッテリーメーカーが数社あって、LG化学、サムスンSDI、SKイノベーションが積極的に投資をしています。しかし、ここで私が懸念しているのは、ヒョンデの車にも使われているLGのバッテリーが燃えすぎだということです。