【トヨタ カローラスポーツ 450km試乗】前席重視で“ど真ん中”を外した作りのメリットとデメリット

トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのフロントビュー。
  • トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのフロントビュー。
  • トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのリアビュー。
  • トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのフロントフェイス。トヨタの新世代デザイン言語「キーンルック」の流れを汲んでいるが、欧州主体のモデルのためかシックに仕上がっている。
  • トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのテール。走行性能確保のためのワイドトレッド化が見て取れる。
  • トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのサイドビュー。
  • ボディのラインは結構複雑。
  • 一見異形なれど、その実結構精悍なイメージ。
  • 床下にはディフューザーなどは設置されず、基本設計段階で底面のフラット化を徹底させることで空力特性向上をはかったことが見て取れる。

トヨタ自動車の世界戦略モデル『カローラスポーツ』を450kmほど走らせる機会があったので、インプレッションをお届けする。

カローラスポーツは欧州市場をターゲットとするCセグメント(フォルクスワーゲン『ゴルフ』クラス)モデル。トヨタはカローラを欧州でも販売していたが、2世代にわたって『オーリス』という名称に変更。2018年にデビューしたこのモデルでカローラ名に戻したという経緯がある。

Cセグメントはクラスとしてはコンパクトだが、全幅は1790mmと、日本の5ナンバーサイズよりずっと広い。欧州は昔は車幅の狭いモデルが多かったが、今は多くの都市の旧市街地の大半が一方通行化されたため、ナローボディのニーズが激減。そこを主戦場とする以上、1.8m級になるのはライバルに対抗するうえでは致し方のないことと言える。その日本でもデビュー以降、そこそこ調子よく売れているのを見ると、日本でも幅広に慣れたドライバーが増えてきたのだなと思うところである。

試乗車はハイブリッドパワートレイン搭載のスポーツグレード「Z」。オプションとして路面状況に応じてショックアブソーバーの減衰力を変えるアダプティブサスペンション「AVS」、ヘッドアップディスプレイ、カーナビ等々多くのデバイスが追加されており、参考価格は300万円台中盤という立派なもの。

今回のドライブルートは東京を起点とした伊豆半島周遊コースで、総走行距離は464.9km。道路比率は市街路3、郊外路3、高速2、山岳路2。全区間1名乗車、エアコンAUTO。

では、カローラスポーツの長所と短所を5つずつ挙げてみよう。

■長所
1. サスペンションを一番ハードに設定した時のクルマの動きはエクセレント。
2. 薄いスポーツタイヤを装着しているわりには静か。乗り心地も良い。
3. 良好至極な経済性。山岳路走行を含んでも燃費の低落は限定的。
4. トヨタの新世代「キーンルック」デザインの中ではかなり落ち着いた印象の外観。
5. 十分なパフォーマンスの運転支援システム。

■短所
1. クルマの動きの良さをスポイルするインフォメーションの希薄さ。
2. ハイブリッドパワートレインがクルマのキャラクターに対して非力。
3. 後席が狭く、リアドア開口角度、開口面積も小さい。荷室も狭い。
4. 採光性とトリムカラーの合わせ技で室内が暗い。
5. 車内の収納スペースが不足気味。

トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのリアビュー。トヨタ カローラスポーツ ハイブリッドG Zのリアビュー。
カローラスポーツはドライバーズカーとしてはなかなか優秀なクルマだった。走りは十分に良く、快適性は高く、経済性の面でも十分に優れていた。とくに走りについては、感覚的には旧型に相当するオーリスの倍もいいという印象。今回は450km走ったにすぎないが、1人ないし2人乗車主体であれば、これよりずっと遠くまで旅をするのも苦ではないであろうという感触はあった。

一方で、ファミリーカーというくくりで見ると、後席および荷室のスペース、およびリアドアから車内への乗り込み性など、多くの点で難点が見られる。とりわけ後ドア開口部の狭さについては追って発売されたセダン、ステーションワゴンも同様だ。これを絶対的に悪いことと言うつもりはない。トヨタは意図的に前席重視で“ど真ん中”を外した作りにしたのであろうし、主戦場の欧州市場でオーリスの実績を大幅に上回る販売実績を記録しつつあるのを見るかぎり、そのマーケティングは当たりと言っていいだろう。

欧州市場をターゲットに煮詰めた走り

では、具体的なインプレッションに移る。シャシー・ボディはトヨタの新世代工法「TNGA」によって作られているが、このシステムを初めて使った2015年の『プリウス』前期型や翌年のSUV『C-HR』前期型に比べると、ずいぶん手馴れてきたという印象を抱いた。

伊豆半島には中高速コーナーが連続する伊豆スカイライン、道の悪い西伊豆スカイライン、また半島の山岳部を横断する峠など、いろいろな種類の山岳路があるが、どの道でも基本的に低重心設計を生かした安定感の高い動きを見せ、少なくとも爽快に走るレベルの速度域では「これはどうかな」と思うような動きはほとんどなかった。

とくに素晴らしかったのはコーナー出口で深いロールから元の姿勢に戻るときの揺り戻しの小ささで、欧州市場をターゲットに煮詰めた感じが伝わってきた。タイトターンでちょっと前輪のかかりが弱いきらいがあったが、軽くブレーキを踏んでやれば解消する。試乗期間中は好天に恵まれたため逆境は試せていないが、基本的には高速クルーズの安定性も良好だった。

225/40R18という極薄サイズのダンロップ「SPORT MAXX 050」を装着。225/40R18という極薄サイズのダンロップ「SPORT MAXX 050」を装着。
前述のように試乗車には電子制御可変ショックアブゾーバーAVSが装着されていた。これは路面状況や運転状況に応じて減衰力を段つきなしに連続可変させるというなかなかのハイテクデバイス。モードはソフトからハードまで5段階あるが、セッティングの煮詰めが一番良いのは断然、一番固い「スポーツS+」モード。クルマの動きはこれが一番落ち着いており、動きがビシッとする。乗り心地も突き上げがしっかり抑制されており悪くない。

それに対してソフト側はあまり冴えない。柔らかくはなるがハーシュネスは大して変わらず、ピッチング(縦揺れ)が強まってフラット感が損なわれるという感じであった。ひととおり試した後は市街地も含めずっとスポーツS+に入れっぱなしで走った。

クルマの動きそのものが良かったのに対し、あまり良くなかったのはクルマの動きの身体への伝わり方。ステアリングインフォメーション、シートからの情報伝達とも希薄で、操縦感覚はちょっとデジタルライクだ。コースを熟知した峠道やサーキットなどでは問題にならないであろうし、マイカーにしてクルマの能力が完全につかめてきたらスピードと走行ラインの相関性を見ることで十分補完できるであろうが、欲を言えばタイヤがスキール音を立てる前の微妙な滑りが感知できるようなセッティングが欲しい。

欧州の2リットルハイブリッドも欲しくなる

ボンネット全景。ハイブリッドシステムもずいぶんコンパクトになったものである。ボンネット全景。ハイブリッドシステムもずいぶんコンパクトになったものである。
パワートレインはプリウスと同じ合成最高出力122psの1.8リットルハイブリッド。世界の先進国の中でも一般道の制限速度がブッチギリに日本の速度レンジではこれで何の不足もない。が、スポーツタイヤを履いたカローラスポーツのハイグレードにそれらしい雰囲気を与えるにはいささか能力不足という感も否めなかった。

わずかに登り傾斜がついた高速道路のバリアで加速を計測してみたが、静止状態でアクセルをドンと踏んだ瞬間からGPS計測100km/h(メーター読み107km/h)までのタイムは11秒8と平凡。これはこれでいいので、上に欧州で用意されている高出力型の2リットルハイブリッドも設定されるといいのではないかと思った。

実測燃費は高速および山岳路を結構な高負荷で走った区間が17.8km/リットル、渋滞を含んだ市街地および郊外路を普通のペースで走った区間が23.1km/リットル。山岳路でもエコモードでのんびり走ればはるかに燃費を伸ばすことは可能であったろう。可変サスペンションとパワートレインの制御を別々に設定できればいいのにと思った。

後席、荷室が難点だが

運転席まわりのスイッチ類は少なめ。運転席まわりのスイッチ類は少なめ。
居住感、ユーティリティに話を移す。まず、前席の居住性は良好。ダッシュボードやセンターコンソールはかなりみっちりとデザインされ、運転席は適度に囲まれたコクピット感があった。風切り音も少なく、最新の技術で作られたCセグメントという雰囲気は十分に持ち合わせていた。

シートのつくりは標準的。タッチが良いというわけではないが、シートバックや座面のサイドサポートがそこそこあり、拘束性の弱さと山岳路などでの最低限の耐G性の両立は十分と言えそうだった。メーター、カーナビの視認性も悪くない。難点は小物入れが少なく、ロングツーリングのときには整理に一工夫必要そうなことくらいか。

リアドアの開口角度は小さめで、開口部上端もかなり低い。リアドアの開口角度は小さめで、開口部上端もかなり低い。
前席に対して良くなかったのは後席。まずレッグルームが不足しており、絶対的に狭い。また、ドアの開閉角が小さいうえにドア開口部の上端がかなり低く、狭い入口をくぐるように乗り込むような感じになる。今回は終始1名乗車だったためドライブ感を試すことはできなかったが、座ってみたかぎり前方視界もあまり良いとは言えなかった。

欧州モデルのCセグメントで後席レッグルームが狭いと言えば、プジョー『308』ハッチバックの例がある。が、308はそれと引き換えに、カーゴスペースの奥行きが豊かという特質を持っていた。ではカローラスポーツはどうかと思って見てみたが、そのカーゴスペースも狭い。4名乗車で空港送迎やヴァカンス、大荷物を持ってのレジャーに出かけるといった用途には到底向いていない。が、前席のみ使う、あるいは後席の片側までを使うといったパターンであれば、もちろんこのパッケージングでもOKだろう。

ラゲッジルームは2段方式。ボードを下の位置に装着すると、荷室が多少広がる。ラゲッジルームは2段方式。ボードを下の位置に装着すると、荷室が多少広がる。
欧州のノンプレミアムCセグメント市場では走り、居住性、荷室のウェルバランス型のフォルクスワーゲン『ゴルフ』が販売台数面で圧倒的なマーケットリーダーとなっており、他メーカーはゴルフ(+シュコダ『オクタヴィア』+セアト『レオン』)の示した“中央値”との違いを出すことで対抗している。

ドライバーの着座位置を下げ、ヒップポイントを後方に置き、ドライビングに特化するというトヨタの選択は、販売台数を見る限りある程度受け入れられていると言える。欧州ユーザーも、必ずしも実用一点張りというわけではないのだ。

運転支援システムはノンプレミアムとして十分

運転支援システム「トヨタセーフティセンス」は単眼カメラ+ミリ波レーダーというコンベンショナルな構成だが、夜間の歩行者検出も可能な衝突軽減ブレーキをはじめ、ノンプレミアムとしては十分以上のメニューを持っている。高速道路、自動車専用道路で観察したところ、車線維持アシストは自動運転的というよりははみ出し防止のような意味合いが強く、普段のアシストは弱め。

前車追従クルーズコントロールは割り込みには弱いもののおおむね良好に機能した。ヘッドランプは『プリウスPHV』のような可変配光型のアクティブハイビームではなく、ハイ/ロービームの自動切替機能のみだが、先行車や対向車の判定、照射能力とも取り立てて不満はなかった。

国産Cセグメントの選択肢が広がった

カローラスポーツは後席、荷室は狭いものの、走りに適したパッケージングを持ち、チューニングはハイレベルで運動性能は良く、快適性も高い。少人数乗車で長距離を移動する機会の多いユーザーにとっては、とても良いツーリングギアとなるだろう。一方、人を後席に乗せる機会が多いユーザーにとっては、ほかにもっと良いクルマがたくさんある。

グレードチョイスはちょっと悩ましい。ナチュラルな走りが欲しいという人は、おそらく今回の18インチスポーツタイヤは不要で、205/55R16タイヤを履く中間グレードの「G」で十分に楽しめるだろう。パワートレインは燃費狙いならハイブリッド一択だろうが、ドライバビリティの面では1.2リットルターボがおいしい。AT限定免許でなければ6速MTを選ぶのも一興だろう。

ライバルは走りのグレードであればホンダ『シビックハッチバック』が最右翼。前席重視のパッケージングという点ではマツダ『マツダ3』の2リットルガソリンがモロにぶつかりそうだ。穏やか系のグレードの場合、スバル『インプレッサ』が最大の競合相手か。

一時、国産Cセグメントはほとんどモデルがなくなるという不毛の地と化していたが、ここにきて乗用車系の選択肢が増えてきたのは伝統的な低重心ハッチバックがツーリングにはいいと考えているユーザーにとっては喜ばしいことであろう。

ボディの彫りの深さはカローラスポーツの特徴。ダイナミズムがある。ボディの彫りの深さはカローラスポーツの特徴。ダイナミズムがある。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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