【三菱 エクリプスクロス PHEV 900km試乗】古典的なほど“ラフ”だが、「選ぶ意義」は今も失われていない[前編]

三菱自動車 エクリプスクロスPHEV のフロントビュー
  • 三菱自動車 エクリプスクロスPHEV のフロントビュー
  • 三菱自動車 エクリプスクロスPHEVのリアビュー
  • ダイナミックシールドと呼ばれるアイデンティティマスクを持つが、三菱自動車ならもっとワイルド志向でもよかった気も。
  • エクリプスクロスPHEVのサイドビュー。後方に向けて大きくキックアップするウインドウグラフィックが特徴。
  • ヘッドランプは凝ったデザインを持つが、機能的にはシンプルなハイ/ロー切り替え式。
  • PHEVのエンブレム。日本ではトヨタ自動車の仕掛けでエレクトリックのEを省いたPHVの呼称が普及したが、自動車工学の世界ではPHEVが正式。
  • タイヤは225/55R18サイズのブリヂストン「エコピア H/L422 Plus」
  • エンジンルーム。2.4リットル直4エンジンと2モーターのユニットは体積が結構大きく、ぎっしり詰め込まれた感。

三菱自動車のPHEV(プラグインハイブリッドカー)『エクリプスクロスPHEV』を900kmあまりロードテストする機会があったので、レビューをお届けする。


エクリプスクロスは2018年に発売されたCセグメント相当のコンパクトクロスオーバーSUV。当初は1.5リットル直噴ターボガソリンのみ、2019年に2.2リットルターボディーゼルが追加された。

2020年に大規模マイナーチェンジ。車体長を140mm延長、ボディ補強、サスペンションセッティングの全面変更など、各部に手が加えられた。この時にディーゼルが廃止されたのと引き換えに投入されたのがこのPHEVである。

パワートレインは全グレードとも2モーター式シリーズ・パラレルハイブリッドと電動AWD(4輪駆動)の組み合わせ。エンジンは最高出力94kW(128ps)の2.4リットルミラーサイクル、電気モーターの最高出力は前60kW(82ps)、後70kW(95ps)。前後のトルク配分とブレーキシステムを連続変化させて車両安定性や操縦性を高めるアクティブヨーコントロールシステム「S-AWC」が実装されている。動力用主電池の総容量は13.8kWh。

ロードテスト車は上位グレードの「P」。ドライブルートは東京を起点に北関東の山岳地帯、平野部を周遊するというもので、総走行距離は925.1km。試乗記は晩秋で乗車人数1~2名。

ではインプレッションに入っていこう。

◆総論

奥利根水源の森にて。ここはグラベル路だが、車外に出るのがはばかられるような冠水区間もあった。奥利根水源の森にて。ここはグラベル路だが、車外に出るのがはばかられるような冠水区間もあった。

エクリプスクロスPHEVの評価軸は走りや快適性などクルマとしてのキャラクターと、PHEVとしての能力の2つがある。クルマのキャラクターの特徴は古典的と言えるくらいラフなコンディションに軸足を置いたチューニングがなされていること。

サスペンションは今どきのクロスオーバーSUVの中ではかなり柔らかめで、高速道路やワインディングロードでの敏捷性は落ちる半面、強い雨に打ち落とされた枯葉が路面全体を覆うような低ミュー路や未舗装路のようなコンディションでは弱い横Gでも普通に運転しているだけでしっかりと前サスが沈み込んでしっかりとした前傾姿勢が作られ、コントローラブルかつ安心感も高かった。

そんな野趣あふれる運転特性との相関性がちょっとちぐはぐなのは内装の作り。レザーシートやサンルーフなどのオプションをちょっと盛ると車両価格500万円になんなんとする価格帯のクルマということで、そのクラスの顧客への納得性を上げることに腐心した結果、ワイルドさが置き去りになったきらいがあった。

PHEVとしての航続・充電特性は、基本システムが2013年に登場した旧型『アウトランダーPHEV』の流用品ということもあってあまり良いパフォーマンスではなかった。2013年時点ではアウトランダーPHEVの性能は同時代のPHEVの中では非常に優れたものだったのだが、その後の電動化技術の進歩が急激だったため、今日では相対的に見劣りするようになったといったところである。

とはいえ、100%充電スタートの場合、2時間程度のEV走行時間が期待できるので、無意味というわけではない。PHEV化のメリットはむしろ前後に電気モーターを1基ずつ配した電動AWDの性能の高さのほうに出ているというのが率直な印象だった。

◆シャシー性能

エクリプスクロスPHEVのサイドビュー。後方に向けて大きくキックアップするウインドウグラフィックが特徴。エクリプスクロスPHEVのサイドビュー。後方に向けて大きくキックアップするウインドウグラフィックが特徴。

要素別にもう少し深堀りしよう。まずは走りだが、総論で述べたようにオンロードでの敏捷性や操縦フィールの良さや快適性の高さを各社が競う現在のクロスオーバーSUV界にあって、エクリプスクロスPHEVはラフロードをターゲットとした柔らかなセッティングが施されているという印象だった。

ドライブ前半は群馬の湯檜曽から栃木の日光までの長大な山岳ルートを含む1日の行楽。山岳地帯に踏み込んでから大荒れの天気となり、尾瀬のベースとなる片品村から群馬~栃木県境を越える金精峠への登りにかけては路面はアスファルトがほとんど見えなくなるくらい落ち葉で覆われた。尾瀬に近い坤六峠付近では奥利根水源の森というオフロードを走ってみた。ドライの時は踏み固められたグラベル(砂利道)主体で走りやすいのだが、このときはぐしゃぐしゃのマッド(泥濘路)が至る所に出現する有様だった。

この悪コンディションがはからずもラフロード向けというエクリプスクロスPHEVの特質を浮き彫りにした。ステアリングを切ったときのゲインを過度に上げず素直にロールさせるセッティングのため、落ち葉でズルズルになった路面でもクルマの前傾姿勢がちゃんと作られ、終始安定していた。大きな横Gへの抗力を高めたオンロード主体のチューニングだとロールが深まる前にグリップが失われて不安定になるところだ。

タイヤは225/55R18サイズのブリヂストン「エコピア H/L422 Plus」タイヤは225/55R18サイズのブリヂストン「エコピア H/L422 Plus」

奥利根水源の森での走りも、マッドアンドスノータイヤを履いていることも手伝って大変良好だった。強い雨でガレ場では浮石が増え、普段はダートの箇所もヌルヌルのマッドになっていたが、そんな道をモリモリと何事もないかのように乗り越えていくという感じだった。いくら走りやすいオフロードとはいえ、路面からの入力の大きさは舗装路の比ではない。そういう入力の“いなし”も好フィールで、路面からのキックバックは常に穏やかだった。

そのぶん通常の舗装路のフィーリングはオンロードでのスポーティなフィールを重視する今日のクロスオーバーSUVのモノサシでみればダル。指1、2本ぶんのステアリングの切り増し、切り戻しのようなデリケートなコントロールを楽しむタイプではなく、あくまでクルーザー的性格と言える。ただし後述する電動パワートレインの制御機構S-AWCは有効性が高く、走り自体はなかなか豪快なパワードライブを楽しめる仕立てになっていた。

◆電動パワートレイン

エンジンルーム。2.4リットル直4エンジンと2モーターのユニットは体積が結構大きく、ぎっしり詰め込まれた感。エンジンルーム。2.4リットル直4エンジンと2モーターのユニットは体積が結構大きく、ぎっしり詰め込まれた感。

シャシー性能と共にエクリプスクロスPHEVの走行性能を支えるキーテクノロジーは電気モーターを前後に1基ずつ配した電動AWD。電気モーターは雪道や泥濘路などでホイールスピンするかしないかギリギリの線を狙えるなど、エンジンパワーを変速機を介して車軸に伝えるよりはるかに精度の高い制御ができるのが特徴。三菱自動車は2013年の第1世代アウトランダーPHEV以来、電動AWDに心血を注いできたという歴史を持つが、エクリプスクロスPHEVにはそのノウハウがしっかり反映されているという感があった。

S-AWC(Super All Wheel Controlの略)と名づけられた制御機構は前後の駆動力配分だけでなく左右輪についても片輪にブレーキをかけることで反対側の車輪を増速するという制御を行うことで、完全ではないもののあたかも4輪それぞれに理想的な駆動力を配分するというシステムである。

ドライブモードは普段使う「NORMAL」「ECO」のほかに「SNOW(雪道)」「GRAVEL(砂利道)」「TARMAC(舗装路)」の3モードを加えた計5モード。後者3モードがそれぞれどういう制御になっているかについて、ロードテスト後に現行アウトランダーPHEVのシャシー開発担当に話を聞く機会があった。

ラリーの舗装区間をそう呼ぶことにちなんだターマックは舗装された峠道などを爽快に走ることを念頭に置いた、ガソリンモデルのS-AWCにはないPHEV専用のモード。基本的に駆動力配分をリア寄りとしつつアクセルオフ時の減速エネルギー回生を最も強いB5に設定、アクセルペダルの応答性も標準より高めている。駆動力配分の判定には路面反力なども利用しているという。コーナーのクリッピングポイント通過からの加速に重点を置いたセッティングと言える。

メーターパネルはメカニカルと液晶の混合。表示はかなり工夫が凝らされており、パワーコントロールがやりやすかった。メーターパネルはメカニカルと液晶の混合。表示はかなり工夫が凝らされており、パワーコントロールがやりやすかった。

グラベルはセッティング自体はターマックに近いが、駆動力配分の判定は何が起こったかを検知してから対処するフィードバック制御を重視。ヨーダンピング(クルマを上から見た時の回転方向の動きを抑制する)を高めたい時は直結4WDのような配分を行うことも。左右ブレーキ制御もグラベルに合わせて強めているという。早い話が滑ることを前提としたセッティングだ。

スノーはちょっとした横Gの変化で車両の姿勢が変わる雪道を安定して走らせるためのモード。アクセルレスポンスを弱め、ホイールにじわっと力がかかるようなコントロールをやりやすいようなチューニング。スリップ制御や左右輪のブレーキを利用したアクティブヨーコントロールは介入タイミングを全モード中最も早く、利きはやさしくという制御になっているという。

そんな能書きがいかほどの効力を持つのかと思ってドライブ中にターマックとグラベルを試してみたところ、モード切り替えによる駆動制御の変化は誰でも体感可能なくらい明瞭だった。ヘビーウェット路であえてターマックにしてみたところ、いかにも後ろ寄りの駆動力配分という感じで鼻先がグイグイとインを向こうとする。なかなかのアドレナリン分泌系制御で、雨天では味見にとどめるに限るという感じだった。

奥利根水源の森にて。グラベルモードでの走行はなかなか楽しかった。奥利根水源の森にて。グラベルモードでの走行はなかなか楽しかった。

奥利根水源の森ではこの程度ならノーマルで何の問題もないと思いつつも気分を盛り上げるためにグラベルを選択。これもまたノーマルとは異なる動きだった。道幅が狭いためかっ飛したわけではないが、砂利の浮いたガレ場のコーナーではまさに後で説明を受けたような直結四駆的動き。後輪に駆動力がかかってテールが出るのではなく、前後ホイールがそれぞれ空転を許容しながら中立に近いステアリング位置でザザザッと曲がる。落ち葉が一面に落ちたところでも人によってはノーマルより安定感が高く感じられるかもしれない。

電動パワートレインは現行アウトランダーPHEVより1世代古いものだが、それでもフィールはなかなか熱い。三菱自動車のシャシーエンジニアの走りに対する凝り性ぶりを悪天候下でたっぷり体感できたのは僥倖だった。本当は今も『ギャランVR-4』や『ランサーエボリューション』で鳴らしたラリーアートのような活動をやりたいのだろうななどと思った次第だった。

◆居住空間、装備

前席。シートのフィット感は良好だが、高価格車としてのデコレーションはあまり上手いとは言えない。前席。シートのフィット感は良好だが、高価格車としてのデコレーションはあまり上手いとは言えない。

エクリプスクロスPHEVは第1世代アウトランダーPHEVに比べてショートボディだがホイールベースは同じ2670mm。前席、後席ともスペースについてはこのクラスの標準を十分クリアしており、圧迫感の小さな居住感を実現している。

シート設計は前席については一般路での長時間ドライブに耐えるほか、左右方向の揺動が大きくなるオフロードでも体幹を保持するのに十分なホールド性を有していた。後席については今回は座って移動を試す機会がなかったため動いている状態で機能を体感することができなかったが、ホールド性は前席ほどではなく、あくまでオンロード用と考えるのが無難だ。

内装は一生懸命デコレーションしているが、質感は各社が血眼で商品力の向上にかかっているCセグメントクロスオーバーSUVの平均には達していない。ダッシュボード、センターコンソールなど樹脂部分の感触はプラスチッキーで、シルバー塗装の加飾パネルの質感もいささか安っぽい。

乗員の耳の部分まで窓ガラスが延ばされているあたりに設計の真面目さがうかがえる。乗員の耳の部分まで窓ガラスが延ばされているあたりに設計の真面目さがうかがえる。

もっともエクリプスクロスPHEVとしては致し方ないところもある。ロードテスト車の価格はオプション込みだと500万円超だが、エンジン車に目を移すと最安グレード「M」のFWD(前輪駆動)がカーナビ標準装備で277万円、スターティングプライスAWDのトップグレードでもカーナビ標準装備で352万円というバジェット志向のモデル。それがベースである以上、デコレーションも自ずと限界があるというものだ。いっそ安い素材の質感をプラスに生かしてワイルドな内装にしたほうが三菱自動車らしさが出たかもしれない。

ミリ波レーダーとカメラを併用した先進運転システム「マイパイロット」は先行車追従クルーズコントロール、車線維持アシスト、車線変更時の後方警戒など、一般的な同一車線運転支援。両隣の車線を見るといった高度な機能はないが、高速道路のクルーズはそこそこスムーズ。クルーズコントロールの速度調節もそれほど神経質な感じではなく、リラックスして乗っていられた。ただしこの分野は技術革新が急激に進んでいるので、競争力を維持するためには適宜アップデートを図ってほしいところでもある。

と、探せばそれなりにアラも見つかるが、プラグインハイブリッドシステムと電動AWDの両方を持つモデルとしては400万円台と比較的リーズナブルな価格でありながら三菱自動車らしい走りの性能をちゃんと体現しているという観点では、今もってエクリプスクロスPHEVを選ぶ意義は失われていない。現行アウトランダーPHEVの新しい電動パワートレインが載れば商品力は上がると思うが、それで価格が大幅上昇するのであれば純粋に競争力が上がるとも言い難い。普段使いはEVとして、遠出はハイブリッドとして使えればいい、電動AWDの走りを味わいたいといったユーザーにとっては狙い目となり得るだろう。(後編へ続く)

三菱自動車 エクリプスクロスPHEVのリアビュー三菱自動車 エクリプスクロスPHEVのリアビュー
《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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