【ホンダ クラリティPHEV 4000km試乗】環境技術のアドバルーンではもったいない[前編]

ホンダ クラリティPHEV。鳥取のハワイ(羽合)海水浴場にて。
  • ホンダ クラリティPHEV。鳥取のハワイ(羽合)海水浴場にて。
  • ホンダ クラリティPHEVのフロント。島根・益田郊外の持石海岸にて。
  • ホンダ クラリティPHEVのフロントを上方から。鳥取・夏泊海岸近くにて。
  • ホンダ クラリティPHEVのマスク。左右ヘッドランプとグリルを一体に描くデザインアイコン「ソリッドウイングフェイス」の特徴が顕著。
  • ホンダ クラリティPHEVのサイドビュー。後醍醐天皇が隠岐から脱出したときに腰掛けたという御岩にて。一見普通のセダンだが、極度に洗練された空力シルエットを持つ。
  • ボディ各部のフラッシュサーフェイス(表面平滑)化はこれでもかというくらい徹底的に行われていた。
  • リアもエアカーテン構造。リアドア近くに導風口が設けられていた。
  • 前後ドアをそれぞれ全開にしてみた。リアドアは大きいわりに開く角度が小さく、乗り込み性はあまり良くなかった。フロントはアクセス性良好。

ホンダが2018年にリリースしたPHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)『クラリティPHEV』で4000kmあまり旅をする機会を得たので、リポートをお届けする。

モデルの概要をおさらいしておこう。クラリティPHEVはホンダの電動化戦略のさきがけとなる、欧州Dセグメント(フォルクスワーゲン『パサート』クラス)の新世代エコカー。クラリティシリーズは実は“エコカー三兄弟”で、PHEVのほかに電気モーターのみのBEV(バッテリー電気自動車)、水素を燃料とするFCEV(燃料電池電気自動車)もある。それを1つのボディで作り分けられるよう設計するというのがシリーズのコンセプトである。

主戦場は新エネルギー車を一定以上の割合で売ることが義務付けられているアメリカのカリフォルニア州だが、日本にもFCEV『クラリティ・フューエルセル』、そしてこのクラリティPHEVが投入されている。

ホンダ クラリティPHEVのフロント。島根・益田郊外の持石海岸にて。
スペック面の最大の特徴は、何と言っても世界のPHEVのライバルのなかで最長クラスのEV航続距離を持っていることであろう。バッテリーパックの総容量は17kWhで、1充電あたりの公称航続距離は100kmを超える。日本の急速充電規格「チャデモ」にも対応するなど、EV色が強い。もちろんバッテリー残量が少なくなっても普通のハイブリッドカーとして運用することは可能だ。価格は税込み588万600円と、セダン系ではフラッグシップサルーン『レジェンド』の次に高価なモデルである。

ドライブルートは東京初の九州周遊で、総走行距離は4032.0km。高速道路の走行距離は800km程度で、後は一般道や無料のバイパスを走行した。クラリティPHEVにとってはメインステージではないと思いつつも、山岳路も走ってみた。また、途中で随時急速充電や普通充電を行い、EVとしての特質も見てみた。道路比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。東京と福岡の門司の間は往復とも1名乗車、九州内では1~4名乗車。エアコン常時ON。

では、本題に入る前にクラリティPHEVの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. ドラマチックにすら感じるPHEVパワートレインの好パフォーマンス。
2. ホンダの実験部門の面目躍如の感がある、重量を感じさせない運動性能の良さ。
3. 自宅での充電が可能であればほぼEVとして使えるであろう十分なEV航続距離。
4. 前席、後席とも余裕たっぷりの居住性。ラゲッジスペースも広い。
5. バッテリー切れの後もそこそこ良い燃費で走り続けられる。

■短所
1. パワートレイン以外の多くの部分の官能性や仕様が車両価格に到底見合っていない。
2. 先進安全システムは装備しているのに自動ハイビームはないなど若干ちぐはぐ。
3. 連続高出力運転のことを考えると発電用エンジンは排気量2リットルでもよかった。
4. 長距離の場合、燃料タンクの公称容量が26リットルはいくら何でもちょっと少ない。
5. ボディサイズ、ドア長、サイドシルの厚さなどがいささかアメリカンサイズすぎる。

環境技術のアドバルーンにとどめるのはもったいない

ステアリングまわり。ステアリングのレザーのタッチは悪くないが、ベースのパイプ部の肉厚が少し薄い感じで、もうちょい質感を上げたいところ。
4000km強のドライブを通じての印象だが、気ままに長旅をするためのツーリングギアという観点では、思いのほか出来の良いクルマだった。

まずもって絶対性能だが、全長4.8m級のDセグメントセダンモデルとしては申し分なかった。PHEVパワートレインはホンダの通常の2モーターハイブリッドと比べても格段に応答性が良く、とくにスロットルを踏んだ時のリニアリティはエンジンを持たないピュアEVとほぼ同水準にあった。

シャシーの性能も良好。1.8トンという重量級のボディながら、タイトコーナーでもフロント外側のサスペンションを深く沈み込ませながらぐいぐいと曲がった。ハイウェイクルーズの安定性も素晴らしい。同じDセグメントのホンダ『アコード』やトヨタ『カムリ』あたりとはモノが違う。下回りを覗いてみると、前後サスペンションアームに軽合金が使われているなど、見えないところにお金がかった意欲的な設計であることがうかがえた。

そんなクラリティPHEVの抱える問題は一にも二にも588万円という車両価格。PHEVという記号性があろうがなかろうが、Dセグメントセダンにこれだけのお金をポンと出すのはプレミアムセグメントの顧客だけである。しかるに、クラリティPHEVはデザイン、内外装の質感、単純な乗り心地の良し悪しの先にあるスウィートな滑走感といった「官能性」についてはノンプレミアムの域を一歩も出ていない。もしこのクルマがPHEVではなく普通のハイブリッドだとして、連想される車両価格はせいぜい300万円台半ばといったところだ。

前後ドアをそれぞれ全開にしてみた。リアドアは大きいわりに開く角度が小さく、乗り込み性はあまり良くなかった。フロントはアクセス性良好。
ホンダも日本でクラリティPHEVを本気で大量販売しようとは考えていないのであろう。筆者もそれを前提に、このクルマを通じてホンダが電動モビリティの将来像をどのように思い描いているか、またその時代における移動の楽しさをどのようにデザインしようとしているかといったことを感じ取れればそれでいいと思ってツーリングしてみた次第だった。

だが、i-MMD Plug-inの素晴らしい出来やシャシーのダイナミック性能の良さを体感して、環境技術のアドバルーンにとどめるのはもったいなく思うようになった。

ハイブリッドパワートレインと大型電池の両方を持つPHEVはコストがどうしようもなく高い。冷却装置つきの17kWhバッテリーパックを積んで安く作ることなどできるわけがないのだ。それでもこのクルマが普通のハイブリッドだとして480万円で顧客が喜ぶようなデザインと仕立てだったら、結果は全然違ったものになったのではないだろうか。

ドライブを終えた後、ホンダや本田技術研究所の社員に社内でこのクルマをどのくらいの人が買っているのか聞いてみた。果たして皆、異口同音に「買ったという話を聞いたこともないし、駐車場でも社有車以外はほとんど見たことがない」ということだった。少なくとも結構な所得のあるホンダの役員や上級管理職がマイカーに選びたくなるようなモデルにするのはマストであろう。

操縦性と乗り心地は高得点

ホンダ クラリティPHEVの側面を後方から見る。風洞実験での空気の流れが見えるかのようなデザイン。
では詳細に入っていこう。まずはツーリングにとって最も大事な操縦性と乗り心地だが、この項目についてはクラリティPHEVはかなりの高得点であった。ホンダのDセグメントモデルの代名詞と言えばアコードだが、クラリティのシャシー性能は現行アコードを大きく上回り、かつ操縦性も非常にまろやかで心地よかった。

サスペンションセッティングは基本的に柔らかめで、コーナリングでは大き目のロールが発生する。が、前後のロールバランスはとても良く、タフな走りでも不安感は少ない。フロントサスペンションの変な突っ張り感のなさと動きの良さはスバル『レガシィB4』と並び、国産Dセグメントの中では出色モノ。このツーリングでは山陰道から外れた国道9号線旧道や京都北方の丹後半島を回る国道178号線など海沿いのワインディングロードも長駆したが、フロントサスペンションの路面への食いつきの良さのおかげで終始安心感に満ちたドライブができた。

高速巡航性も優れていた。クラリティPHEVはいかにも「空力優先ボディですよ」というシルエットを持っているが、実際の空力デザインも相当巧みなようで、速度を上げても後方乱流による車体の微妙なブレがほとんどなく、クルーズの安定感は素晴らしいものがあった。新東名の最も速い流れ程度の速度域ではもちろん何事も起こらない。このぶんだとおそらく時速100マイルでも同じようなフィールが維持されることだろうと推察された。

足回りの質感はもっと頑張れる

リアサスペンションも軽合金製。サスペンションをマウントする防振サブフレームもアルミ製であった。
その一方で、明らかに取りこぼしているのは細かい路面の荒れのなめし、突き上げの緩和といった質感に関する部分。たとえば舗装のざらつきが強いところを走行しているとき。クラリティPHEVは十分に静かだし、乗り心地も悪くないのだが、ステアリングに伝わる微振動がとげとげしくなる。そういう道での微振動の発生はクルマの構造上当たり前のことだが、手のひらに感じる振動がざらっとしたものか、ぬるっとしたものかは振動制御のレベルによって変わってくる。クラリティのざらっとしたフィールは大衆Dセグメントのもので、高級車のものではない。

クラリティPHEVの足回りを下から覗くと、結構上等な構造を持っていることがわかる。前後サスペンションのアーム類は軽金属製。スタビライザーを締結するロッドまでアルミである。手抜きしたプレミアムセグメントのモデルよりよっぽどお金がかかっている。ショックアブゾーバーもサスペンションの上下動の幅によって減衰力が変わるタイプだ。

そこまでやるならもう一息頑張って、液体封入ストラットアッパーマウントの容量を増やしたり、ボディ側にも共振を防ぐシール材を配するなどして、プレミアムセグメント的な滑らかさを出してほしかったところ。それをやったからといって588万円という価格に対する納得性が得られるわけではなかろうが、ひとつひとつ積み重ねていくことが大事だ。

ちなみにセットアップされていたタイヤは235/45 R18サイズのブリヂストン「ECOPIA EP160」。エコピアシリーズといえば低転がり性一辺倒というイメージがあったが、今はこんなサイズもあるのかと驚いた次第だった。このタイヤ、接地面積の広さも手伝って、普通にツーリングをするぶんにはグリップ力は十分に満足できるものだったが、フィール的にはやはり皮が薄い感じがする。タイヤを交換するときには燃費、電費にはちょっぴり目をつぶってコンフォート寄りに振ったモデルにしてみると乗り味が向上するかもしれない。

後編ではPHEVパワートレイン、居住感や使い勝手、デザイン・仕様などについて述べる。

ホンダ クラリティPHEVのサイドビュー。後醍醐天皇が隠岐から脱出したときに腰掛けたという御岩にて。一見普通のセダンだが、極度に洗練された空力シルエットを持つ。

《井元康一郎》

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