自動車業界は、特殊なe-fuelよりも、実用化が有力視されるバッテリー技術、再エネ技術、水素関連技術に注力している。国内ではトヨタとホンダがFCEVやFCスタックについて取り組みを続けている。現在、両者のFCEVおよびFCスタックに関する戦略と状況はどうなっているのだろうか。「FC EXPO 2023」で行われたトヨタとホンダによるセミナーの内容から見てみよう。
e-fuelに一喜一憂するより水素確保が先
少し前にちょっとした「e-fuelショック」があった。ドイツがEUにe-fuelの内燃機関を認めさせたというニュースだが、多くのメディアが合成燃料とe-fuelの区別をつけずに報じたため「エンジン復活か」といった誤報に近いニュースが飛び交った。
だが温暖化対策・脱炭素の流れは変わっていない。またe-fuelの製造には大量のグリーン電力(EUは化石燃料由来の電力による合成燃料は認めていない)が必要でありインフラやサプライチェーンの課題が大きい。現状、化石燃料に混ぜて使う前提のものでCO2フリーのe-fuelには、効率やNOxなど技術的な課題が残る。単にe-fuelといっても、EUと各国政府・業界がどこまで折り合うかがまったく未知数である。
e-fuelはもともと発電用燃料や航空機燃料など代替が困難な用途で検討されていたもの。内燃機関廃止の例外は、小型の発電機や年間1000台以下の特殊な車両にあった議論で、どちらも一般的な乗用車や商用車につながる話ではない。EUに方針変更の認識はなく、むしろ他の国が我が国のバイオ燃料(これも多くは混合燃焼が前提となりCO2フリーにはならない)も認めるべきだ、と動きだしたことが逆効果にさえなっている。EUはe-fuelを100%CO2フリーの燃料と定義しており、むしろ新しい内燃機関のカテゴリーと考えている。以上のことはガソリンや軽油を使うレガシーエンジンには目がないことを強く示唆する。
もし、e-fuelを普及させたいなら、その前に再エネ由来もしくはCO2オフセットゼロの水素の確保が必要だ。
トヨタの水素戦略は出口戦略:プロダクトアプリケーションから
トヨタの戦略は、1)FCの技術開発、2)FCアプリケーションの拡大、3)FCEVの価値拡大、4)「つかう」技術のフィードバックという4つの柱があるという(トヨタ自動車 CVカンパニー 水素事業領域 水素製品開発部 折橋信行氏)。

技術開発はFCスタックの効率化、水素タンクの貯蔵性能アップを中心に進められ、第2世代となる現行『MIRAI(ミライ)』では、初代より少ないセル枚数で出力を上げることに成功している。セルは370から330に、スタックのサイズは33リットルから24リットルに減らしている。だが出力は114kWから128kWにアップしている。セルが少ないということはFCスタックを小型化でき、コストダウンも可能になるということだ。タンクはカーボンファイバーの強化などで肉厚を薄くすることに成功している。