【スバル XV e-BOXER 1000km試乗】乗り心地に明確なアドバンテージあり。HV化の恩恵は

スバル XVアドバンスのフロントビュー。
  • スバル XVアドバンスのフロントビュー。
  • スバル XVアドバンスのリアビュー。筆者個人の印象としては白よりもブルー、オレンジなどポップな色のほうが似合いそうだった。
  • スバル XVアドバンスのサイドビュー。
  • スバル XVアドバンスの正面図。
  • 運転席側から前席インパネまわりを俯瞰。
  • フロントシートの出来は可もなく不可もなくといったところ。
  • ブルーの樹脂パネルで装飾を施しているが、質感はあまり高くない。
  • 助手席側からダッシュボードを見る。縫い合わせとは関係のないステッチが飾りとして打たれているなど、ちょっと装飾過剰。

スバルのCセグメントクロスオーバーSUV『XV Advance(アドバンス)』を1000kmほどテストドライブする機会があったので、リポートをお届けする。

XVは同社のCセグメントコンパクト『インプレッサ』をリフトアップしたクロスオーバーSUV。クロスオーバーでありながらオフロードSUVとしての性能は高く、長いストロークのサスペンション、200mmの最低地上高、泥濘路や深雪路での走行安定性を高めるAWD(四輪駆動)システムの自動制御「X-MODE」など、クロスカントリーにも使えるのが特徴だ。

テストドライブ車両のXVアドバンスは、スバル自製のパラレルハイブリッドパワートレイン「e-BOXER」を搭載する最上級グレード。ドライブルートは東京~京都の往復で、中部~近畿では山岳路のバリエーションルートも走ってみた。総走行距離は1034.1km。道路種別は市街地2、郊外路4、高速3、山岳路1。全区間1名乗車。エアコンAUTO。

では、XVアドバンスの長所と短所を5項目ずつ列記してみよう。

■長所
1.サスペンションの作動の滑らかさが生む秀逸なロードホールディングと乗り心地。
2.ハイブリッド化でシャープさと力感が増したパワートレイン。
3.ロードノイズの高周波成分対策が上手く、体感的な静粛性がきわめて高い。
4.空力ボディのわりにはボンネットの見切りが良く、取り回し性に優れる。
5.床下をまっ平らに作り、200mmの最低地上高をフルに使えるなど随所にみられる良心的設計。

■短所
1.ハイブリッドシステムにスペースを食われ、SUVの生命線のひとつであるカーゴスペースが極小になった。
2.ハイブリッドの恩恵をほとんど感じられない実測燃費値。
3.上半身のホールド性はじめもう一息スペックアップしたい前後席。
4.質感を高く見せようという工夫が空振りしている感のあるインテリアデザイン。
5.狭いわけではないが、少々圧迫感が強い後席。

XVアドバンスはクルーズ時の滑らかさや安定性、ワインディングロードにおける操縦性のナチュラルさなど、乗り味の部分については文字通り一級品だった。インプレッサ、XVはもともとシャシー、ボディ性能については非凡なものを持ち合わせているのだが、それらの非ハイブリッドモデルと比べても有意な差を一発で感じられるほど。

一方でハイブリッド化については機関のスムーズさや低中速域での力感アップといった効果はあるものの、燃費については節減効果がほとんど感じられず、また性能に対してサイズが過大なバッテリーパックや出力制御ユニットが荷室スペースを食ってしまうといったデメリットも目立った。

驚異的に自然な走行フィール

スバル XVアドバンスの正面図。スバル XVアドバンスの正面図。
では、細部について見ていこう。まずは操縦性や乗り心地を左右するシャシー、ボディ性能について。XVアドバンスのサスペンションセッティングは徹底的にコンフォート寄り。ラフロードや雪道の走行を強く意識したものらしく、バネレート、ショックアブゾーバーの減衰力ともかなり緩いほうだ。

驚異的なのは、相当に柔らかいセッティングであるにも関わらず、ロールから水平に戻る時、路面の凹凸でバウンシングを食らった時など、大きな動きが発生してもボヨンボヨンとした揺れがほとんど残らないことだった。また、柔らかでありながら、操縦の手応えが実にしっかりしており、常にクルマの動きを自然に感じながら走れる“人馬一体感”も見事だった。

2016年冬に800kmほど走らせてみた現行『インプレッサ』の初期モデルは、直進から緩旋回にかけては傑出した走行フィールを持っているのに対し、ロール角が大きくなるにつれて味付けが人工的になる傾向があったが、XVアドバンスは少なくとも今回の1000kmドライブにおいては、そういうネガは一切感じられなかった。最新のXVの非ハイブリッドモデルと比べてもなお優れている。

今回のドライブでは市街地から新東名、国道1号線~23号線バイパス、鈴鹿山脈では峠道やオフロード…と、さまざまな道を走ってみた。路面コンディションもドライ、ウェット両方があったが、ハンドリングの安心感と、路面を選ばないオールラウンダーぶりという2点においては世界のCセグメントの中でも目下トップランナー級ではないかと感じられた。乗り心地も非常に良く、長距離移動向きである。

ハイブリッド化の意義

水平対向エンジンをモチーフにした「e-BOXER」のエンブレム。水平対向エンジンをモチーフにした「e-BOXER」のエンブレム。
この見事なシャシー、ボディの質感に対し、2リットル水平対向4気筒+パラレルハイブリッドのe-BOXERパワートレインはかなり微妙な感じであった。とくにハイブリッドカーの命である省燃費性については、ハイブリッド化の意義がほとんど感じられなかった。

ロングランにおける実測燃費は新東名の高速区間、鈴鹿峠や滋賀の山岳地帯のワインディングロードなどを駆けた650.6km区間が14.4km/リットル、少しペースを落とし、一般道をメインに走った358.3km区間が16.0km/リットル。ドライブ序盤で燃費を伸ばしづらいことがわかったため、普段に比べると走りは全般的に抑制的であったのだが、それでもあまり良い結果は得られなかった。

ハイブリッド化のプラス効果がまったくないわけではなく、メリットは動的な部分に出ていた。スロットルを踏み込んだ瞬間の応答性の良さは自然吸気の2リットル水平対向よりずっと良い。ハーフスロットル時の力感、コントロール性もより大きな排気量のエンジンのようであった。

もう一点、CVTとの協調制御も非ハイブリッドより良かった。変速プログラムに擬似的に有段ATのような挙動をさせるステップ制御が仕込まれているが、その変速フィールがなまくらな感じではなくシャープなのも気持ちよいポイントだった。

荷室のサイズ、形状が最大のマイナスポイント

XVアドバンスの最大の弱点は荷室の狭さ。XVアドバンスの最大の弱点は荷室の狭さ。
このドライバビリティの良さというメリットが何の代償もなしに得られたのであれば、e-BOXERは2.5リットルの置き換えのようなものと考えることもできるのだが、残念ながらそうではなかった。ハイブリッドシステムを搭載したために、荷室が大幅に狭くなってしまったのは、XVアドバンスの最大のマイナスポイントであった。

写真を見てもらえばおわかりいただけるであろうが、ラゲッジルーム下部にバッテリーパックと出力制御ユニットを敷き詰めたために、深さが足りていない状態。公称容量は340リットルと、最低限の数値は確保されているように見える。が、荷室形状が平べったくなってしまったためか、試しに物を置いてみると、体感的には300リットル前後のBセグメントカーと変わらない狭さだ。

もちろん世の中にはトヨタ『C-HR』やマツダ『CX-3』のように、荷室の狭いコンパクトSUVはいくつもある。だが、それらはSUVとして乗るのではなく、あくまで格好で乗るファッションSUV。自転車で言えば、格好はマウンテンバイクそのものだがオフロードは走らないでくださいと車体に小さく書いてある、いわゆる“MTBルック”のようなものだ。

XVは、最低地上高200mmが文字通りの200mmになるよう、床下にはみ出すような空力的付加物や可動パーツなどを一切置かずまっ平らに作るなど、質実剛健さでファンの心をつかんできた実力派のクロスオーバーSUVだ。それがこの容量、荷室形状というのはいただけない。何らかの工夫がほしかったところだ。

操作系の使いやすさは美点

運転席側から前席インパネまわりを俯瞰。運転席側から前席インパネまわりを俯瞰。
それ以外の室内空間、装備、収納などは非ハイブリッドのXVとほとんど同じ。インパネなどに配された加飾パネルやステッチの色が青になるなど、エコイメージを高めようという痕跡が随所に見受けられるが、その質感は決して高いものではなく、かえってデザイナーの作為性が目立ってしまっているという感があった。

先進安全システムの「アイサイト3」は非常に良い働きをした。高速道路での車線キープは、逸脱防止のみならず車線の中央をトレースするよう積極的にステアリング介入を行うため、手を添えるだけのクルーズは実に安定的だ。アイサイト4へのメジャーなバージョンアップを待たずして、細かい改良がいろいろ加えられているものと推察された。

運転に関する操作系はXVアドバンスの美点のひとつで、非常に使いやすくまとめられていた。地味に素晴らしかったのは車間開けと車間詰めの2つに分かれているオートクルーズの車間調節スイッチ。1つのスイッチにすると、狙った車間距離設定をうっかり通り越してしまったとき、またカチカチと一巡させなければいけない。イラついて素早くカチカチやると、また通り越してしまったりする。開けたいときと詰めたいとき、それぞれ違ったスイッチを押すようになっているのは、行動心理学的にも理にかなっている。スバル車は全般的にそういう実用的な設計が非常に優れているのだが、車間スイッチはその一旦を垣間見られるポイントのひとつであるやに思われた。

乗り心地に明確なアドバンテージ

タイヤは225/55R18サイズのブリヂストン「デューラー H/P SPORT」。ウェットグリップ、接地性、乗り心地などいずれも申し分なく、XVアドバンスのクロスオーバーSUV的な味付けを引き立てていた。タイヤは225/55R18サイズのブリヂストン「デューラー H/P SPORT」。ウェットグリップ、接地性、乗り心地などいずれも申し分なく、XVアドバンスのクロスオーバーSUV的な味付けを引き立てていた。
まとめに入る。XVアドバンスはラゲッジが狭く、燃費もハイブリッドカーとしては非常に悪い数値といった欠点を持っている半面、ドライバビリティや乗り心地はもともと優秀という定評のあるノーマルのXVと比べても格段に優れているという、何とも痛し痒しなモデルであった。このXVアドバンスをチョイスする意味があるかないかは、顧客のライフスタイルによるところが大きいであろう。

載せる荷物がせいぜい小型~中型トランク程度で、積載性よりは走行感の良さのほうを重視したいというカスタマーであれば、XVアドバンスはとても良い選択肢だ。クラスとしてはノンプレミアムCセグメントだが、そういう序列をまったく意識させない優れた乗り味があるので、必ずや満足できることだろう。e-BOXERは燃費は大して良くはないが、ドライバビリティについては2.5リットル級のような感じなので、選ぶ意味がゼロというわけではない。

レジャー用の大荷物を積む機会の多いカスタマーは、カーゴスペースに不満が出る可能性が高いので、普通のXVのほうが断然ライフスタイルに合う。が、乗り心地に関してはノーマルXVに対して明確なアドバンテージがあるということが選択を悩ましいものにしている。

スバルのエンジニアは車両重量の違いが要因ではないかと語っていたが、1クラス上のSUV『フォレスター』は重量級のe-BOXERモデルのほうが普通のモデルよりフロントが突っ張ったような乗り心地だったことを思うと、やはり主因は重量差や重量配分よるチューニングポリシーの違いであろう。e-BOXERに高いバリューを持たせるための実験部隊の頑張りは素直に認めるが、ハイブリッドでないモデルもやろうと思えばアドバンスのような味付けにできるはず。そうしてもらえれば一番話が早いのだが。

スバル XVアドバンスのリアビュー。筆者個人の印象としては白よりもブルー、オレンジなどポップな色のほうが似合いそうだった。スバル XVアドバンスのリアビュー。筆者個人の印象としては白よりもブルー、オレンジなどポップな色のほうが似合いそうだった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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