「ヤマハ初のハイブリッド」開発者に聞いた…鉛電池、アジア専用、そのねらいは?ホンダとの違いは?

ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」と開発メンバーの皆さん
  • ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」と開発メンバーの皆さん
  • ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」(ベトナム仕様)
  • ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」(ベトナム仕様)
  • プロジェクトリーダーを務めた西村健さん
  • ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」と開発メンバーの皆さん
  • パワートレインユニットを担当した船越博さん
  • スマートモータージェネレーターについて語る秋元雄介さん
  • パワートレインユニットを担当した嶋宮貴洋さん

なんと、ヤマハもアセアンでハイブリッドバイクをすでに発売していた! タイでは2018年夏に『GRAND FILANO HYBRID(グランドフィラーノハイブリッド)』の名で、ベトナムでは12月に『NOZZA GRANDE(ノザグランデ)』としてリリースした125ccスクーターだ。

両車は、エンジン、車体ともに共通だが、仕向地によってモデル名が異なり、生産も現地でおこなわれている。従来型も同様で、タイでは2012年に「グランドフィラーノ」、ベトナムでは「ノザグランデ」がそれぞれ発売。当初はもう少し小柄なモデルで、エンジンの排気量も115ccであった。


2014年に125cc化され、環境性能と走りの楽しさを両立した「BLUE CORE(ブルーコア)エンジン」を搭載。そして2018年にプラットホームも一新するフルモデルチェンジを果たし、ハイブリッド化へと至った。ストップ&スタートシステム(アイドリングストップ機構)も新たに搭載し、タイでは車名もグランドフィラーノからグランドフィラーノハイブリッドへと変わった。

開発は日本でおこなわれ、現地でのテストは幾度となく繰り返されたという。今回、市販化にいたるまでの経緯など貴重な話しを、プロジェクトリーダーを務めた西村健さん(ヤマハ発動機 PF車両ユニット PF車両開発統括部)ら開発チームに、独占インタビューすることができた。

広く普及し、多くの人に素晴らしさを知って欲しい

プロジェクトリーダーを務めた西村健さん
まず聞きたいのが、ヤマハ初のハイブリッド車が、どうしてこのモデルであったのかという点。というのもタイでは、新感覚デザインの若者向け『QBIX(キュービックス)』もあり、ハイブリッドのような先進技術を採用するにはコチラの方がうってつけではないのかと…。西村さんは、こう教えてくれた。

「新しい技術ですが、まずは多くの人の役に立ってハイブリッドの良さを実感してもらいたいと考えました。BLUE COREエンジンを最初に搭載したのもグランドフィラーノおよびノザグランデで、低燃費で日常においてしっかり機能し、前後12インチのスタンダードな足まわりとフルフラットフロアの普遍的なデザインもあって好評を博している人気モデルです。タイでもベトナムでも、このクラスにはいろいろな機種がありますが、広く普及している機種にまず採用し、広く知ってもらおうと思いました」(西村さん)

たしかにキュービックスはフルフラットフロアではないし、日常により早く溶け込みたいという狙いならば普遍的なスタンダードモデルから導入するのが得策だろう。気になってくるのは、ホンダもほぼ同時期にハイブリッドスクーターを発売していることだ。タイでは『PCXハイブリッド』が9万9000バーツ(約33万円)、グランドフィラーノハイブリッドは5万5500バーツ(約18万6000円)、ABS付きで6万2000バーツ(約21万円)だから、価格帯が異なる。ホンダは高級志向、ヤマハは大衆向けと、それぞれで違う層をターゲットにしているということなのだろうか。

西村さんに聞いてみると、「はい。いろいろな選択肢がありましたが、我々はまずハイブリッドをより多くの人に体感していただきたいと考えました」と、やはり広く知らしめたい想いが、まず第一にあることがわかった。

新機構「スマートモータージェネレーター」が、カギを握る…!?


構造はどうなっているのか。西村さんによれば、従来は別体に設置されていた始動用のモーターとスターターギヤを廃し、発電機と一体化した「スマートモータージェネレーター(以下、SMG)」を新開発し採用したとのこと。ストップ&スタートシステム(アイドリングストップ機構)も新たに備えたが、SMGはギヤを介さずクランクを回転させるため、より始動がスムーズになり静粛性も飛躍的に向上している。秋元雄介さん(同・PF車両ユニット 電子技術統括部)は、さらにこう言う。

「ストップ&スタートシステムは他の機種でもすでに導入済みですが、SMGを使ったことでより滑らかにエンジンが目覚め、燃費も7~9%(仕向地、計測方法により異なる)ほど良くなりました。実際の始動時間は変わらないのですが、始動する度にいちいち“キュルキュル”って音がすれば、システムを切ってしまう人もいますから、この進化は大きいと思います」(秋元さん)

エンジンを担当した船越博さん(同・パワートレインユニット パワートレイン開発統括部)は、SMGの効果はもっとあると言う。

「始動用モーターとスターターギヤがなくなったおかげで、ベルトラインを15mm内側に収めることができ、エンジン幅をよりコンパクトにすることができました。さらにヘッドカバーを樹脂製にするなどし、単体で840グラムの軽量化を実現したのです」(船越さん)

アシストは発進時のみで最大3秒間、5500回転まで。バッテリーからSMGへ電力が供給され、追加で搭載した「SGCU(スターター・ジェネレーター・コントロール・ユニット)」がSMGとバッテリーを制御。ハイブリッドシステムとストップ&スタートシステムを司る。これがヤマハ初のハイブリッドシステムだ。

話しを聞いていると、ジェネレーターと始動用モーターを一体化させたSMGが重要なカギを握っている気がしてくる。西村さんに問いかけると…。

「たしかに従来通り、始動用モーターとスターターギヤが別体のままでしたら、電力でアシストすることはできませんでした」(西村さん)

従来通りの汎用鉛バッテリーだけでシステムを構築

ヤマハ初のハイブリッドバイク「NOZZA GRANDE(ノザグランデ)」と開発メンバーの皆さん
PCXハイブリッドでは48Vリチウムイオンバッテリーをアシスト用に追加装備し、シート下に積んでいるが、バッテリーの追加や強化はないのだろうか。

「モーターやバッテリーの追加はなく、従来通りの汎用鉛バッテリー1つだけですべてを賄っています」というのは、嶋宮貴洋さん(同・パワートレインユニット パワートレイン開発統括部)。「車体重量も従来比増減なしで、ABS付きで1kg増えただけです」とのことだ。

追加バッテリーなしで、電力アシストを発進時のみに集約。それならコストも抑えられる。他のモデルへの転用を期待せずにはいられない。なんといっても、日本での発売が待ち遠しい。西村さんはこう言う。

「システムを複雑にせず構築できたのは、良かったと思っています。ご期待に添えず申し訳ないのですが、今後のことはまだ何とも言えません。アシストを発進時のみにしたのは、スタート直後のふらつきを解消しようという狙いです。特にアセアンでは二人乗りや荷物満載が日常的なので、発進時にこそアシストするべきだと考えました」(西村さん)

何度も現地に出向き、走行実験を繰り返した小柳大祐さん(同・PF車両ユニット 車両実験部)は、「実際の使われ方をリサーチし、アシストは速度が出てからよりスタートで必要だと決めました。スピードが出てからは、エンジンだけでもしっかり加速してくれますからね」と言う。

静粛性、防犯機能、高級感も追求


嶋宮さんは、「アイドリングをストップさせるのも当初より短い1.5秒に設定しました。新開発のSMGによって目覚めがスムーズになりましたし、現地では静粛性はとても重要なのです。車両は盗難されないよう屋内や敷地内に保管されますし、早朝・深夜に乗るので音が大きいのを嫌います」と、教えてくれた。

「車両はとても高価ですので、セキュリティに対する意識はとても高く、ABS付きの上級モデルにはスマートキーが採用されています。また、車両に対する高級志向も強く、排気音も静かな方が好まれる傾向です」と、現地で走行テストを重ねた加藤聖也さん(同・PF車両ユニット PF車両開発統括部)も言う。

車体を設計した菊地拓史さん(同・PF車両ユニット PF車両開発統括部)は、高級感のある車体に仕上がっていることをアピールする。

「車体もビスやボルト類が見えないよう上質感を演出しています。外装のビビリ音などノイズもあってはなりませんし、塗装も光沢のある凝った仕様としました」(菊地さん)

日本導入は

ノザグランデに試乗する青木タカオ氏(※敷地内で許可を得て走行しています)
敷地内にてベトナム仕様の実車に試乗させてもらったが、ダッシュが力強く、たしかに車体は日本や欧州でも通用する高い完成度と言っていい。現地でも評価は高く、今後もハイブリッドの優位性が浸透すれば、ますます人気が出る分野と開発陣も見ている。

残すのは、日本でのデビューだ。『NMAX』『シグナスX』『トリシティ125』と、いずれにもハイブリッドモデル追加の可能性は否定できない。発売されれば、活性化している原2スクーター市場が、ますます勢いづくだろう。

《青木タカオ》

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