「鈴鹿8耐」開催中は、サーキット内のイベントスペース「GPスクエア」もたいへんな熱気を帯びる。新型車が展示され、またがることもできるバイクメーカー各社のブースは、まるでモーターサイクルショーのような盛り上がりだ。
ヤマハブースでの一番人気を担当者に聞くと、迷わず答えたのがホワイト&レッドのニューモデル『YZF-R9』。欧州・北米から導入が始まり、国内発売が待望されているニューモデルで、スーパースポーツ世界選手権ではデビューウィンも果たし、実力を証明した。

R9の周囲は、特に人が多い。列ができているわけではないので、またがる順番が微妙になってしまう。いよいよ自分の番だと、周囲に気を配りながら筆者がまたがる。
ずっと機会をうかがっていたことは、周りのみんなもわかってくれていたのだろう。誰も異論はないようだ。
◆国内未導入の『YZF-R9』にまたがり試乗!


シート高は830mm、身長175cm/体重67kgの筆者だと、足つき性に不安はない。クリップオンハンドルを握ると、スーパースポーツらしい前傾姿勢となるが、窮屈さは感じない。
ハンドルの垂れ角であったり、絞り角がさほどキツくないためで、サーキットまでの往復を自走で走るなど、ショートツーリングも無難にこなすだろう。
目の前には5インチTFTディスプレイのメーター、そして『YZR-M1』イメージの肉抜きされたトップブリッジがあり、コクピットの質感も高い。

フルアジャスタブルの前後サスペンションはKYB製で、新作の倒立フォークは最新の『YZF-R1』と共通。ブレンボのモノブロックキャリパーにラジアルマスターシリンダーといったブレーキも一級品で、足まわりも隙がない。
容量14リットルのタンクは下半身でホールドしやすい形状。上面がフラットなのは、ライダーが伏せた時のフィット感を重視しているからだ。
◆ウイングレットが放つ存在感とその威力

M字型エアダクトやモノアイのLEDヘッドライト、ツインアイのポジションライトが精悍なフロントマスクを演出している中、フロントエンドスポイラーと融合したNEWスタイルのウイングレットが、スリムな車体の中で目立つ。
ウイングレットはダウンフォースを生み、フロントを押し付ける力になるが、R9では直線で前輪の揚力を6~7%低減し、スポイラーとの組み合わせにより、その効果を約10%にまで引き上げている。
空力性能を徹底追求したR9は、Cd・Aと言われる空気抵抗係数(Cd)×投影面積(A)の数値がヤマハ歴代スーパースポーツ史上最良となった。
◆専用フレームはなんと歴代SS最軽量

『MT-09』や『XSR900』『トレーサー9GT』などが採用する水冷並列3気筒のCP3エンジンを、ヤマハ歴代スーパースポーツで最軽量を誇る専用設計の重力鋳造アルミ製デルタボックスフレームに搭載した。
重力鋳造は金型の上からアルミ材を流し込んでいく製法で、フレームの単体重量はわずか9.7kgでしかない。
車体重量は195kgで、フルカウル車でありながらネイキッドモデルの『MT-09』から増えたのは、たった2kgという軽量化を実現している。
◆「R」のDNAを受け継ぐ弟分たち


隣に並べられていたヤマハRシリーズの弟分『YZF-R3』にも跨ってみると、扱いやすいコンパクトな車体であることがわかる。
比較するのもナンセンスだが、車体重量は169kgで、シート高は780mm。最高出力はR9が119PS(欧州仕様)であるのに対し42PS。
排気量320ccの直列2気筒エンジンを鋼管製ダイヤモンドフレームに搭載する『YZF-R3』にも、肉抜き加工を施したアルミ鋳造製ハンドルクラウンが備わっているし、YZR-M1から継承されたM字インテークが踏襲されている。
こうして普通二輪免許のライダーには『YZF-R3』があり、車検のない『YZF-R25』『YZF-R15』、さらに原付二種の『YZF-R125』も用意される。大型クラスではパラレルツインの『YZF-R7』も選べる中、『YZF-R9』が国内デビューすれば、ヤマハRシリーズがさらに充実する。
◆『YZF-R9』は70周年に放たれるヤマハの渾身作だ

車両本体価格は4気筒の『YZF-R1』が253万円、2気筒の『YZF-R7』が105万4900円。トリプルエンジンの『YZF-R9』がもし150万円を切るようなら、ブレイクの予感がしてならない。
1955年7月1日の創立から70周年、同年7月10日「第3回 富士登山レース」で開始したレース活動が70周年を迎えるヤマハ。
その節目の年に、ファクトリーチームとしては6年ぶりの鈴鹿8耐参戦となり、総合2位に入る強さを見せたが、このように市販スーパースポーツへの力の入れようは、じつにヤマハらしい。
『YZF-R9』が展示されたブースには、歴代の鈴鹿8耐参戦マシンも並び、ファンを歓喜させた。
