【パイクスピーク14】三菱ドライバー増岡浩氏インタビュー「目標は9分、総合優勝も夢じゃない」

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パイクスピークで三菱自動車の監督兼ドライバーを務める増岡浩氏
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  • 三菱自動車 増岡浩氏
  • 三菱・MiEVエボリューションIII
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  • 三菱・MiEV エボリューションII(2013年)
6月23日より米国コロラド州で開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に、三菱は改造電気自動車(EV)で出場する。3年目のエントリーとなる今回、悲願の初優勝に向けた意気込みを監督兼メインドライバーを務める増岡浩氏が語る。

増岡氏は、1987年より世界で最も過酷なレースのひとつである「パリ・ダカールラリー」に参戦、以来三菱『パジェロエボリューション』などで輝かしい戦果をあげてきたレーシングドライバー。現在、三菱自動車に籍を置き、広報活動やテストドライバーの教育などを務める。三菱が2012年、EVでのパイクスピーク参戦をおこなうにあたり、『MiEVエボリューション』の監督兼ドライバーとしてレースシーンに復帰した。

三菱はパイクスピークへの挑戦で、EVの信頼性、性能を世界にアピールすると同時に、技術者の育成、レースで得られた技術の市販車へのフィードバックをめざす。挑戦は3年目。昨年はトップタイムで予選を通過したものの、本戦で予想外の雨に見舞われクラス2位となった。レース直後「次の課題は見えた」と悔しさをにじませた増岡氏は今、何を見つめるのか。渡米前の6月初旬、パイクスピークへの思い、そしてその先にあるEVの未来と期待を語った。


----:今年の参戦車両の仕上がりは?

増岡浩氏(以下、増岡):今年の『MiEVエボリューションIII』は昨年の改良版です。1年目は量産『i-MiEV』のモーターと電池を使ってどこまで限界性能を引き出すことができるかを課題としました。2年目は、モーターと電池の先行開発品を使い、パワーや電池の密度を上げた。そして3年目は、統括制御をおこなう四輪システム「S-AWC」を採用したのが、大きな改良項目です。岡崎研究所でクルマ、技術の開発をしまして、非常に良い手応えをつかんでいます。

当然、3年目ですから結果も求めなくてはいけない。今年は優勝を狙っていきますよ。


----:昨年は特に雨で苦しんだレースでした。直後のインタビューでは今年に向けた課題が見つかったとおっしゃっていましたが、その課題とは。

増岡:グリップ(タイヤの接地)とダウンフォース(空気の力で車体を抑えること)ですね。パイクスピークに出ているクルマって、みんなすごい大きなウイングをつけてますけど、極限の近くになってくるとまだまだ足りないと実感しました。特に頂上、ゴール付近は4000mにもなります。酸素が少ない。そうするとダウンフォースも効きが悪くなるんです。そこを上手く、開発陣と摺り合わせて、いかにドラッグ(抗力)を少なくして、ダウンフォースを得るかというのが今回は大きなテーマだったと思います。


----:MiEVエボリューションIIIに搭載されたS-AWCの特徴を教えて下さい。

増岡:クルマの基本メカニズムとして、モーターを4つ搭載しているんです。前輪は2つのモーターを合わせて、ギアパワーをひとつにしてLSDで左右に駆動力を分配しています。後輪はそれぞれ別のモーターが駆動します。これに、通常のS-AWCに加え、回生が入ります。例えば、ハンドルを切り込んで、アクセルを離してブレーキを踏みながらカーブに進入しますね。ここで内側(の車輪)の回生を強くする。そうするとターンインしやすくなります。そのまま今度は、外側の駆動をアクセルで持ってくる、という形です。4つの車輪速をものすごい正確に検知していますので、スピンなどの制御はほぼ完璧な状態にいったな、と思っています。

EVはレスポンスが良いのが特徴です。制御の介入も正確。四輪駆動ですが、四輪はつながっていないですから、それぞれ単体で制御でき、邪魔しあうものはない。カーブの轍などでも、良い意味で全く手応えがないんです。


----:そこにご自身の運転感覚との違和感はないのでしょうか。

増岡:普通、ハンドルを切り込んでいって、ちょっとアンダーステアやオーバーステアになったときに、ハンドルが取られるじゃないですか。これが全くない。全部直線を走っているのと同じような感覚でアクセルオンでもオフでも曲がって行く。ある意味、目指していた理想の所だと思います。


----:パリダカではダート、パイクスピークでは舗装路です。運転方法などに違いはあるのでしょうか。

増岡:頭を切り替えています。ただ、突き詰めていくと基本は一緒ですね。スピードが出れば出るほど、操作をゆっくり、丁寧にする。クルマの挙動を最小限に抑える。これでクルマの動きが乱れなければ、そのまま踏んでいけるわけですから。ハンドルは、なるべく早めのタイミングで、ゆっくり切り始めて、ゆっくり戻す。アクセルも丁寧に、踏むのもゆっくり戻すのもゆっくり。荷重移動を最低限に抑えて走ればクルマは言う事を聞いてくれるんです。それはかなり意識しましたね。


----:さらに、EVでの違いはあるのでしょうか。

増岡:特にないですね。ただ、ある意味EVってこれをカバーしてくれるんですよね。やっぱりトルクがすごいでしょう。たとえばエンジン車だと、一か所のコーナーをミスがあるとそれが後の走り(速度やパワーの回復)にずっと響いてしまうんですが、EVはすぐに取り返せる。例えばパワーバンドをはずれてもEVの場合、関係ないですから。そういう意味ではリカバリーしやすし、プレッシャーから開放されますね。


----:改めて、パイクスピークの難しさとは。

増岡:コースは変わらないけど、毎年車速は上がってくる。そうすると視界が全然変わって、コース幅も変わる。すごく奥深いものがあると思いますね。「これで完璧」というものはないんです。それがわずか20km、パリダカの何日分のをぎゅっと凝縮したようなレースです。コーナーひとつひとつがすごく大切で、それを攻めていく難しさがあります。

上り勾配は平均7%なんですよ。高速道の登坂車線より全然厳しい。こういったレーシングカーだと目線が低いですから本当に空しか見えなくて。それを「バーン」と入っていかなければいけない。正直怖いですよ(笑)

だから、事前に航空写真でコースを全て解析して、現地では曲率や、コーナーの出口、これらを100%頭に入れておく。やっぱり自信もっていかなければアクセルは踏めないですからね。


----:昨年は目標タイム「9分30秒」とおっしゃっていました。今年もそのラインが目標となるのでしょうか。

増岡:そうですね。あまり開発陣からは数字を出すなと言われていますが(笑)一応、9分ちょうど位は(出したい)。心の中では思っています。

シミュレーションで、空力で何秒、タイヤで何秒、S-AWCで何秒改善できると。それぞれ足し合わせて行くと、良いタイムになると思います。


----:EV技術では日本メーカーが世界に先駆けています。EVでパイクスピークを制することは大きな意味を持つと思います。

増岡:技術開発もそうですけど、EVがエンジン車と互角かそれ以上に戦えるということは、やはり世界にアピールしたいですし、EVを普及させるという意味でも良いPRになると思います。ラリーと一緒で、誰もが走れる道を走るわけですから、基本性能の高さを証明したい。


----:まずは練習走行に向けて、何か戦略というものはあるのでしょうか。

増岡:もちろん、まずはクルマに慣れないといけないし、現地でも若干微調整というのもあると思いますが、実はもうセッティングも2つ見つけてあるんです。ただ、日本のテストコースでは坂のあるコーナーがないので、ひとつは予備としています。あとは勾配対策ですね。その調整くらいかな。

戦略的には、昨年は予選でワンツーでしたが、2台とも雨でやられてしまったのでうまくばらけることができれば。かなり降ったんですが、乾くのはものすごく早かったんですよね。グレッグ・トレイシー(同チームドライバー)が出て僕がスタートして、その後で、田嶋さん(APEV・モンスター田嶋氏)が時間をおいてスタートして。その時はもう湯気がたつほどだったので、田嶋さんは結構良い条件で走れたと思います。スターティングポジションは上手く考えないといけません。


----:パイクスピークへの参戦は、市販車への技術のフィードバックがねらいということですが、どの分野が最も早く実現化できそうですか。

増岡:出力じゃないかなと思います。効率化を追求していくと、要は同じ出力だったら小型軽量になるわけだし、同じバッテリーだったら航続距離を伸ばすことだってできます。EVのエンジンってバッテリーですからね、バッテリーがいかに早く、強いパワーを出すか(が重要課題である)。その制御というものも必要となってくるでしょう。

100%EVって今は航続距離が200kmくらいですよね。そうなるとPHEV。自分で発電することができて、航続距離の心配はいらなくなります。個人的には、やっぱり『ランサーエボリューション』に代わる物をPHEVでつくりたいですよね。バッテリーを少なくして充電の効率を上げて、その分電圧下がるから増圧装置つけてあげれば一時的にはパワーは出せると思うので。やっぱり三菱には走りに特化したものを求めているお客さんはたくさんいますから。

早く楽しい量産車をつくりたいですね。


----:最後に改めてパイクスピークへの意気込みを教えて下さい。

増岡:3年目で経験を積んで来て、クルマも人間も、すごく良い感じで仕上がっていますので、とにかく今年はしっかり結果を出す。総合優勝も夢じゃないと思います。ベストを尽くします。
《宮崎壮人》

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