【エンジニア視点】「いつかはセンチュリーを」新型カローラ・チーフエンジニア小西良樹氏

カローラのチーフエンジニアを務めた小西良樹氏
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100年に一度の変革期と言われる自動車業界。これからのクルマはどう変わっていくのか。日本のクルマづくりを支えるエンジニアたちは、何を見据えるのか…。モータージャーナリスト御堀直嗣氏による連載インタビュー企画「エンジニア視点」では、彼らの言葉、想いから、未来のクルマを担う次世代のエンジニアたちへのエールを贈ることができればと考えている。

第二弾は、昨年登場した新型トヨタ『カローラスポーツ』の小西良樹チーフエンジニア(当時)だ。小西氏は現在、CV製品企画チーフエンジニアとして『ハイラックス』などを手がけている。

カローラとのつながり

トヨタ・カローラ(初代)
第12代目カローラ(カローラスポーツ)のチーフエンジニアをつとめた小西良樹氏は、自動車かロケットか、就職先に迷っていたという。トヨタ入社のきっかけとなったのは、カローラだった。

「カローラを見てカッコいいなと思ったことが、最終的なトヨタ入社の動機になりました」

「また、初代カローラは1966年10月の誕生で、私の生年月日は67年2月なので、言ってみれば同級生になります。それから自宅に最初に来た自家用車が3代目のカローラでした。振り返ると、昔から何かとカローラとつながりがあったと思うことがあります」(小西チーフエンジニア、以下、小西CE)

トヨタ入社後は、車体設計に配属となり10年ほどを過ごす。次に製品企画へ異動となって、カローラや『RAV4』の企画を担当した。そこからプラットフォーム担当になり、今日、『プリウス』や『C-HR』、そして新型カローラで使われるトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)のCセグメント用プラットフォームの開発に携わり、プラットフォーム開発責任者としてそれら新車の発表会等へも顔を出している。

カローラのCEへの辞令は、2015年末に下り、翌16年1月から職務に就いた。

チーフエンジニアとしての重責

小西良樹氏
小西CE:チーフエンジニアとしての職務はまだ期間が短いですが、カローラ自体には、プラットフォーム開発のあと北米カローラの主査を務め、その後にCEとなっています。カローラはグローバルカーですので、全体をまとめるCEの下に、地域ごとの主査が居て、私は北米担当の主査の下で働いたあと主査になり、そしてCEになったという流れです。

CEになるとは思いもよらぬことでしたので、辞令が下されたときには、重圧100%でした(笑)。これは大変なことになったと、頭の中は真っ白です。トヨタの中でも台数の多い車種であり、もし失敗したら大変なことになると。

----:そうした重責を自覚する中で、手始めに何をしたのか。

小西CE:まずこれまでの過去を知らないと何もできないと思い、かつてのCEがグローバルカーのカローラを各地域へ向けてどのように開発していったのか、企画書を読み漁りました。また、出張の機会が得られたときには、現地のお客様や販売店の方に話を聞くことに費やし、半年余りが過ぎました。

そこから見えてきたのは、「カローラのDNA」です。どの地域でも、壊れない/使い勝手が良い/信頼性がある/価格に見合う価値があるといった4つの項目について変わらぬ評価がありました。歴代積み上げられてきたDNAが基盤価値としてあり、カローラはそれを持ち続けている。CEのやるべきことは、その基盤価値の上に、時代や地域の現状に合わせた姿や形というトッピングをしていくことだと考えました。

----:では、12代目カローラに、どのようなトッピングを小西CEはしたのだろう。

小西CE:ワクワクドキドキするエモーショナルな部分をトッピングしようと考えました。

一つは、コネクティッドであり、もう一つはクルマ本来の楽しさ、デザインや走りを大事にすることです。コネクティッドについては、スマートフォンが普及した現代において家庭電化製品はすでにスマートフォンとつながる商品が出てきています。それに対しクルマはやや遅れているのではないかと思いました。コネクティッドカーのお客様への利点や価値とは、安全・安心と、便利で快適という2つあります。

安全・安心では、たとえば万一の際にエアバッグが開くと位置情報から救助に向かうことができます。従来こうしたサービスはカローラクラスにはありませんでしたが、今の時代だからこそ実現できます。

トヨタ・カローラスポーツ
便利で快適な面では、LINEとつながってクルマと友達になり、居間やベッドからでもクルマとやり取りができたり、外出先でドアロックを確認出来たりします。

そのほか、ハイブリッドナビゲーションでは、目的地を設定すると経路の最新データから刻々と最適な道案内をしてくれます。究極は、クルマ同士がつながることにより、ぶつからないクルマづくりへもつなげていくことができます。

いまは、それらの第一段階にあると思っています。とはいえ、クラウンとカローラを同時にコネクテッドデーで発表したように、コネクティッドカーの普及拡大へトヨタの本気を示したと言えます。

----:一方で、変わらぬカローラの使命とは。

小西CE:グローバルカーであることと、技術を大衆化していくクルマであるところは不変です。

たとえばハイブリッドカーの普及において、カローラが世界へ展開していく役目を担っています。欧州市場では、トヨタ車の8割がハイブリッド車になっています。また今後は、コネクティッドと第2世代のトヨタセーフティセンスをカローラで世界へ展開していくことになります。

ハッチバックの「スポーツ」が先行した理由

トヨタ・カローラ 新型(欧州仕様)
----:どの地域でも、壊れない/使い勝手が良い/信頼性がある/価格に見合う価値があるといった4つの基盤価値として、そうした新しい技術もカローラによって世界へ波及していくことになる。

12世代目のカローラは、まずハッチバック(HB)車がカローラスポーツとして登場し、従来の4ドアセダンのアクシオや、ステーションワゴンのフィールダーは、後発となる。なぜ、HBからの市場導入となったのか。

小西CE:2016年にカローラは50周年を迎え、12代目は次の50年へ向けた打ち出しになります。そこで、若い世代の方々にも響くメッセージを込め、デザインもスポーティで車体寸法も扱いやすいHBを先に出しました。

そもそもカローラは、若い人に向けて生まれた大衆車であり、そこにレビン(TE27やAE86)といったスポーティな車種があり、お客様とともに進化してきた歴史があります。その結果、現在のお客様層の年齢が高くなっています。そこで12代目は、原点回帰とでもいうのでしょうか、スポーティなカローラが戻ってきたというメッセージを伝えるため、HBを先にと考えました。すでにご購入されたお客様からは、「AE86が帰ってきた」といった感想もお聞きしています。

----:ちなみに、国内で販売されてきた『オーリス』は無くなり、カローラスポーツは、かつての『カローラII』、『ランクス』、『FX』などHB車の再来という位置づけである。

ところで国内市場では、初代からのカローラに対するある種の印象があるが、グローバルカーとなると世界各地域での期待はまた様々であるのではないか。

小西CE:そこは常に頭痛の種でもあります。それぞれの地域の要望や道路環境は違い、ユーザーの年齢層も異なります。すべての地域に合わせようとすれば、解けない連立方程式に陥ってしまいます。

グローバルカーとして、当然カローラは一つというクルマ作りが基本ではありますが、仕様は仕向け地に合わせてオン・オフしていくようにしています。

たとえばブラジルやタイでのカローラは、高級車の位置づけですので、後席に座られるお客様のため、読書灯やサンシェードを後席に設けています。一方、アメリカや中国では大学生が乗るクルマとして、運転席や助手席など前席で必要な装備が求められます。お客様の求めに応じた仕様や装備のグルーピングをしています。

同時に、道路環境の面では、たとえば南米のアルゼンチンでは高速で走ることが多く、横風も強い交通環境です。インドや中国の山間部ではブレーキ性能が強く求められます。乗り味の味付けは、ソフトとかハードとか地域ごとに調節できますが、基本性能はきちんと高めていくのがカローラの宿命です。

そのなかでも、砂ぼこりの多い地域で故障しないように、さらに、地域に適合させても、そこからさらに他へ輸出されていくこともありますから、そうしたことも含め、使用状況や交通環境を見極めて開発しなければなりません。そうした積み重ねられたタフさが、世界で共通の基盤価値の評価につながっているのではないかと思います。

意志がある所には、道が拓ける

小西良樹氏
----:小西CEは「激動の時代」と、いまの自動車産業を取り巻く情勢を見ている。その未来を、どう読むのか。

小西CE:クルマが変わっていく時代に直面していると思います。コネクティッドや電動化などが追加され、実はこんなに面白い時代はないのではないかと思っています。

コネクティッドによるデータを基に、新しいビジネスが生まれ、クルマづくりも変わり、乗り心地も自動運転になったらこれまでと違うものになっていくだろうと考えています。クルマづくりの尺度が変わっていくので、それを自分で作れるという、苦しさもある反面、楽しさは倍増していくだろうと思います。

----:そうした変化の節目にある時代に、後輩へ伝えたい言葉とは。

小西CE:『意志がある所には、道が拓ける』と思っています。

技術職でも営業職でもどのような職種でも、それぞれの立場で突破しなければならないことが色々あると思います。そのとき、自分はこうしたいという思いがあればなんとかなるだろうし、やりたいことを成就することができるはずです。そう思って私自身もこれまでやってきましたし、その気持ちを忘れないことによって世の中が変わっていくのだろうと思います。

思いが無いと成しえないので、一番大事なのは、思うことです。

----:そういう小西CEが、次にやってみたいことは。

小西CE:この先数年かけて12代目のカローラを世界で切り替えていきます。そのうえで、『センチュリー』に携わってみたいなと思います。

センチュリーが21年ぶりに新しくなりましたが、カローラとセンチュリーではクルマ作りが全く違います。たとえば、鳳凰の彫り物が職人の手作りであったり、すべての部品を少人数で組み立てていく手作りであったり、工芸の世界がいろいろな部品に使われているので、違うクルマ作りの要素を楽しめるのではないかと思うからです。

トヨタには、グローバルカーとして数量と手ごろな価格が求められるカローラがあると同時に、一日3台しか製造できないセンチュリーがある。小西CEがカローラに携わった次にセンチュリーに目を向けた気持ちはわかる。そこに技術者としての純粋な思いが見える。またそれは、トヨタでしかできないクルマづくりへの新たな挑戦である。

《御堀直嗣》

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