東日本大震災から1年。当時を振り返るとさまざまなことが思い出されるが、東北の被災地で震災直後から復興へ向けて、大活躍したクルマがある。真っ暗な避難所に電気を供給し、明かりを灯したクルマがある。
それはトヨタ『エスティマHV』だ。トヨタ本社からも多くの車両が駆り出されたと聞くが、その最大の理由はガソリンの供給が滞った場面で威力を発揮する燃費の良さ(高速巡行で14km/リットル程度はいく)はもちろん、電気がストップした場所で電源供給車として機能する点にある。
エスティマHV搭載のコンセントはAC100Vが1500Wまで使用可能
エスティマHVは走行中、エンジン停止中ともに家庭用AC100V電源が1500Wまで使えるコンセントが車内にふたつ備えられていて、照明器具、暖房器具、テレビ、ラジオ、小型電子レンジ、湯沸器、ホットプレートなどを使うことができる。電源供給車という点ではEVも同じでしょ…と思うのはちょっと違う。EVはバッテリーが底をつけばそれで終わり。ところが、エスティマHVならガソリンが少しでも入っていれば電源供給車として機能し続けるのだから心強い。
エスティマHVは7〜8人乗りの3列シートミニバンであり、シートアレンジでリラックスモード、フルフラットモードになるから車中泊もできる。最大7〜8人が雨風や雪、寒さをしのげる簡易避難所にもなるのだ。
2011年3月11日以降発売のHVミニバンに1500Wコンセントがついていない…
しかし、これだけHVが溢れている時代に、そうしたAC100V/1500Wコンセント機能を持つのはエスティマHVと、新車では手に入らない先代の『アルファード』と同じく先代のエスティマHVのみ。
3月11日以降に発売された『カムリHV』はセダンだから、なくてもしょうがないと言えるが、震災から半年後の9月に加わったミニバンのアルファードHVや『ヴェルファイアHV』のAC100Vコンセントはたった100Wの容量でしかない(三菱『デリカD:5』などガソリン車のセットOP同様)。なぜだろうか?
1500Wを搭載しなかった理由は「環境対応」
その理由を確認したところ、3月11日以前、停車中にその電源機能を使うと、いずれバッテリーが減りエンジンが再始動し、“環境によろしくない”と判断したからだそうだ。そう言えば、いつからかトヨタはエスティマHVの100V/1500Wコンセント機能をおおっぴらにPRしなくなった(現在はやっているが)。また、アルファード&ヴェルファイアHVは3月11日の時点ですでに開発が終わり、仕様も決まっていたため、1500W対応にする時間がなかったのだそうだ。「3月11日以降に開発していたなら、1500Wの可能性はあったでしょうね」とのこと。
ただし、アルファード&ヴェルファイアHVとエスティマHVのHVシステムはほぼ同じ。現在100V/100Wコンセントのみだが、1500Wにアップグレードするのは難しくないという。ミニバンはいざというとき、車中泊が可能だ。それに十分な電源供給装備があれば鬼に金棒。MCなどの機会に、ぜひ1500Wにアップグレードしていただきたい。
マグニチュード7クラスの首都圏直下型地震が4年以内に70%の確率で起こるかも知れない…そんな今、HVの存在価値をさらに高めるため、HVには高い環境性能だけでなく、いざというときに役立つ機能を積極的に盛り込んでほしいと願う。それが、東北地方の人たちとはくらべものにならない被害とはいえ、東京近郊で被災した、いち自動車ジャーナリストの本音である。