少し前に寒冷地試験の様子をレポートした三菱ふそうの電気小型トラック『eキャンター』のニューモデルがいよいよ発売され、早くも市販車に触れる機会が訪れた。実際にハンドルを握って実感したディーゼルトラックとの違い、そしてeキャンターが描く物流の新時代とは。
◆「eアクスル」が実現した3サイズのバッテリー

2017年に初代が日欧米の3拠点で同時に発売されたeキャンターは、これにて3世代目となる。これまで広幅キャビンでバッテリーを6個積んでいるモデルのみのだったところ、選択肢が一気に増えたのが新型の最大の特徴だ。
そのカギとなったのが、後輪を駆動するために新たに開発された「eアクスル」である。これまではディーゼル車ではトランスミッションを配置するフレーム下の部分にモーターを搭載し、プロペラシャフトを介してリアデフに駆動力を伝達させていたところ、新型ではモーターやインバーターやギアボックス等を後軸に統合した独自開発のコンパクトな電動アクスルを採用した。
これにより従来はモーターやプロペラシャフトのあったスペースにバッテリーを積めるようになり、バッテリーはSサイズ、Mサイズ、Lサイズが選べるようになり、車両総重量も使い方や航続距離のニーズにあわせて幅広く選べるようになった。
そんな新しくなったeキャンターの、3サイズのバッテリーを搭載した各モデルにテストコースで試乗した。
◆ディーゼルトラックとの大きな違いは

あらかじめディーゼルの車両もドライブして本来はこういうものだという感触も確認しておくと、ディーゼルだって進化しているので、それなりに乗りやすく、とくにストレスも感じないのだが、つづいてeキャンターに乗ると、やはり別世界だ。リフレッシュされた外観はもちろん、他メーカーにはない雰囲気のインテリアのデザインや色使いもなかなか興味深い。
なお、SサイズとMサイズのバッテリーを積むドライバンには、いずれも110kW(150ps)、430Nmの同一スペックのモーターを搭載しており、それぞれ半積載の状態で試乗。Lサイズは実力を知ってもらうためあえてフル積載とされていた。

見た目がトラックなのにシステムを起動してもエンジンの音がしないのは当然として、ディーゼルも踏めば力強いが初期応答はフワッとしているのに対し、eキャンターはいずれも発進から右足の動きにあわせてリニアに力強く加速し、静かでなからかにスイスイと走れる点で共通している。途中に変速機もないので、踏んだとおりダイレクトにドンと前に進む。
途中、8度と10度の上り勾配が設けられた区間でも、平地とたいして変わらない力強さでしっかりと上っていく。坂の途中で止まっても、ブレーキペダルを強く踏み込むと3秒間、警報が鳴って3秒間の計6秒間、停止状態を保持してくれるので、坂道発進も苦にならない。下り坂では4段階の強さが任意に選べる回生ブレーキを駆使して、安定して走ることができる。
◆8トンでも余裕の走り!バッテリーサイズで走りは変わる

Sサイズのバッテリーを搭載したドライバンは、最大積載量が3トンとなる。全長が5030mmでホイールベースが2500mmと短いキャブオーバーが唯一選べるのもポイントで、異様に小回りが利くことにも驚いた。最小回転半径は4.9mと、5mを切っているのは、乗用車でもなかなかない。モーターによる静かで滑らかでリニアな走りと取り回しのよさで、市街地でもバツグンの機動性が期待できそうだ。かねてからあった、このサイズの電気トラックを求める声にもしっかり応えられるに違いない。
Mサイズのバッテリーを搭載した6トンのドライバンは、最大積載量は2.4トンで、全長が6210mm、ホイールベースが3400mmとだいぶ大きくなる。こちらをドライブして印象的だったのは、操縦安定性の高さだ。ある程度ホイールベースが長く、重量物であるバッテリーが車体の中央よりの低い位置にレイアウトされているので、見た目のイメージよりもずっとコーナリングが安定している。ためしに急ハンドルを切ってみても、挙動が乱れにくくて横転しそうな気配を感じないあたりも、このクラスのディーゼル車に対するアドバンテージといえそうだ。

最後に、Lサイズのバッテリーを搭載した8トンのウイングをドライブした。モーターは129kW(170ps)、430Nmと前出の2台よりもハイパワーとなっている。こちらは全長8365mmで、ホイールベースが4750mmあり、EX拡幅キャブなので全幅も2120mmに達している。前出の2台が準中型のところ、こちらは中型免許が必要となる。
車両重量が6030kgで、20%という登坂性能は変わらず、このクルマだけフル積載で1.8トンのウエイトが搭載されて前出の2台よりもずっと重い状態になっていたにもかかわらず、ものともせず登坂路をスムーズに力強く駆け上がっていくことに感心した。
◆PTOも電動化、まさしく「物流の新たな時代の幕開け」だ

会場では、社外のインバーターを用いた外部給電の様子や、PTO(パワー・テイク・オフ=動力取り出し装置)を搭載した車両も見学することもできた。
PTOについて、ディーゼル車では一般的にトランスミッションの横から動力を取り出す仕組みとなっているが、eキャンターではかわりに「ePTO」と呼ぶ小さなモーターを配し、油圧ポンプ等を駆動することで、コンポーネントとしてはこれまで架装メーカーが使っていたものを同じように使えるようにされている。
ディーゼル車ではPTOを使うとエンジン回転数が上がって、それなりに騒々しい思いもするところ、eキャンターのePTOならそれがなく、デモ車はディーゼル車ではかき消される油圧ポンプの音が多少聞こえる程度だった。そのあたりも大きなメリットとなる。
排出ガスをまったく出すことなく使うことのできるeキャンターが大幅に進化し、ラインアップも拡大されたというのは、本当に画期的なことと思う。まさしく「物流の新たな時代の幕開け」といえそうだ。