トヨタ量産EV『bZ4X』の国内提供はサブスクのみ---報道のなぜ?

トヨタ bZ4X(米国仕様)
  • トヨタ bZ4X(米国仕様)
  • スバル・ソルテラ
  • ヒョンデ・アイオニック5日本導入
  • 豊田章男社長がトヨタのバッテリーEV戦略を発表 《写真撮影 三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY》

17日付け日経新聞が、トヨタは量産EV『bZ4X』を当面国内販売はせず、KINTOなどのサブスクリプション、法人向けリースなどに限定すると報じた。事実関係を取材した。

なお、最初に断っておくが日経新聞の記事は、トヨタおよびスバル(bZ4Xの姉妹車である『ソルテラ』を発表している)の正式発表に基づくものではない。形式的には日経のスクープまたはリークした記事(もちろん飛ばし記事、観測気球という解釈も不可能ではない)であり、筆者の取材に対してもトヨタ、スバルは「正式発表を待て」と口をそろえる。本件については、近いうちに2社からの発表を期待したいところだ。

国内状況を鑑みるに、当面はEVを市販せずリースやサブスクリプションに限定することには一定の合理性がある。この部分がトヨタ内部の決定事項であっても不思議はない。トヨタからの回答は「今後のBEVバッテリーのリサイクルを含めたカーボンニュートラルへの道筋を見据ていくのと同時に、bZ4Xをお客様が安心してご利用頂けるような販売施策を考えている」とあり、日経報道を完全に否定するものではなかった。ただ、2021年12月14日の発表内容に変更はなく、2025年までに全国ディーラーにDC急速充電器を整備する計画は変わらない。bZ4Xの国内販売がなくなったわけではない(トヨタ回答より)。

マツダは、『MX-30』発表のとき、当面はリース販売しかしないとアナウンスしながら、実際の出荷直前にはディーラーでの市販も行うと変更した。では、なぜトヨタは大々的にEV戦略の国内発表をしておきながら、サブスクリプションからスタートという方針が生まれたのだろうか。

この疑問は、日経報道が観測気球(事前情報の反応をみて正式発表を行う)ではないかという憶測を補強する。だが、それは些末な問題だ。バッテリーの供給体制やリサイクルの問題は、12月の発表時には当然検討されているべき課題だ。車載用大型リチウムイオンバッテリーのリサイクルは小型家電等のそれとは違った課題はあるものの、焼却や希土類抽出の技術的手法は確立されている。日産は、リサイクルに加えHEMSの蓄電池や小型車両・装置、再パッケージなどリユースビジネスでバッテリーエコシステムを整備しつつある。12月の時点でトヨタがこれらを考慮していないはずがない。

日経記事には「国内では中古車市場に出回るEVが少なく、バッテリーの劣化で、中古車として再び販売する際の価値が低いとされる」との記述がある。トヨタの強さのひとつは、リセールバリューの強さだ。各国の中古車市場でも値段が下がらない。オーバークオリティともいえる造り込みとブランド価値によって、ディーラーも高い下取りが可能で、販売のインセンティブコストも抑えることができる。KINTOのビジネスが成立するのは、リースバックまたは返却されてもトヨタ車なら中古車市場に流せるからだ。

トヨタとして、グローバルビジネスのキーバリューのひとつに対するリスクは極力排除したいという心理が、サブスクリプションを優先させたという見立てだ。奇しくもヒョンデは『アイオニック5』のオンライン販売にあわせて、エニカによるシェアカーを国内展開する。KINTOにしてみれば、bZ4Xというそれに対抗しうる商品が手に入るわけで、願ったりかなったりかもしれない。アイオニック5が7月にも納車がスタートすると言われているところ、22年半ば発売予定のbZ4Xの納車は、それより後になる可能性が高い。トヨタとしても、欧州他より新車EVの初動が読みにくい日本市場において、アーリーアダプタ層がアイオニック5や日産『アリア』、テスラ『モデルY』(22年に国内市販予定)に持っていかれるリスクを減らせる。

ネットなどの反応では、主にEV支持層からは「昨年の発表はなんだったのか?」「やはりトヨタはEVを売る気はなかったのか」と落胆する声があがっている。逆に「日本にEVは必要ないので妥当な判断」「顧客重視のトヨタならではの良心的戦略」という評価もある。

だが、現段階でこれ以上の議論にあまり意味はない。トヨタおよびスバルによる正式発表を待ちたい。とくにKINTOは原則トヨタ車のみがサブスクリプションの対象だ。KINTOの取り扱い車両が拡大されるのか、スバルが新しいサービスを投入してくるのか、気になる点は多い。

《中尾真二》

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