半導体大手のインテルは6月22日、都内において報道陣向けに「インテル・プレスセミナー」を開催した。自動運転の実現を支援するインテルの取り組みとして、車載向けプロセッサ・5G通信・クラウドの三本柱をアピールした格好だ。
インテルの注力分野のひとつが自動運転
セミナーではまず、インテル株式会社代表取締役社長の江田麻季子氏が登壇し、新ブランドのプロセッサーやゲーミングへの取り組みについて説明した。
「新ブランドのプロセッサー『Xeon(ジオン)』が登場します(2017年半ば出荷開始)。そして、ゲームなどでますますハイスペックが求められるデスクトップPC向けに、新しいCore Xシリーズプロセッサーを発表しました。またゲーミングについては、e-Sportsへの取り組みをさらに強化し、『インテルグランドスラム』を開催します」
そしてインテルの注力分野については、「自動運転、AI/機械学習、IoT、5G、VRゲーム/e-Sportsの5つを成長領域として注力します」と説明した。
人間とクルマの関係は大きく変わる
次に事業開発・政策推進ダイレクター兼チーフ・アドバンストサービス・アーキテクトの野辺継男氏が登壇し、なぜインテルが自動運転に取り組むのかを説明した。まず野辺氏は、自動車開発の歴史を振り返ることで、近年自動車の開発が指数関数的に加速していることを説明した。
「自動車開発の歴史を振り返ると、1908年にT型フォードから量産が始まったあと、1970年まではITと無縁で、メカニカルな開発が進められてきました。その後1970年ごろから電子制御が始まりました。公害が表面化して電子制御インジェクターが導入され、続いてスタビリティコントロールも実現しました。そしてカーナビゲーションが登場し、(カーエレクトロニクスの)主役となりました」
「2000年から2010年にかけて、iモードをはじめとしたモバイルインターネットが始まります。クルマもインターネットにつながり、オンラインルート検索やゲリラ豪雨情報、EVスポットの更新など地図の更新も実現しました。2010年から2015年はスマートフォンがグローバルに普及しました。クルマもクラウドとつながり、各種ウェブサービスが登場しました」
「そして2015年から2020年にかけて、クルマはクラウドの3次元地図データベースを利用し、センサー情報と連携した深層学習が始まります。カメラや各種センサーで集めた情報をクラウドで分析するようになります。さらに2020年から2025年には、ビッグデータと深層学習が走り方を習得し、個々のクルマに運転の仕方や状況判断がフィードバックされるようになるでしょう」
「人間とクルマの関係は、この先10年から20年間で、これまでの100年間以上の変化がもたらされるといわれており、それはコンピューターによって実現されます」
次に野辺氏は、自動運転の分類と実現時期について言及した。「自動運転の種類は、移動速度と難易度で分類することができます。高速道路は、速度は高いですが交差点がなく、白線の真ん中を走ればいいので難易度は低いですが、いっぽう生活道路においては、速度は低いですが白線もなく、障害物が多いので難しいです」
「高速道路以外の自動運転の実現は、当初2025年ごろになるのではと見られていましたが、ビッグデータと深層学習の強化によって、2020年にはドライバーレスタクシーが実現するのではないかというのが最近の見立てになっています。このようなラストワンマイルのトランスポーテーションは、宅配ドライバーの人手不足問題と併せて、活発に議論されています」
「このような自動運転を実現するためのコンピューティング能力をインテルは提供することができます。自動運転の実現を引き続き支援していきます」
車載、通信、クラウドの三本柱を提供
続いて、執行役員Automotive担当の大野誠氏が登壇し、自動車ビジネスの取り組みについて説明した。まず大野氏は、インテルの自動車分野における実績をアピールした。
「当社は最近になって急に自動車ビジネスを始めたわけではなく、本格的に参入し始めたのは10年ほど前になります。カーナビやインフォテインメント分野にx86系CPUを提供するなど、国内外の自動車メーカー、Tier1部品メーカーと30車種を超える車載向けビジネスの実績があります。もちろん日本国内においてもメーカー数社に採用されています」
次に大野氏は、自動運転に向けた取り組みについて説明した。「完全自動運転が実現すると1日あたり4TBを利用すると言われており、これだけ大量のデータを処理するためには車載アーキテクチャを大きく変える必要があります。現在の分散型から、統合型サーバーのようなコンピューティング性能が必要になります。ここにインテルのノウハウが生かせると考えます。また加えて、自動運転には高速ネットワークと、自動運転のアルゴリズムを提供するクラウドデータセンターが必須です。インテルはこの点でも実績があります。インテルGOオートモーティブソフトウェア開発キット(SDK)によって、車載コンピューティング・ネットワーク接続・クラウドを提供します」
「ご存知の通りインテルは、BMW、モービルアイとの提携、(地図大手)HEREへの出資、さらにモービルアイ買収の発表、公道での(レベル4)自動運転デモ走行に取り組んできました。また昨日には、BMW/インテルのチームにコンチネンタルが合流することを発表しました。これまでの経験を活かして、国内でも積極的に活動していきます」
◆FPGAの優位性とは
最後に、日本アルテラ株式会社の代表取締役社長、和島正幸氏が登壇し、FPGAの特徴について説明した(アルテラは、インテルが買収したFPGAベンダーである)。
「2015年にアルテラはインテルに買収されました。これは、FPGAが自動運転のキーデバイスであるからに他なりません。ハードウェアのフレキシビリティ、高い消費電力効率に優位性があるからです」
「FPGAは近年、量産品に多く利用されてきています。半導体製造装置や産業用ロボット、メガソーラーのパワーコンディショナー、VRゴーグル、ドローン、データセンター、遠隔医療機器、電車車両など、幅広い用途に利用されています」
「特に自動車分野では、車載コンピュータ、通信インフラ、データセンターに使われています。車両においてはセンサーフュージョン(情報統合)の処理、通信においては5Gインフラの送信機、データセンターでは機械学習で利用されています。FPGAの利点は、ハードワイヤード回路による演算処理の最適化が可能であること、多種多様な仕様を即座に実現できること、簡素化された回路構成によって高い電力効率を実現することです。これにインテルのハイパフォーマンスCPUを組み合わせることができます」
「自動運転の実現に向けた自動車メーカーのニーズは、演算能力と電力効率、高速なリアルタイム処理、セキュリティがあります。インテルGO開発プラットフォームは、このようなニーズに対して、Xeon (CPU) + ARRIA10 (FPGA) または ATOM+ ARRIA10 の組み合わせで応えます」
「FPGAの特徴は、高い電力効率、低レイテンシ、車両ごと・仕向地ごとに再プログラム可能なアクセラレータ、ROMの暗号化などによる堅牢なセキュリティー、容易なプログラミングが挙げられます。インテルGO開発プラットフォームでは、OPEN CLでハードウェアを設計できる開発環境を提供しており、開発を支援します。」
「またARRIA10については、第10世代のFPGAであり、最大1テラフロップスの浮動小数点演算性能、66万のカスタムロジック領域、高速なインターフェイス、インテルGO自動車向けSDK対応などの特徴があります」
質疑応答
Q:自動運転に向けたビジネスの三本柱として、車載コンピューティング、ネットワーク接続、データセンターが挙げられている。将来的に、それぞれどの程度の規模のビジネスになると考えているか。
大野氏:現状としてはデータセンターのビジネスが大きいが、車載がデータリッチになっていく状況ですので、自動運転が実現する状況になるにつれて、Xeon/Atomといった車載チップも必要になると思っています。2020年以降を見込んでいます。
Q:GPU、また先日Googleが発表したTPUに対するFPGAの優位性とは何か。
和島氏:まず消費電力性能が挙げられます。利用するアプリケーションによって回路を最適化できるからです。また、ハイパフォーマンスなCPUとFPGAの組み合わせが実現できるのはインテルだけです。一気通貫で環境を提供できることが強みであると考えます。
Q:ネットワーク接続でのインテルの優位性とは何か。
大野氏:ネットワークについては、インフラ側のベースステーションをインテルが提供しており、また車載側では、他社に先行して5Gモデムのチップの開発をしています。今年後半にはサンプルチップを提供できる見込みです。つまり、インフラ側、車載側共に優位性があると考えます。
解説:FPGA陣営とGPU陣営の対立構図
インテルはこのところオートモーティブビジネスに本気で注力している。なぜかというと、車載SoC(システムオンチップ)市場は、パソコン、スマートフォンに続く巨大半導体市場になるからだ。これまでインテルは、FPGAのアルテラ、さらにカメラおよび画像分析技術のモービルアイの2つの大型買収をこなし、加えて地図大手HEREへの出資も実行している。この一連の動きと連動して、自動車メーカーではBMW、メガサプライヤーではコンチネンタルとの陣営形成に成功した。これによって、NVIDIA+アウディ/メルセデス+BOSCH/ZFのGPU陣営との対立構図がはっきりした。
一般論として、GPUは演算性能に、FPGAは消費電力に優位性があるが、このところNVIDIAも低消費電力を謳う車載SoC『Xavier(エグザヴィア)』を発表するなど、競争が激化している。またスマートフォンのSoCでは圧倒的シェアを持つクアルコムも、車載SoCで最大シェアのNXPを買収するなど、車載SoC市場をめぐる覇権争いが激化している。きたる巨大市場を制するのは、FPGAかGPUか、あるいは部分共存することになるのか。