【日産 ルークス 3700km試乗】現行すべての軽スーパーハイトワゴンで3000km超走った筆者が感じた「長所と短所」[後編]

上質感を求める人にもターボを積極的にリコメンドしたい

ロングラン燃費はリッター約20km、コツを掴み切れず…

違和感のなさに心血が注がれたインテリア

スーパーハイトワゴンの中では最も彫りの深い造形を持つ日産 デイズルークス ハイウェイスター。ヘッドランプはアクティブハイビーム。
  • スーパーハイトワゴンの中では最も彫りの深い造形を持つ日産 デイズルークス ハイウェイスター。ヘッドランプはアクティブハイビーム。
  • 日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのフロントビュー。
  • 日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのリアビュー。
  • 日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのサイドビュー。
  • 日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのフロントマスク。
  • BR06型0.66リットル3気筒ターボエンジン。フラットトルク型の運転しやすい特性だった。
  • インパネ、ダッシュボードまわりの質感の高さは軽スーパーハイトワゴン随一。
  • 開放感より囲まれ感を重視した空間設計だった。

日産自動車の軽スーパーハイトワゴン『ルークス』の上位モデル「ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション」で3700kmあまりツーリングする機会があった。前編『軽スーパーハイトの王『N-BOX』にも勝る3つの要素とは』では総論、ボディ&シャシー、ADAS(先進運転支援システム)について述べた。後編はまずパワートレインのパフォーマンスから。

◆上質感を求める人にもターボを積極的にリコメンドしたい

日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのフロントビュー。日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのフロントビュー。

ルークスのエンジン「BR06」型は前型である『デイズルークス』時代の三菱設計のものではなく、ルノー=日産アライアンスの新興国向け小型車用0.8リットル「BR08」のボアを縮小して0.66リットル化したもの。
元はボア69×ストローク71.2mmとほぼスクエアだったが、ボアが62.7mmまで縮小された結果、ボアストローク比1.14というロングストローク型のエンジンとなった。

吸気、排気両方のカムシャフトに可変バルブタイミング機構を装備、1気筒あたり2本の燃料噴射装置を備えるツインインジェクターを採用、タービンのウェイストゲートも電動化するなど、ベースエンジンからのジャンプアップのためかなり頑張って手を入れているという印象だ。セットアップされる変速機はジヤトコ製のCVT(無段編組機器)だが、これもBR06エンジンと結合した状態でエンジンベイに収まる長さに設計された新造品。

BR06型0.66リットル3気筒ターボエンジン。フラットトルク型の運転しやすい特性だった。BR06型0.66リットル3気筒ターボエンジン。フラットトルク型の運転しやすい特性だった。

BR06エンジン車といえば、筆者は『デイズハイウェイスター』の自然吸気グレードを3400km走らせ、本サイトでインプレッションをお届けしたことがあるが、自然吸気エンジンについては低中回転域のトルク感がいささか薄く、回転フィールがちょっとガサガサしているうえ中高回転では急速燃焼のノイズも大きめと、あまりいい印象がなかった。

それに対してターボエンジンは一転、回転フィールは断然滑らかでノイズも柔らか。ターボの過給圧がわりと低回転から機敏に立ち上がるセッティングで、車重1000kgというヘビー級のボディを軽やかに加速させるだけの中間トルクをスロットル操作ひとつで自在に調節できるという感じだった。もちろんエンジン回転数も加速、クルーズの双方で自然吸気よりずっと低くてすむ。ターボといえばモアパワーを求めるユーザー向けというイメージが強いが、ルークスの場合は車重がことのほか大きいということもあって、上質感を求める人にもターボを積極的にリコメンドしたいと思った次第である。

◆ロングラン燃費はリッター約20km、コツを掴み切れず…

兵庫県北部、余目から西へは山陰近畿道で。流れの遅い新直轄道路ではそれほど燃費を落とさずにすんだ。兵庫県北部、余目から西へは山陰近畿道で。流れの遅い新直轄道路ではそれほど燃費を落とさずにすんだ。

次は軽自動車にとって重要なファクターである経済性を担保する燃費。まず、擦り切り満タン法による区間別の燃費を列記してみよう。平均燃費計の値は平均で約8%過大と、誤差はいささか大きめだった。

1. 東京・葛飾~愛知・西尾 22.2km/リットル (360.1km、16.20リットル)
厚木~裾野までの約60kmは東名高速。あとは国道バイパス主体。

2. 西尾~兵庫・豊岡 19.3km/リットル (311.9km、16.16リットル)
琵琶湖岸の長浜から京都北岸、宮津天橋立までの150kmは高速。

3. 豊岡~福岡・田川 21.6km/リットル (587.8km、27.23リットル)
山陰道を含む国道9号線ルート。北九州で5リットル中継給油。

4. 田川~鹿児島・鹿児島市 20.8km/リットル (332.6km、15.99リットル)
短い山岳路含む。うち九州道、南九州道約160km。

5. 鹿児島エリア 15.5km/リットル (384.5km、24.75リットル)
道路比率は市街地5、郊外路2、高速3。

6. 鹿児島市~福岡・田川 19.4km/リットル (323.4km、16.68リットル)
九州道と一般道の混合ルート。平均車速やや高。

7. 田川~兵庫・豊岡 20.7km/リットル (574.9km、27.82リットル)
山陰道を含む一般道。途中、鳥取で15リットル中継給油。

8. 豊岡~静岡・浜松 22.2km/リットル (415.1km、18.74リットル)
若狭湾~琵琶湖岸経由。オール一般道。

9. 浜松~神奈川・横浜 19.6km/リットル (231.4km、11.81リットル)
国道1号線バイパス、箱根峠越え。西湘バイパス以外は一般道。

10. 横浜~東京~川崎 22.9km/リットル (191.9km、8.38リットル)
一部渋滞ありの都市走行。平均車速低。

肥薩おれんじ鉄道の日奈久温泉駅にて。肥薩おれんじ鉄道の日奈久温泉駅にて。

燃費の傾向だが、低負荷走行ではスーパーハイトワゴンの中で最も重い車重1000kg、ターボエンジン搭載というアゲインストを跳ね返して超優秀。負荷が高まるにつれてそれが急激に落ち込んでいくという挙動が顕著だった。

ドライブ冒頭、手始めに東京・葛飾から環状7号線、国道246号線と一般道を通って神奈川の東名厚木インターまで走ったが、そこまでの平均燃費計値は実に25.8km/リットル。計器値と実燃費との誤差が8%プラスとしても23.7km/リットルは走れたことになる。ドライブのラスト、第10区間は渋滞含みの都市走行だったが、そこでも実測で22.9km/リットルを記録した。ルークスハイウェイスターは駆動力アシスト機能を持つISG(発電機兼エンジンスターター)を使用するごく小規模なパラレルハイブリッドだが、都市走行ではそれなりに燃料節減効果を発揮した格好だ。

ハイスピードクルーズでは一転、かなり燃費を落とす。ドライブ開始直後の思わぬ好燃費に「燃料高騰の折、これはお財布に優しそうだ」と喜びながら東名厚木インターから高速に乗ったところ、今度は劇的な燃費低下に見舞われた。瞬間燃費のバーグラフ表示から類推するに、平坦地における実測100km/h(メーター読み105km/h)クルーズで平均燃費15km/リットルのラインをキープできるかどうか微妙なところだった。

兵庫県北部、釜屋海岸にて。兵庫県北部、釜屋海岸にて。

筆者は混雑で全体の流れが遅い時はともかく、普段は制限速度よりも遅いペースで走るのはまったく性に合わないタチなのだが、大井松田~御殿場の登り勾配を乗り越えたあたりで戦意喪失。裾野インターで高速を下り、それからは一般道主体で走った。第1区間の燃費は22.2km/リットルとそこそこ良かったが、序盤の好燃費と高速を降りてからのリカバーあってのもの。その後もショートカット効果が高い区間では高速を利用したが、そのさいも基本的に遅い流れに乗った。それなら燃費低下は限定的ですむ。

最後に郊外走行だが、ハイブリッドシステムは中速域以上ではほとんど効果を発揮しない一方、高速走行ほどには熱効率の悪い高負荷領域を使わないですむということでスコアは中庸。少し速めに走った区間ではリッター20kmを切るが、ちょっとマイルドに走ればロングランではリッター20km超くらいは出せる。ただし、都市走行ほどには燃費節減テクニックは効かず、第1区間と並んで燃費値が最良だった第8区間でも22.2km/リットル止まりだった。もっとも燃費はクルマのポテンシャルの高低だけでなくドライバーとクルマの相性も正直ある。もうちょっと効率よく走れそうな気もしつつ、最後までコツを掴み切れないままだった。

◆違和感のなさに心血が注がれたインテリア

助手席側からダッシュボードまわりを俯瞰。隙なくデザインされていた。助手席側からダッシュボードまわりを俯瞰。隙なくデザインされていた。

普通車から乗り換えても違和感のないクルマを目指したという日産の軽自動車の第2弾であるルークスハイウェイスター。その違和感のなさを実現するために心血が注がれていると感じられたのはインテリアの作り込みである。

柔らかな触感のタン色のパッドがダッシュボードからドアトリムにかけて広範囲に張られ、ダッシュボードのそれはミシン縫いだ。もちろんそれらは本物のレザーではなく合成皮革なのだが、色の選択や質感の出し方が非常に上手く、大衆車の加飾にありがちな涙ぐましい必死さは感じられない。同じ日産車では、『オーラ』のサブネームが付かない通常版『ノート』やBEV(バッテリー電気自動車)の『リーフ』などの上位モデルに対して下克上状態にあると言っていい。他メーカーを見回しても大抵のBセグメントには勝っているという印象だった。

シートレイアウトは後席のヒップポイントが高いセダンライクなもので、後席はスーパーハイトワゴンとしては珍しくたっぷりとしたシートクッション厚を持つ。デザインや各部のタッチだけでなくライドフィールの面でも普通車ライクを目指したとという印象である。後席の座面は他のスーパーハイトワゴンと異なり、膝裏からふくらはぎにかけて角度をつけたカットとなっており、座り心地はスズキ、ダイハツ、ホンダ、日産/三菱自の中でダントツにいい。また十分なウレタン厚の座面が後輪近くに着座するスーパーハイトワゴンでは強く出やすい突き上げ感、揺すられ感を効果的に抑制していた。乗り心地は上々である。

フロントシートは日産独自の耐圧分散理論「ゼログラビティ」に沿った設計。身体へのフィット感が心地良かった。フロントシートは日産独自の耐圧分散理論「ゼログラビティ」に沿った設計。身体へのフィット感が心地良かった。

前席は日産がゼログラビティと銘打つ独自の体圧分散理論に基づく設計。同様の設計ポリシーを持つ同社のBセグメントサブコンパクトのノートよりは落ちるが、身体へのフィット感と体幹がブレないための支持力をうまく両立させたいいシートだった。シートのかけ心地の良さは高価な車両価格を押してルークスハイウェイスターを選択する動機になり得る。

後席は大きくスライドさせることができ、その幅は32cmにも達する。後席を一番前に寄せると荷室の奥行きを普通車のAセグメントトールワゴン、ダイハツ『トール』と大して変わらないくらい拡張できる。ただしそこまで後席をスライドさせるとレッグスペースがかなり不足するので、あくまでシートを倒さずに荷室を拡張できるという程度に考えておくのが吉。後席に人が乗る場合の荷室の奥行きは最大で60cmといったところだった。後席シートバックを倒すと広大な荷室空間を作り出せるが、フロアの凸凹はライバル中最大。この点はシートクッションの厚みを優先させたことと引き換えになった部分だ。

前席の視界はスーパーハイトワゴン中、良くも悪くも最も乗用車的。フロントガラスの傾きが大きく、他のスーパーハイトワゴンほどルーフが視界前上方に被っていないので、上方まで景色がひらけている。なるほどミニバンを含めた普通車から乗り換えても違和感は小さいだろうと思われた。一方でAピラーの傾きが大きいことにはデメリットもある。スーパーハイトワゴンの常でAピラーが2分割され、その間が小窓でシースルーになっているのだが、その面積が最小で2本ピラーがちょっとうるさいという印象だった。またボンネット先端が乗用車ライクに丸められているので、フロントエンドの見切りは角張った他のスーパーハイトワゴンに比べると若干落ちる。

リアシートバックを立てた状態で荷室を最大に拡張。荷物は大量に積める。リアシートバックを立てた状態で荷室を最大に拡張。荷物は大量に積める。

室内の収納は豊富で、この点はスズキ『スペーシア』に次ぐ良さだった。大変便利なのは助手席側のグローブボックス上の引き出し。最近はなぜか車内にティッシュボックスの置き場が欲しいという声が多いのでそのために作ったものと考えられるが、ここをティッシュで潰さない場合、容量、使い勝手の両面で実に有能な小物スペースになる。助手席シートアンダートレイが二重底で車検証と取扱説明書をそこに入れられるため、グローブボックスも収納スペースとして機能する。ロングドライブにおいては収納スペースの作り方によって整理整頓に大差が出るので、大変有り難く思われた。

◆まとめ

ドアを全開にしたところ。後ドアの間口の広さはスーパーハイトワゴン中最大だった。ドアを全開にしたところ。後ドアの間口の広さはスーパーハイトワゴン中最大だった。

普通車から乗り換えても違和感のない軽自動車づくりを目指す日産自社開発の軽第2弾、ルークス。少なくともテストドライブを行ったハイウェイスターGターボ プロパイロットエディションに関しては、その開発目標にかなったクルマに仕上がっていた。

快適性の高さ、操縦性の自然さ、後席のヒップポイントを高く取ったシート配置やデザイン性の高いインテリア等々はまさに普通車ライクと評するに足るものだった。またプロパイロットモデル専用装備ではあるが、アクティブハイビームを持つのもポイントが高かった。ただし、快適性に関してはメリットを享受できるのは中低速域、もしくは良路限定。普段の快適性が高いぶん舗装面の荒れた高速道路、バイパス等では落差が大きめ。ハンドリングを犠牲にすることなくこの弱点を解決できれば商品性をさらに高めることができるだろう。

ライバルは軽スーパーハイトワゴンすべて。筆者は現行スーパーハイトワゴンすべてについて3000km超のロングツーリングを試している。その体験を通じて商品特性を一言で表すとホンダ『N-BOX』が全方位ハイバランス、ダイハツ『タント』が運転・同乗の両面で高齢者に優しい、スズキ『スペーシア』は若年層向けの軽快なツーリングギアといったところ。価格的にはスズキ、ダイハツが安価、ホンダ、日産/三菱自が高価と二極化している。

2022年のルークスの販売台数はその中で最下位。軽自動車に限らず無差別級で国内販売首位だったホンダ『N-BOX』とは3倍弱の差をつけられた。たしかにN-BOXはすごいクルマで、速度レンジの低い日本においては4名までのトランスポーターにこれ以上のものを求める必要があるのかという出来だが、項目によってはルークスが勝っている部分も少なからずあることを考えると、ここまで惨敗するほどの差があるようにも思えなかった。

足を引っ張っているのがデザイン的な好みなのか価格なのかはわからないが、スタイリングについてはビッグマイナーチェンジでエクステリアが大きくリフレッシュされる。そのことで勢力構図に変化が表れるかどうかは興味深いところだ。

日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのリアビュー。日産 デイズルークス ハイウェイスター Gターボ プロパイロットエディションのリアビュー。
《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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