ステランティスは同社BセグメントSUVに、4つ(少なくとも日本は)兄弟車を作った。ブランドはアルファロメオ、フィアット、プジョー、そしてシトロエンである。
【画像】アルファロメオ・ジュニア Ibrida スペチアーレ
いずれのモデルにも、ピュアテックと呼ばれる以前からPSA系のモデルに使われた、3気筒1.2リットルエンジンを使い、これに48Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせ、CMP(コモン・モジュラー・プラットフォームだが、EMPとも呼ばれる)と呼ばれる、これもPSA系で使われていたプラットフォームを組み合わせたもので、プラットフォーム及びドライブトレーンが共通する。
こうなると、どれに乗っても同じ?という素朴な疑問がわくものだが、先に乗った知人のモータージャーナリストに聞くと、上手い具合に作り分けている…と話してくれた。果たしてその結果は?というと、まさに彼の言う通りで本当にうまい具合に作り分けていて、残念ながらプジョー『2008』には試乗をしていないが、少なくともフィアット、アルファ、それにシトロエンは全く別な乗り味を示し、同時にメーカーの個性もまあ、以前ほど強烈ではないものの、しっかりと味わえる仕様になっていた。
◆4兄弟で最も硬い乗り心地

今回試乗したのはアルファロメオ『ジュニア』である。その名も以前の105系の小排気量モデル、1300で使われていた伝統の名前。クーペではなく、ちょっとクーペ風のSUVとなったが、まあ、売れるトレンドがSUVにある以上致し方あるまい。
正式な名称は「アルファロメオ・ジュニア Ibrida スペチアーレ」という。Ibrida(イブリダ)って何だ?って思ったら、イタリア語でハイブリッドを意味する言葉なんですな。因みにBEVは「Elettrica」というらしい。
今回は試乗したステランティス3兄弟の中で一番多く距離を走り、およそ700km走ってみた。事前にステランティスの車両担当に「違いあるの?」という意地悪な質問をしたところ、乗り心地に関してアルファが一番硬く、シトロエンが一番柔らか。フィアットはその中間という意見を頂いていたが、まさに彼の言う通り。

少なくとも単純に乗り心地に関して言えば、アルファは一番硬い。ただ、いわゆる突き上げ感があるような乗り心地ではなく、確かにハーシュネスは強めに出るものの、都心の工事中の路面などを走り抜けても、「乗り心悪っ!」という感覚ではなかった。
サイズは至ってコンパクト。全長4195×全幅1785×全高1585mmというサイズ。居住空間も、ラゲッジ空間もまあそれなりといったところだが、3人分の1泊2日分の荷物と、かなり大型の工具箱を搭載しても十分ゆとりがあるから、まあ必要十分といったところである。
◆アルファロメオを選びたくなる理由

スペチアーレというグレードは、ハイブリッドに用意される3グレードのうち一番高いモデルで、こちらは限定200台のいわゆるローンチエディションである。それだけに色々と付いていてお値段も533万円(試乗車は542万920円)と、唯一500万の大台を突破する。他のグレードはベースモデルのコア及びプレミアムと名付けられるもので、車両本体価格はそれぞれ420万円と468万円。コアを選べばぎりぎり500万円くらいで収まる勘定である。フィアット『600』とそれほど大きく変わるわけではない価格でアルファが買えるとなると、人情としてはアルファを選びたくなる。
スペチアーレの特徴的な部分として、このクルマにしか装備されないサベルト製の風変わりなバケットシートが付くほか、フロントグリルがBEVと同じプログレッソという名のこちらも風変わりなグリルとなる。他の2台は戦前の『8C』あたりを彷彿させるメッシュグリルに懐かしい字体のAlfa Rmeoの文字が刻まれるもので、個人的な好みとしてはそちらの方が良いわけである。

このサベルト製のシートは中央が盛り上がり、脇腹あたりの両サイドに穴が開いている特殊な形状で、はじめのうちは背骨をグイっと押されている感覚で馴染めなかったものの、超距離は意外なほど、違和感がない。もっとも短足のため座面長が長すぎて個人的には駄目であったが。
メーターは常識化しつつあるディスプレイタイプ。長方形のディスプレイをこれまた古いアルファロメオ特有の(お椀を二つ繋げたような丸形ツインドームとでも言おうか)ダッシュボードルーフの中に押し込んであり、これもアルファロメオらしい演出である。スターターボタンもセンターコンソールの先端につき、それ自体がスポーティーに見えてしまうから、これはもうアルファのセンスにやられていると自分が悟るほどであった。
◆ハンドリングの違いは嬉しい誤算

1.2リットル3気筒と、モーター付きトランスミッションを装備した48V MHEVのドライブトレーンは、それ自体他のモデルと性能的にも完全に一致しているので、特別感はゼロ。
3気筒のエンジンサウンドもおおよそアルファらしくなくて、この部分に関しては全く持ってつまらないのだが、ちょっとしたワィンディングを見つけて少し飛ばし気味に走ってみると、そのハンドリングは明らかにフィアットやシトロエンとは違い、運転を楽しませてくれる設定だったのは嬉しい誤算。
結局、味を占めてそれらしいところを見つけてはアクセルを深めに踏んでみたが、やはり蛙の子は蛙であるという印象を強く持った。
乗り心地を優先しなければ、楽しく乗れるモデルであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。