4月20日・21日の2日間、宮城県のスポーツランドSUGOで「ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE」の第1戦が開催された。この連載の読者にとってはいわゆる「水素カローラ」などのカーボンニュートラルチャレンジ記事でお馴染みの「S耐」である。
これに伴い、20日の土曜日に同シリーズを主催する「スーパー耐久機構事務局(S.T.O)」の組織変更が発表された。
さて、一体どうして池田がそんなマニアックな組織の話をわざわざ記事にするのだと、何ならレースには興味がないからこの先を読むのをやめようかという人もいるかもしれないが、そこにモリゾウ氏が絡んでくるのが記事にする理由のひとつ。驚くべきことに、昨今、モリゾウ氏の動静はそれだけでニュースバリューがある。そしてそれよりももっと大きい理由は、組織変更のインサイドストーリそのものが、書きたくなるくらい良い話だったからだ。
規則を整えブランドを作ることに挑んだ11年間
6月から、S.T.Oは、一般社団法人の「スーパー耐久未来機構(STMO)」に事業継承を行い、その代表理事に豊田章男(モリゾウ)氏が就任する。S.T.O代表の桑山晴美氏は副理事に、新たに加藤俊行氏が専務理事に就任した。新法人にはエネオス、ブリヂストン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険、小倉クラッチ、スバル、マツダ、トヨタ自動車、デンソー、アイシンという錚々たる企業が資金を拠出する。

1991年に設立されたS.T.Oは、草の根型のモータースポーツであるS耐シリーズを開催してきたが、この事業を立ち上げた桑山充氏は2013年に他界し、以来充氏の夫人である桑山晴美氏がその意思を受け継いて運営してきた。
実は晴美氏は、それまでレースには全く縁がなかったとのことで、そもそも仕組みから運営までのなにもかも、全くわからなかったのだそうだ。しかしS耐を自ら立ち上げて引っ張ってきた充氏が亡くなっても、2013年のエントリー取りまとめは進めなくてはいけない。
晴美氏には、周囲から手が差し伸べられもしたのだが、その背景については少し不安な気持ちもあったようだ。事実というのは常に多面的なもので、関係者全てに話を聞けばいろんな解釈があるのかもしれないが、晴美氏が「亡夫の遺志を継ぎたい」という想いに押されてまずはS耐の成り立ちから仕組みまでの全てを学ぼうとしたところ、「晴美さんはお飾りでいい。あとはこちらでやるから」と言われたこともあったという。どうやら、そこにお金やポストを目当てで動いた人もいたようである。少なくとも晴美氏がそう受け止めたことはあったらしい。
晴美氏には本人も気づいていない才覚があったのだろう。ゼロから、全てを学ぶつもりでレースに行くようになると、自然に課題が見えてくる。その時気づいたのは主に2つ。正しい規則に整えることと、S耐のブランドを作ることだった。晴美氏は過去11年間を振り返り、「その課題をひとつひとつ潰していったのが、今に至る私とS耐の11年間だったと思います」と言う。

2021年から始まったST-Qクラスの隆盛
S耐について、充氏は生前、日本にも参加型のレースを起こすことを目標に掲げ、同時に、わが国の自動車産業の振興に資するための実験場としての活用も願っていた。
2021年から始まった今日のST-Qクラスの隆盛は、まさに充氏が願ったレースのあり方を、晴美氏が一歩ずつ実現したストーリーだと言える。ちなみにST-Qクラスとは「他のクラスに該当しない、S.T.Oが認めた開発車両」という特殊なクラスであり、通常のクラス分けのように、性能別のクラス分けではない。要するにメーカー系の実験車両が対象であり、それはごく一部の例外を除いてカーボンニュートラルの実験車両である。
2021年5月の富士で、まずはトヨタが水素ICEの『カローラスポーツ』を投入した。全世界で大きな課題となっている気候変動問題への取り組みとして、水素を燃料としたカーボンフリーの内燃機関は、2050年カーボンニュートラル実現に向けた自動車のサステナビリティのソリューションとして期待されるだけでなく、モータースポーツのサステナビリティにもチャレンジするものであった。
