フォーミュラE 東京初開催を振り返る…独特の予選方式は新鮮味大、やはり待たれるのは日本人選手の参戦

「2024 東京E-Prix」の模様。
  • 「2024 東京E-Prix」の模様。
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  • 「2024 東京E-Prix」の模様。
  • #22 ローランドが力走、日産に母国ポールポジションと母国表彰台(2位)をもたらした。
  • 上位が“1対1”のトーナメント方式で競う予選は実に新鮮。
  • 優勝したギュンター(マセラティ)をファンが間近で祝福する。
  • 東京初代ウイナーに輝いたギュンター(中央)。
  • 勝利を喜ぶマセラティ陣営。

モータースポーツ界にとどまらない大きな話題になった、フォーミュラEの東京初開催(3月30日)。首都の公道も使用したコースでの世界選手権レース(四輪)開催が実現した今、一層の発展に向けてさらなる期待も膨らんでくる。

◆レース前半の静かな攻防戦にも見どころアリ

観戦チケットは“瞬殺”と表現される売れ方を見せ、開催当日は2万人という来場者(ファンビレッジ来場者を含む発表数値)を東京・有明の東京ビッグサイトに集めた、「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」のシーズン10・第5戦「2024 東京E-Prix」。原則1デイ開催のクライマックスとなる決勝レース、その序盤の展開は、腹の探り合いといった様相で数珠繋ぎの静かな攻防戦となった。

そこに“ショー”としての派手さはなかったが、電動フォーミュラカーのエネルギーマネージメントの緻密さと重要さが伝わり、決して広くはないコースで“高速トレイン走行”ができるトップドライバーたちの技量の高さも充分に実感できるものであった。後半、レースが徐々に活性化していくなかでの緊迫感あるアクションもさることながら、この前半の焦らし合いのような戦いにもフォーミュラEの面白みが凝縮されていたように思える。

ただ、東京の前戦サンパウロの決勝レースがゴール寸前で1位と2位が入れかわり、その直後には3~5位を争う3台が並走ゴールするようなスペクタクルな幕切れだったため、それと比較した場合、東京戦のレースとしての見え方が(総体的かつ相対的に)エキサイティングなものとはいえなかったのも事実だ。サンパウロ戦の映像を見て“予習”していったファンには、少々もの足りなかったかもしれない。

とはいえ、チームの母国でのポール・トゥ・ウインを目指して首位を走っていたオリバー・ローランド(日産)をマキシミリアン・ギュンター(マセラティ)が抜いた25周目のシーンは、多くのファンの脳裏に“様々な意味で”刻まれる記憶となったことだろう。フォーミュラEの日本初開催、公道使用の高次元高格式レースとしても日本初開催の実現であった「2024年3月30日」を多面的に象徴するシーンとして、長く語り継がれていくはずだ。

◆東京のコースは「チャレンジングだ」と優勝者ギュンターら

惜しくもポール・トゥ・2位に終わった日産のローランドは、先頭を走っている時間が長かったことがエネルギーマネージメント(エネマネ)の面で不利に働いた可能性をレース後に指摘していた。あそこでギュンターに抜かれていなかったら(さらに長く先頭にいたら)最終的にはもっと順位を下げてしまうおそれもあった、とのこと。このあたりがフォーミュラEの難しさ、奥深さだろう。

日産が4月1日に発行したプレスリリース内では、「スリップストリームでエネルギーをセーブするために(一旦)2番手に後退する作戦を取りました」というチーム首脳トマソ・ヴォルペのコメントも出ている。映像上、ローランドはイージーに抜かれたようにも見えていたが、やはりそういう“状況”だったようだ(これも、あの追い抜きがフォーミュラE東京初開催を象徴するシーンであったことの理由のひとつ)。

今回の特設コースのインプレッションについては、優勝者ギュンター、そして3位に入った前年王者ジェイク・デニス(アンドレッティ)の双方から「なかなかにチャレンジングだ」という談が聞かれた。ドライバーたちのコース総評は概ね良好なようだったが、選手&マシンへのダメージやレース後の車検への影響等々が不安になる箇所もあった。ターン2と3の間の“ジャンプスポット”である。当該箇所ではけっこうなマシンの跳ねが見られていた。

ただ、このジャンプについて「楽しいよ」という表現を使うドライバーも。皮肉まじりな言い方には聞こえなかったので、東京コースの特徴としてうまく調整しつつ残していくのも一手ではあるような気がする(もちろん選手の身体への悪影響がほとんどないように調整することが大前提かつ最優先)。

公道コースというのは意外に(あるいは当然のこととして)特徴が出にくい面もある。路面上にあるひらがなや漢字の交通指示とフォーミュラEマシンが融合した“絵”(写真や映像)は、やはり新たな刺激を創出するものでもあった。

◆待たれる日本人選手の参戦。「ゲスト枠」はつくれない!?

F1日本GP等でもよく知られていることだが、日本のモータースポーツファンは日本人選手や日本に縁の深い選手たちはもちろんのこと、すべての選手(やチームスタッフ)をまんべんなくリスペクトし、応援する。それは今回の東京E-Prixでも同様で、参戦陣からもそれを喜び、讃え、感謝する声が聞かれた。

とはいえ、より近しい存在への応援が強めになるのも当然ではあり、ニック・キャシディ(ジャガー)ら日本馴染みの選手や日産勢に一層大きい後押しがあったことも確かだろう。その意味では、やはり日本人選手の参戦があれば東京戦はもっともっと盛り上がったのに、というシンプルな思いも捨てがたい(フォーミュラEには日本人選手の通年参戦実績はなく、スポット的な参戦も過去、あまり多くない)。

11チーム22人のレギュラードライバー陣容は実力派揃いで、その面では申し分ない。そこに各大会開催地にちなんだゲストドライバーの参戦が加わったら、より大きなムーブメントを起こせる、そんな思いも抱くところだ。

もちろん、ピット設備等にも環境負荷を下げるという施策があり、サステナブルであることを特徴としたシリーズの位置付けや趣旨の関係もあって、ゲスト参戦の実現が難しいことは理解できる。それでも、純粋に競技として、ファンイベントとしての一層の面白さを追求するところが少しはあってもいいのではないか。

ワイルドカード的に3台目の出走が(選手権ポイント対象外で)許されれば、日産からはテスト経験がある高星明誠の東京戦出走が現実味を帯びてくる。フォーミュラEの公式ロジスティックパートナー、DHLのアンバサダーに就任したJujuの早期参戦実現にも期待したくなってくるし、日産の中長期的参戦継続が決まり、ヤマハの新規参入も発表されたのだから、日本勢という“枠”は安定的に広くなるはずだ。すべて勝手な発想の話だが、各大会に計2~3台の“チーム3台目”(ゲストカー)出走を認める方向性の検討をシリーズ側にはお願いしたい。

◆特徴的な方式の予選。レース当日の前座ではもったいない!?

1デイ開催というのも少しもったいなく思える。グループ予選の上位8人(2つあるグループの上位4人ずつ)がトーナメント形式でポールポジションを競う「Duels」は新鮮かつ魅力的に映った。あれが決勝レース前、昼飯前の前座で終わるのはもったいない。

土曜に予選、日曜に決勝レースがいい、と思うのは“レース界”の常識にとらわれた発想であり、フォーミュラEが目指す世界観にはそぐわないのかもしれない。でも、もう少し(繰り返しになるが)楽しいこと優先でもいいように思う。サステナビリティも大事だけれど……。

公道レース開催という、日本レース界にとって長く悲願だったことが実現した意味は大きい。2024年3月30日が歴史上の単なる記念碑になることなく、新しい歴史の起点になっていってほしいものだ。2025年5月を目指しているという第2回東京E-Prixの開催、その実現とさらなるクオリティアップ、そして観戦者数のキャパをひき上げる“クオンティティアップ”にも期待したい。

《遠藤俊幸》

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