スズキ初のBEVはなぜ「軽EV」じゃない?『eビターラ』開発者が語る「EVの悪循環」と「スズキの強み」

スズキ eビターラ 日本仕様(プロトタイプ)
  • スズキ eビターラ 日本仕様(プロトタイプ)
  • 『eビターラ』開発責任者のスズキBEVソリューション本部BEV B・C商品統括部部長兼チーフエンジニア 小野純生さん
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スズキ初のグローバルBEV『eビターラ』が、いよいよ日本に投入される。年度内の発売に向けて日本仕様に関する情報が公開された。スズキ初のBEVが、なぜ競合ひしめくBセグメントSUVなのか、なぜスズキが得意とする軽自動車でないのか。そのねらいや、開発秘話を、開発責任者に聞いた。

◆「EVの悪循環」を断ち切る

そもそも海外生産(インドのグジャラート工場)のBEVであるeビターラを、なぜ日本に導入することにしたのか。スズキBEVソリューション本部BEV B・C商品統括部部長兼チーフエンジニアの小野純生さんは、ターゲット市場について「スズキは日本、欧州、インドがメイン市場です。そして欧州で売っていくためにはEVなくしてはやっていけませんので、eビターラは欧州市場メインで開発をしました」という。

一方、「インドと特に日本のEV市場はまだまだですので、正直そんなに簡単に台数は稼げないと思っています。しかし、自動車メーカーとしてEVの良さやEVとは何ぞやということを、もっと積極的にお客様に知らしめていかないといけない」と小野さん。その結果として、「クルマが売れないからクルマが少ない。だから、お客さんも買わない…という悪循環になっているんです。ですからそこにメスを入れて、お客様にEVは良いものだよ、こういう良いところがあるんだよということを言いたいんです」。そのためにも「eビターラは欧州メインではありますが、日本にも入れてお客様にEVの良さについて上手く話をさせてもらいたい」のが一番の思いだったそうだ。

もうひとつ、導入の背景には現在のスズキユーザーの特性もあった。スズキユーザーは、「軽自動車が多いですよね。そして特に地方の割合が高いんです」と述べる。地方は、「一軒家の比率が高くなり、充電環境を整えやすい。そしてその多くの方が軽自動車とともに登録車もお持ちですので(そういう方々のファーストカーとして)アプローチしやすいのではないかと考えました」とコメントした。

ところで『ビターラ』といえば、もともとは日本で『エスクード』として販売されていたSUVの海外名だ。新型EVとしてこの「ビターラ」をネーミングしたのも気になるところ。「現在もビターラは『スイフト』とともにガソリン車の主力として欧州で販売中です」と小野さん。そして、eビターラも欧州がメインだ。そこで、「ビターラのネームバリューは欧州でとても高いこともあり、初めてのEVですし、お客様がイメージしやすいということでビターラの前にEVのEを付けたわけです」と説明。日本ではこれまでエスクードというブランド名を使っていたが、スズキのEVの世界戦略車ということで世界統一のブランド名にした。因みにビターラとeビターラは、プラットフォームをはじめすべてが違うクルマである。

◆競合ひしめくBセグメントで「4WD」を強みとする

そういう思いで日本に投入されるeビターラ。競合ひしめくBセグメントSUVの中で、その強みとは。「欧州だけでなく日本でもそうですが、ガソリン車も含めてこのセグメントに四駆(4WD)が意外と少ないんです。そこが強みになるのではないか」と話す。さらに「EVに個性はつけられないという方がいますが、本当はモーターだからこそやりやすいんです。EVの4WDはすごく速いし、緻密な制御ができるので、いくらでもやりようがある。そこをユニークセールスポイントにしていきたい」と語る。

またスズキの販売は四駆比率が高いことも小野さんは強みになるという。「日本のスズキでは軽自動車の四駆比率はだいたい3割で登録車は2割ですが、他社はそれぞれ2割と1割くらいです。もちろん我々は地方での販売台数が多いということも四駆比率が高い理由のひとつですし、電動四駆は雪道に強いこともあります」と大きなアドバンテージがあると小野さんは述べた。

EV以外の強みもeビターラにはあるという。「EV云々よりも前に、走りはちゃんとしようと思いました。まずは真っ直ぐ走ること。ハンドルから手を離してもクルマは真っ直ぐ走るものだというのが僕の感覚なんです。そして特にワインディングでは自分が行きたいところにきちんとトレースできる。そこはすごく重視しました。EVという特徴がプラスされるとすごく走りやすいクルマになるんです。そこは重視して開発しました」と述べる。

また小野さんは、「eビターラの電池は475kgあるんですが、それが比較的良い方向に働きました。もちろんこの475kgはすごく大変なことです。なぜならスズキは600kg、700kgのクルマを作っていますから、それとほぼ変わらないような重さの電池を載せるわけです。でもそれによる強度とか剛性などをきちんと確保したことがクルマとしてよい仕上がりに繋がっています」とコメントした。

実は小野さんはeビターラが初めてのチーフエンジニア(開発責任者)としての仕事となった。しかもBEVを含めて初めて尽くしで、EVの開発について知ってる人も社内にもいない状態。そこで小野さんは「とにかくクルマに乗るしかないなぁと、たくさんクルマに乗りました」。そうした結果、「まずクルマとしてちゃんとしっかりしたものにしたい」という思いに至った。そして次に、「EVはまだまだ発展途上の技術であるのは間違いない。その技術の中であっても、お客様がEVだから我慢してもらうということをなくしたい」と取り組んでいった。

そうして実現したもののひとつが「ヒートポンプシステム」で、カタログ記載のEV航続距離と寒冷時でのそれとの乖離をできるだけ小さくするための措置だ。ほかにも寒冷時バッテリー昇温機能やバッテリーウォーマー機能等も搭載し、消費電力を抑えることでBEVのネガを出来るだけ感じさせないように取り組んでいった。「これは値段が高いシステムなんですけど、やらないとどうしようもないなと思いました」と語る。


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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