前輪駆動がマイチェンで後輪駆動に!? ボルボのBEV「40シリーズ」が大胆すぎる改良で“別モノ”になった理由

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)
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車種としてモデルライフ中に、マイナーチェンジなどを機に4WDもしくは逆に、FWD(前輪駆動)が後から追加されたパターンは従来にもあった。でもFWDだったものが後輪駆動に変わったと聞くとギョッとするというか、なぜそんな大胆なことが可能か、気にならないだろうか?

従来の感覚では非ロジックとも思える年次改良を2024年モデルから遂げるのは、ボルボ『XC40』ならびに『C40』だ。ガソリンやディーゼル、PHEVにBEVと、FFベースで2WDもしくはAWDのパワートレインを載せてきたボルボのCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)において、シングルモーターBEV版を担う2車種である。

◆なぜ今になってわざわざ後輪駆動化されたのか?

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

今回試乗したのは前者、「XC40 リチャージ プラス シングルモーター」の2024年仕様だ。

現行ラインナップにも「XC40リチャージ ツインモーター」が認められる通り、フルタイムAWDながら後輪を(も)駆動するXC40は、すでに存在する。逆にいえば、XC40でFFベースのシングルモーターBEVは、日本市場では2022年後半から今年前半までの短期間に導入された2023年モデルのみで打ち止め。2024年モデルからシングルモーター仕様は、後輪駆動モデルに置換されるのだ。

無論、XC40はICE版とはいえ、2018-19年の日本カーオブザイヤーを獲ったほどの車で、なぜ今になって後輪駆動化されたか? その理由はスウェーデンの本国ボルボ社も積極的には公表していないが、こういうことだろう。

パワートレイン以外の部分、ボディや内装はいうに及ばず、車軸や懸架装置や保安に関わる部品といったコンポーネントを、ICEやハイブリッドと極力共有することで、BEVの開発コストをまずは薄めること。それがCセグメントでボルボが採った、FFベースのBEV開発における初期フェイズの眼目だったはずだ。

そして後期フェイズとは、いうまでもなく次世代のスモールEV、年末から来年アタマにかけて投入されるBセグメント相当の『EX30』と、限りなく共通のパワートレインをCセグたるXC40とC40各々のシングルモーターに先行搭載すること、である。

◆ボルボ新開発の第2世代モーターを中心としたBEV戦略

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

というのもモデルイヤー2024のXC40、その後車軸側に積まれるシングルモーターは、ボルボが自社で新設計した第2世代モーターなのだ。空冷と水冷を併用した冷却システムを備える他、インバーター素子というか、いわゆるパワー半導体もSi(シリコン)からSiC(シリコンカーバイド)へアップデートされ、何よりインバーターモジュールごとコンパクトな一体設計で、組立てから組付けの効率も大幅に向上しているだろう。

ゼロからCセグのBEVを世に送るには多大な開発コストがかかるし、電気関連の基礎技術はモデルライフ中に古びる恐れもある。だからこそFFベースと後輪駆動という2種類のBEVを同じプラットフォームで、ICE側とBEV側それぞれのスケール・メリットとコスト勘案に絡めながら、移行期・端境期の生産開発を進めた訳だ。

ボルボは2015年辺りまでは年産50万台、その後は70万台規模にまで伸長し、中国のジーリー(吉利集団)による支えもあったとはいえ、数百万台規模の巨大自動車グループではないからこそ、こうした巧みなリスク回避戦略をオペレートできたところもあるだろう。

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

実際、日本市場でBEV販売はXC40とC40の2車種のみながら、今年前半期、日本でボルボの販売台数の16%にまで伸びた。昨年同時期は8%なので比率として丸々2倍、EX30がやがて投入されたら2025年に販売台数の50%をBEVとする目標も、あながち現実味を帯びてきそうだ。

またボルボ本社は、再生エネルギーによるバッテリー生産を主旨とする合弁事業をノースボルト社を立ち上げ、イエテボリ本社工場の隣に50万基分の生産拠点を設けるという。ボルボはバッテリー製造に用いられるコバルトのサプライチェーンについても、自動車メーカーとして初めてブロックチェーン技術を導入している通り、希少金属のトレーサビリティについても意識高めの展開をしている。XC40の後輪駆動化という布石も、設備インフラと並行してプロダクトでも着々と進むカーボンニュートラル化の大きな流れの中に位置づけられるのだ。

◆後輪駆動化で進化した「見えない部分」

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

さて試乗車のXC40プラスを眺めてみよう。外装色の、今どき珍しいソリッドのクラウドブルーはじつはEX30のローンチカラーで、後輪駆動のXC40が先行して纏う栄誉に俗しつつも、やはり直近の未来を意識させる。インテリアに目を移すと、いかにもレザーフリーの質感で、XC40がデビューした頃の「インスクリプション」に見られたような、レザー&ウッドの世界観からは隔世の感がある。

かといって、マイクロテックのシート素材やリサイクル素材のドアパネルや、合成素材だが手縫いで仕上げられたステアリング、スウェーデンのアビスコ国立公園の山並から等高線を再現したというポリカーボネートのトポグラフィパネルが、著しく見劣りすることはない。ちなみにこの加飾パネル、暗くなるとLEDバックライトでうっすら透過光を放つ。

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

後輪駆動化によってもっとも変わったのは、見えない部分にある。例えばFFなら前方で衝撃吸収も兼ねていたエンジンがなくなることで、フロント構造部は再設計され、アルミニウムの下部クラッシュビームと2本のクラッシュステーが追加されている。

駆動用リチウムイオンバッテリーも一新、旧シングルモーターの69kWhから73kWhへと容量が拡大した一方でバッテリー冷却システム自体も改善され、アルミ押し出し材のセーフティケージで守られる。つまり高電圧バッテリーはこのケージ内に万が一の切断回路ごと収められ、ボディのクラッシャブルゾーンと相まって、基本的に衝撃による破壊や電圧漏れが起きない方向となっているのだ。

◆トルク、航続距離が大幅アップも「これ見よがし」ではない

今回の試乗コースはほとんど市街地走行だったが、FFより好バランスの前後重量配分や低重心化を実現した後輪駆動の恩恵は、日常域でも早速に体感できる。ステアリング操舵は徐行~低速域ほどアシストが効いて軽いが、そもそも前輪荷重が軽くトルクステアのない素直な手応えが、エフォートレスそのものだ。リアから押される加速フィールや、新設計のモーターがノイズ控えめであるせいもあるが、まるで旅客機内でエンジンより前の座席に乗り換えたのにも似て、モーター音が後方からしか聞こえてこない点も、快適だ。

だが走行操作という面で、前輪駆動シングルモーターと決定的に異なるのは、ワンペダルドライブがオン/オフだけでなく、「オート」が新設されたこと。これは前走車がいない状況をセンサーが察知し、アクセルペダル・オフで回生減速が利く代わりに、コースティングに入る。逆にセンサーが前走車を喰っている状況では、ペダルオフで回生がヌケることはない。

ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)ボルボ XC40 リチャージ プラス シングルモーター(後輪駆動モデル)

元々、XC40のワンペダルは静止までもっていけるほど攻めているので、それこそブレーキを踏むのは下り坂か、緊急ブレーキを要する時ぐらいになる。いわばストップ&ゴーの局面はもちろん、首都高で巡航するような時でも、交通の流れに応じてワンペダルモードをオン/オフいずれかに切り替える煩わしさもなければ、再充電の機会を逃すこともない。“回生大好きワンペダラー”待望の機能といえるのだ。

ちなみに前輪駆動モデルの最高出力231ps(170kW)、最大トルク330Nmに比べ、後輪駆動モデルは238ps(175kW)、418Nmと、トルクの改善が著しい。だが新しいXC40シングルモーターは、アクセルペダルの初期踏みしろでブワっと加速して見せるような、これ見よがしの鋭さを強調しない。むしろ瞬発的なトルクは丸め込んで、それでも踏み込むと大きく羽ばたく感覚にも似た、向上した数値通りに怒涛の加速が始まる印象だ。航続距離は424kmから590kmにまで大幅に拡大されているが、乗り手がやりがちなロスを削って稼いでいるところもありそうだ。

◆フルモデルチェンジ並みの内実に、EVシフトへの執念を見た

ロスレス方向の話といえば、モーターのマウントが従来のFFモデルでは4点留めのすべてが左右方向のみだったところを、後輪駆動モデルではうち2点を前後方向に改め、モーターの揺れによる駆動力の伝達ロスをさらに減じたとか。EVならではのトルク変動に備えての、地味なアップデートというか最適化だが、そういう小さな効率の積み重ねが全体で効いているし、ボディや内装の見た目やシルエットはほぼ同じというのに、フルモデルチェンジ並みの内実を込めてきたところに、ボルボのEVシフトへの執念を見る思いがしないか。

ワンペダルドライブの回生力や、ステアリングの重さを変更するには、かなり深い階層にアクセスする必要があったワンペダルドライブの回生力や、ステアリングの重さを変更するには、かなり深い階層にアクセスする必要があった

ひとつだけ不満だったのは、個人的に低速域のステアリング応力がやや軽過ぎると感じていたのだが、「ステアリングを重く設定」するスライダースイッチが「ワンペダルドライブ」よりもさらに上下スクロールしないと見えないほど、タッチスクリーン内の深い階層にあったことに、試乗後に気づいた。

検索からアクションを起こす領域ではすっかりグーグル化されたインターフェイスが容易ながら、車のパラメーター設定に関する部分ではまだまだ、直観的にすべきところがありそうだ。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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