【ボルボ V90 4400km試乗】実用車としてとことん使い倒すのがお洒落な乗り方[後編]

ボルボ V90 D4 インスクリプション
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  • ボルボ V90 D4 インスクリプション。雨天後でかなり汚れている状態だが、それが気にならないデザインだった。
  • ボルボ V90 D4 インスクリプション。鹿児島-宮崎県境のえびの高原・韓国岳をバックに。
  • フロントエンドのデザインは控えめながら美しかった。

スウェーデンの自動車メーカー、ボルボカーズのプレミアムラージエステート『V90』で4400kmほど旅をしてみた。前編では概要、走り、快適性などについて述べた。後編ではパワートレイン、居住感、安全システムなどについて触れていく。

日本では十二分なディーゼルエンジン

試乗車の「D4 インスクリプション」のパワートレインは2リットルターボディーゼル+8速ATで、前輪を駆動するというもの。エンジンは最高出力140kW(190ps)級。今日、欧州で性能競争が繰り広げられているのは排気量1リットルあたりの出力が90kW前後のハイエンドクラスで、140kW級は一般的な高出力タイプという感じである。

そのパフォーマンスだが、動力性能面については制限速度、実際の交通の流れともにきわめて遅い日本ではこれで十二分というレベルにある。パワーウェイトレシオは9kg/psと平凡だが、プレミアムセグメントのライバルと同様、ローギア側が加速重視のギア比を持っているため、とくに低中速域の加速感はスペックから受ける印象を大幅に上回った。ブレーキ→アクセル踏み替えのスタンディングスタートによる0-100km/h加速タイムはGPS計測で8秒2。ローンチブーストをかければ7秒台を出せるものと推察された。

このエンジンが日本に投入された2015年、筆者は『V60 D4 R-DESIGN』で東京~鹿児島ツーリングを行っているが、フィール面は当時に比べて格段に進化していた。中回転域でドバッとトルクが出るのではなく高回転域まで均一な加速Gが保たれるというBMWディーゼルライクな伸びきり感になった。ATも以前はローギア側でトルクコンバーターのロックアップ制御がルーズな傾向があったが、今回乗ったV90はタイトに食いつき、ダイレクト感は十分であった。

インパネ。表示パターンを任意に変えることができる。
次に燃費。V90 D4のJC08モード燃費値は16.2km/リットルと、あまり芳しい数字ではない。ドライブ前はいくらディーゼルと言えども走行コストはそれなりにかさむのではないかと思っていたが、オンロードでの燃費はこのクラスとしては十二分に良いものであった。ロングランにおいてはかなり元気な走りに終始したにもかかわらずモード燃費を2割前後上回った。市街地は当初燃費が伸びず、11km/リットル前後であったが、クルマの特性がつかめてきたドライブ後半においては都市走行でも15km/リットル前後を維持できるようになった。

実際の燃費値は東京を出発後、長野の白馬から新潟の糸魚川に出て日本海側を走り、北九州の直方に達した1348.1km区間が総給油量70.64リットル(途中、島根の宍道付近1006.1km地点で20リットル給油)で実燃費19.1km/リットル。九州内の市街地、高速、山岳地帯混合914.7km区間が総給油量58.0リットルで燃費15.8km/リットル。九州を出て山陰経由、兵庫の豊岡までの621.2km区間が給油量31.21リットルで燃費19.9km/リットル。そこから高速道路メインで神奈川の厚木に達した616.4km区間が給油量30.02リットルで燃費20.5km/リットル。

東京に帰着後、もう一度ミニドライブ。首都圏の市街地走行、および茨城の大洗海岸までの遠出を行った453.9km区間が18.5km/リットルだった。この最後の市街地・郊外混走区間の燃費が九州内に比べて良好なのは、高低差が少なかったということもあるが、何よりクルマの特性がつかめてきたことで市街地でも燃費を大きく落とさずに走れるようになったことが大きかった。なお、燃料タンクは公称55リットルで、旧V60が東京~鹿児島間を無給油で走破したような芸当はできなくなったが、ロングランにおいては1000km無給油くらいは楽勝であった。

NOx還元剤AdBlueの補給のためガソリンスタンドに立ち寄った。
なお、今回は途中で排出ガス中のNOx(窒素酸化物)を処理する選択還元触媒の還元剤アドブルーを補給するという局面があった。出発時、アドブルーが残り少ないと言われていたので想定内ではあったが、途中でメーターパネル内にアドブルー残量のアラートがつく。今は大型トラック用のレーンがあるガソリンスタンドには、アドブルーの補給器も併設されていることが多い。

筆者が立ち寄ったセルフスタンドはアドブルーもセルフ。単価は1リットルあたり税込み105円であった。補給方法はガソリンとほとんど同じで、補給口がキャップレスでないという点だけが異なる。タンク容量は11.5リットルだが、1回あたり10リットルとして、補給のインターバルは1万2000kmから1万5000km程度であろうか。今日、ディーゼルは乗用車向けも選択還元触媒方式が主流になりつつあるが、手間の煩雑さや費用などの問題はすでに解決されているように感じられた。

居住感、ユーティリティが最大のハイライト


居住感、ユーティリティはV90の最大のハイライトと言っていい。前編でも述べたが、V90 D4インスクリプションは欧州でも6万ユーロ超級と、かなりの高額車であるが、室内の空間デザインは良い意味でその価格の高さを意識させないものだった。キャビンが薄く見える外観とは裏腹に、実効窓面積はかなり広く取られていて、室内は非常に明るい。さらに試乗車はグラストップ仕様であったため、採光性は文句なし。クルマに乗っているというよりは、気持ちの良いテラスにいるような気分にさせられる室内空間だった。後席スペースも非常に広く、大人2人、子供1人の3人がけをやっても横幅、足元空間とも余裕であった。

シートは手触りの良いナッパレザーが標準。運転席、助手席にはプレミアムEセグメントで昨今流行っているマッサージ機能が備わっていた。もみほぐしパターンはBMW『5シリーズ』に比べると少ないが、ちょっと眠気を催したときの覚醒効果はそれなりに得られた。ボルボ伝統の疲れにくさも健在であった。ただし、旧型に相当する『V70』や現行『V40』のシートが持っていた、疲れる、疲れないという切り分けを超えていつまでも座っていたくなるような不思議な気持ちよさは失われた。普通の優秀さである。

オーディオはハーマンカードンブランド。V90がリリースされたときに試乗した個体に装備されていたオプションのB&Wに比べると明確に落ちるが、ダイナミックレンジそのものはプレミアムセグメントのオーディオの標準レベルにはあり、小編成のクラシック音楽をかけたりするのでなければ十分に耳を楽しませてくれた。

荷室容量は驚くほど広いわけではないが奥行きは豊かで、リゾートエクスプレスとしての資質は十分であるように思われた。容量はVDA方式で560リットル。後席を倒すと2000リットル弱にまで拡大される。この荷室で車中泊を試してみたが、身長170cmの筆者は身体を伸ばして寝るのに何の問題もなかった。おそらく180cmの人でも大丈夫であろう。

薄明の映り込みのグラデーションはエクセレントであった。
デザイン論。V90は大型SUV『XC90』に続くボルボの新世代デザインの第2弾。飾りつけらしきものがほとんどなかった旧世代モデルから一転、ずいぶんきらびやかになったものだと思っていた。が、いざ風景の中に置いてみると、目立たないというボルボの特質は意外や意外に変わっていなかった。クロームのモール類が非常に細く、プレスラインの彫りも浅いため、近くで見るとキラキラ、遠くから見ると地味という二面性を持っているのだ。

試乗車は「パイングレーメタリック」というボディカラーであったが、たまたま鹿児島・宮崎県境のえびの高原で松林をバックに撮影してみたところ、なるほどパイン(松)の色合いなのだなと納得させられるくらい背景に調和した。この塗装は当たる光の色によってさまざまな表情を見せた。青空の下では濃いグレーに、夕暮れ時には微細なマイカ材が美しいグラデーションを浮き上がらせ、雨の日にはくすんだ灰色に…といった具合である。

ちなみにこの色はボルボのカラーデザイナーの一人がスウェーデンのデザインスタジオの庭で松の木漏れ日を見て「スウェーデンの原風景はこれだ」と思い、その心象を表現しようと苦心惨憺(くしんさんたん)して調色したものなのだそうだ。そういう物語があるのも面白い。

「安全おたく」というべきこだわりぶり

九重の北側、長者原にて。
安全設計は徹底していた。「インテリセーフ」と名づけられた豊富な先進運転支援機能を持つが、そればかりでなく、クルマ全体の仕様からして安全おたくというべきこだわりぶりであった。たとえば万が一の事故のさいに荷室からモノが客室に飛び込むのを防御するパーティションネットだが、ネットの素材が強靭であることのみならず、ネットを巻き取るベースフレームもここまでの必要性があるのかと思うくらいに強固な鋼管製で、大荷物も絶対に受け止めてみせるという執念を感じたほどだった。

シートは道路逸脱のさいに着地の縦Gによる頚椎骨折リスクを軽減する構造が採用されている。同じスウェーデンの戦闘機メーカー、サーブの非常射出座席の衝撃軽減構造のノウハウが盛り込まれているのだという。その“性能”は事故でも起こらないかぎり試せないが、一度、その片鱗を味わうシーンがあった。

富山県の郊外道で、橋を渡った先が思いがけず大きく落ち込んでいた。通常ならクルマがドスンと落ちるときにシートから体が浮き上がるところなのだが、V90はシートベルトを巻き上げ、身体をシートにキュッと固定したのだった。一瞬のことなのだが、確かに身体にかかるストレスは何分の1にも軽減されたという感じであった。

インテリセーフの実路でのパフォーマンスはV60時代に比べて大幅に進化した。車線認識の精度が上がり、失探率はかなり低くなった。前車追従クルーズコントロールは精度自体、十分に満足できるものだったが、スピードメーターに先行車の速度が非常にわかりやすく表示されるため、そのクルマについていくか抜くかを的確に見極めることができるなど、ツーリングにおける実用面の高さも魅力的に思えた。

その安全装備群のなかで唯一、旧世代に比べて後退したように感じられたのが、先行車や対向車を避けてハイビーム照射するアクティブハイビーム。4年前に乗った先代V60は旧式なシャッター遮蔽型だったのだが、対向車が現れるとその部分がすっと暗い筋となり、その後も対向車を実に正確に捉えていた。それに対してV90は最新のマルチLED方式だったが、V60に比べると判断ミスが多く、完全にクルマに任せっきりというわけにはいかなかった。できれば改良していただきたいところである。

ヘッドランプは先行車や対向車を避けて照射するアクティブハイビーム。ただ、驚異的に精度が高かった旧『V60』のシャッター式に比べると誤判定は多め。

まとめ

V90は他人にステイタス性を見せつけたり、ファッションをアピールしたりするタイプのモデルではない。オプションのグラストップを装備した試乗車の参考価格は800万円強と非常に高価であるし、その価格に見合う質感も持ち合わせているが、根は完全な実用車である。もったいながらず、ヴァカンスエクスプレスとしてとことん使い倒すというのが、V90のお洒落な乗り方というものであろう。

そういうライフスタイルを志向している高所得者層にとっては、V90はバイイングリストのトップに来ていいモデルだ。また、FWDモデルでもブレーキなしのトレーラーで750kg、ブレーキ付きで1800kgの牽引能力があるため、モーターキャンプやマリンスポーツの愛好家のスポーツギアにも使える。

グレードチョイスだが、走行感の上質さを重視するのであればインスクリプションのガソリンモデルがおすすめ。最高出力320psのガソリン「T6 AWD(4輪駆動)」でも十分だが、さらなる動力性能が欲しい場合は400ps超のプラグインハイブリッド「T8 AWD」もある。エアサスとリーフスプリングサスがあるが、高級車らしさを求めるならエアサスがいい。T8はエアサス標準装備である。

逆にこのクラスのモデルをミニマル志向で買うというのも、それはそれでありだ。モメンタムというベーシックグレードの254psガソリン「T5」は、車両価格が10%消費税込み691万5741円。これでも“らしさ”は十分に味わえるであろう。

今回乗ったディーゼルのD4だが、基本的には至極結構なパワートレインだと思うものの、現地価格との対比で見るとガソリンよりかなり割高な設定なのは気になるところ。ベーシックなモメンタムの場合、ガソリン254psのT5に対して30万円高だが、欧州ではD4とT5はほぼ同価格だ。豪華装備のインスクリプションはT5エンジンがなく、T6 AWDとの対比になるためガソリンのほうが50万円ほど高くなるが、現地価格の差はこんなものではなく、やはりディーゼルの割高感は否めない。

これだけの価格差をつけるなら高出力版の「D5」を持ってきたほうが、バリューフォーマネーの説得力を持てたのではないか。ただ、D4も低速からの粘り、好燃費による航続距離の長さ等々の美点はあるので、ロングドライブ派の顧客にとっては魅力的な存在であろう。

ライバルは欧州プレミアムEセグメントのエステート。メルセデスベンツ『Eクラスステーションワゴン』、BMW『5シリーズツーリング』、アウディ『A6アバント』あたりが直接対決の相手となろう。いずれも強力な相手ではあるが、V90にも本文中で紹介した抑制的で品の良いキャラクターと、装備を揃えたときの価格の安さといったアドバンテージがある。高所得者層にとっては面白い選択肢のひとつと言えるだろう。

九重高原にて。ちょっぴりスカンジナビア的な風景だったりもする。

《井元康一郎》

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