【ベントレー コンチネンタルGT 新型試乗】「よかったですよ」と答えるのが精いっぱいである…中村孝仁

現代社会においてヒエラルキーは無縁になったのか

独特な空気感こそ高級車の高級車たる所以

ベントレーの凄さがわかっているからこそ

ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT
  • ベントレー コンチネンタルGT

現代社会においてヒエラルキーは無縁になったのか

毎年恒例で、東京のど真ん中、首相官邸のすぐそばにあるキャピトル東急ホテルを拠点にしたベントレーのオールラインナップ試乗会が開催される。

この時だけ、僕はシンデレラの気分が味わえる。今年そのシンデレラを乗せてくれたクルマは『コンチネンタルGT』であった。能書きをつらつら話したところで、庶民にはピンと来ないだろうし、ましてや既に所有されているオーナーの場合は「何馬鹿言ってんだよ」とお叱りを受けてしまうかもしれないところなのだが、どっこい最近はそうでもないらしい。

その昔、ベントレーを買うようなオーナーの方は、地位も身分もお高いいわゆる日本で今流行りの言葉で評するなら「上級国民」と相場は決まっていた。イギリスのような階級社会では、お金はあってもおいそれとベントレーなどには手が出せなかったのである。しかし時代は変わったもので、最近日本国においては、ITなどで儲けまくったお若い超の付くお金持ちに、とりあえずクルマを買いたいけど何が良いのですかねぇと相談された場合、まあ一番高いのはロールスロイスだからそれあたりがいいんじゃない?と指南すると、じゃ、それ買います…となって、ロールスの何たるか、ひいてはどんな境遇の人が買うクルマであるかとか全然関係なくお買いになられるそうだ。

こうした傾向は何も日本だけでなく、例えば中国だったり、あるいはオイルマネーの中東あたりでも共通した傾向にあるらしく、階級社会の厳然たる秩序とかヒエラルキーなど現代社会では全く無関係になりつつあるということなのかもしれない。

そんなわけなので、大手を振って堂々とベントレーの何たるかを語っても大丈夫そうだ。

独特な空気感こそ高級車の高級車たる所以


コンチネンタルGTは新世代となって、メーカーがVW傘下に引き入れられてから投入されたモデル。昨年フルチェンジされて3世代目のモデルとなった。新たなMSBと呼ばれるプラットフォームは、第2世代のポルシェ『パナメーラ』などと共通だという。搭載されるW12気筒のパワーユニットもかつてはVWグループ内で使われていたが、今はベントレーに限られるようである。

試乗はいつも1時間半。「ご自由にどうぞ」である。車寄せに止まっているベントレーに向かって歩くと、これまた非常に丁重にドアを開けてホテルマンが出迎えてくれるのだが、元来オーナーではないことは先方も重々承知だから、こちらにしてみると何となく慇懃無礼な感じに受け取ってしまう。勿論ホテルマンたるもの、そんなことは決してなく最上級のおもてなしのはずだ。というわけでこうした乗り慣れないクルマに乗ると、こちらが却って自分自身を卑下してしまう。まあ困ったものだ。

最近のクルマは特別な扱いを必要とすることがほとんど無いから、ほとんどの場合コックピットドリルなど必要なく、ただ動かすだけなら多分誰でもできる。カチャリと締まったドアの内側の人になると、エンジンがかかっているにもかかわらず、ほとんど静寂の中にいるかのように感じられるのは、高級車の高級車たる所以。いざ走り出してみても今では死語になった「動く応接間」的独特な空気感も高級車の高級車たる所以だ。

ガツンと踏んでみたい衝動はあるものの、首相官邸やら国会やら日本の中枢機能が点在しているため、周囲はお巡りさんだらけ。とりあえず、大人しく、静々と走り出した。以前だったらベントレーなど滅多に遭えるというか遭遇することはなかったクルマなので、普通なら好奇の目が注がれたものだが、今ではいたって普通。誰も気に留めることもないし、図々しいタクシーなどは時として幅寄せして来たりもする。それもこれもみんなピンと来ていない庶民の方たちばかりで、ベントレーがどれほど凄いクルマなのか誰もわかっていないから。

しかし、乗っている本人(僕)はその凄さを堪能しているし、やはり周囲に放つオーラは尋常ではないから、時々周囲にも気が付く人が当然いる。ベントレーに乗って何が凄いと感じるかと言えばその空気感やら放つオーラである。6リットルW12のパフォーマンスを云々したところで、そりゃ凄いのは間違いないのだが、他にもそのパフォーマンスを持つクルマはいくらでもいるし、機械としてもっと出来の良いクルマだっていくらでもある。それにケチをつけるわけではないが、DCT独特の渋滞内での弱さなんかを垣間見せることだってある。

ベントレーの凄さがわかっているからこそ


1時間半たって、シンデレラがただの掃除のオネエサンに戻った時、ホテルに戻ると「いかがでした」といつも聞かれる。試乗すればまあ当然の質問なのだが、そう聞かれてもねぇ…と言うのが正直な気持ち。「そりゃよかったですよ」と答えるのが精いっぱいなのである。

正直に告白すれば、機械としては恐らくメルセデスの『Sクラス』の方が上だ。パフォーマンスは当たり前だがポルシェの『パナメーラ』の方がいいだろう。と言って、ベントレー担当者が込めた「いかがでした」には全く別の意味が込められているのは重々承知。ベントレーの凄さがわかっているからこそ、そう簡単に軽い言葉で返事が出来ない自分がいた。

今はヒエラルキーのない世界かもしれない。少なくとも日本では。でも、収まるところとしては、ベントレーでもジャガーでもない、もう少し下の階級の人たちが乗るクルマに落ち着きたい。同時にこうした貴重な体験をさせてくれるベントレー広報にも感謝したい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

《中村 孝仁》

編集部おすすめのニュース

特集