【トヨタ アクア 700km試乗】なぜここまでの人気車になったのか、その理由を改良版で再確認…井元康一郎

試乗記 国産車
トヨタ アクア G ソフトレザーセレクション
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2017年6月にトヨタ自動車のサブコンパクトカー『アクア』がマイナーチェンジを受けた。その改良モデルで700kmあまりツーリングする機会があったので、ドライビングインプレッションをお届けする。

アクアが当時の燃費最高性能を金看板に登場したのは2011年末。以後、国内市場におけるトップ3の常連として人気を博してきた。本来ならそろそろ次期型の噂が聞こえてきてもいい頃なのだが、6月にデザイン変更を伴う大改良を実施。2018年末の丸7年を越え、8年、あるいはそれ以上という長寿モデルになる可能性が高くなった。

試乗車はスポーツコンプリートの「GR SPORT」を別にした最高グレードの「G ソフトレザーセレクション」。特別塗装、カーナビ&オーディオその他のオプションが豊富につけられていたこともあり、参考価格は約270万円とかなりお高い。

試乗ルートは東京を起点に北関東、甲信越を周遊するというもの。途中、国道の最高標高地点(2172m)として知られる群馬・長野県境の国道292号線渋峠、および標高1472mの山梨・神奈川県境の柳沢峠を越えるなど、全行程の3割が山岳路という、ロングツーリングとしては比較的厳しいコンディションであった。路面はドライとウェットが半々。1名乗車、エアコンAUTO。

◆実燃費が大幅に向上した改良版

改良版アクアで印象に強く残ったのは、実走行燃費が大幅に向上したこと。登場当初はJC08モード値こそ優秀なものの、高速道路や山岳路などをいいペースで走るとガックリと燃費が落ちる傾向があったが、今回の改良でその弱点は完全に近い形で解消されていた。

ドライブフィールが格段にスポーティさを増したことも好印象だった。絶対的な速さは大したことはないが、ドライバーの操作に対するクルマの反応の素直さは登場当初とは別物で、ワインディングロードでのドライビングプレジャーはかなり高いものであった。シートバックのホールド性が良く、体幹のブレが少ないことも、その楽しさを後押しした。また、高速道路における直進感も改善されていた。

エクステリアデザインは、とりわけフロントエンドがかなり洗練されたように感じられた。ヘッドランプは滑らかな卵形の後端にまつげが付いたような形状のものに。日本から撤退したフォードの名作、旧型『フィエスタ』にちょっと似た雰囲気で、欧州車のようなイメージであった。

デザインでもうひとつ特徴的だったのはバンパーの空力的形状。改良前の中期型もエアロダイナミクスをかなり意識したものになっていたが、改良モデルはそれと比べても断然滑らか。開口部から両サイドにかけての造形は航空機や高速船、あるいはマンタやジンベイザメのような海棲生物を彷彿とさせるもので、その分野に興味がある人はちょっと心がときめいてしまうことうけあいである。

その他の部分は旧来とほとんど印象は変わらずで、ネガティブに感じられる点も少なくない。補強を受けたとはいうものの依然としてユルいボディが影響してか、舗装のざらつきやアンジュレーションの大きめな路面コンディションの区間をはじめ、全般的に動的質感が低いこと。燃費向上が絶対正義だった時代の産物ゆえ致し方のないことなのだが室内が狭く、かつ視界も良くないことなど。安全装備の「トヨタセーフティセンスC」は、今となってはもう少し高機能であってほしいと思う水準だった。

が、少人数でのタウンライドが主という顧客にとっては、これらの問題は大して気にならないレベルに収まっている。何より、ベーシックカーにとって大事なけれん味のなさ、親しみやすさは国産サブコンパクトの中でも屈指のもので、ベストセラーを張り続けているのも道理だと思えた。

ロングランにおける疲労蓄積度は、同クラスのライバルの中では下位に沈む。が、クルマはタイヤが4つついて走る、曲がる、止まるの信頼性さえ確保されていればどこまででも行けるもの。今回のように半径200km圏内程度のドライブであれば、何ら不都合はないだろう。

◆おとなしめに走れば30km/リットルも

では、詳細についてみていこう。まずはアクアの看板性能である燃費から。

アクアは登場当初は軽負荷領域で注意深く運転すれば燃費を伸ばせる半面、負荷の高い高速道路やワインディングなどでは兄貴分の『プリウス』に逆転を許してしまうことしばしばであった。それがどう変わったかを試すため、意図的にアクアが苦手としていたスパルタ気味の走りに徹してみた。序盤に50km弱、軽い負荷で走ってみた後は、終始、高低差の大きなコースを選定。走り方もワインディングは速めのペース、市街地でもEV走行にこだわらず目標速度まで伸びやかに加速させるというもの。

燃費計測区間は合計で657.6km、給油量は合計25.56リットルで、実燃費は25.7km/リットル。通算の燃費計値は26.2km/リットルで、実燃費との誤差は2%程度と比較的正確なほうであった。

筆者は時折、いろいろなクルマでロングランを試みている。毎回、一部区間以外は燃費をまったく気にしないデマンド重視の走りをしているが、今回の走り方は普段と比べても燃費にはより厳しいもの。やっていないのはせっかくの運動エネルギーを強いブレーキングで捨てまくることだけだった。これでリッター25kmを超えてきたのは立派というほかないというのが実感。普段のようなロングランのルートと運転パターンであれば28km/リットル前後。少しおとなしめに走れば30km/リットルは軽く超えるものと推察された。

平均燃費計の値が最も良かったのは、東京・葛飾を出発後、一般道経由で埼玉北部の鴻巣までの46.9km区間で、35.3km/リットル。25kmほど走った時点で燃費計値が予想以上に良かったため、しばらく省エネ気味に走って燃費値を伸ばした結果得られた値である。

その後、高速道路を使いつつ、群馬の草津温泉から白根山経由で標高2172mの国道292号線渋峠へ。長野に下った後も旧鬼無里村、小川村など標高差は小さいながらも延々とワインディングロードが続く区間を走ったり、標高1200mの蓼科まで駆け上がったりと、山岳路を主体にドライブ。スタートから477.6km、山梨の韮崎で給油したところ、18.44リットル入り、実燃費は25.9km/リットル。

帰路は一般道のみ。勝沼で国道20号線甲州街道に別れを告げ、標高1472mの柳沢峠を越えて青梅に至る国道411号線ルートを走った。自宅近辺のスタンドまでちょうど180kmのうち、ワインディング区間が3分の1以上。そこを結構アグレッシブに走り、さらに市街地を通り抜けながらの帰還だったが、それでも給油量7.12リットル、実燃費25.3km/リットルで走り切った。

平均燃費計の挙動やタイムスケールでの燃費推移グラフを観察したところ、高速巡航やワインディングでの登り急勾配でのエネルギー効率が初期型に比べて格段に向上していることが見て取れた。マイナーチェンジでエンジンが改良されたとのことだが、熱効率の良い範囲が中高負荷域にかなり拡大されたのであろう。最後の給油から靖国神社近くのトヨタのモータープールまでの混雑した市街地約15km区間は、ホットスタートで燃費計表示が30km/リットルを超えた。マイナーチェンジ前のモデルで注意深く運転したときの燃費を普通の運転で出せるような感じであった。

◆ハンドリング性能アップの要因は

実燃費が向上した半面、パワーフィールがあまり良くないという弱点は残ったままだった。内燃エンジンと電気モーターの合成出力は100psと、このクラスとしては必要十分な性能を持ち合わせており、力が足りないというわけではない。が、スロットル操作量と実際のパワーの出方があまり一致しておらず、コントロール性が悪い市街地走行や速度の低い郊外路ではクルマが動きさえすれば何の不満もないので、アクアを購入する顧客層にとっては大きな問題になるとは思えないが、中長距離ドライブでは速度維持に要らぬ神経を使うことになるため、次期型ではぜひ改善してほしいポイントだ。   

次にツーリングの味を左右する重要ファクターであるボディ、シャシーについて。今回の改良で、ハンドリングはとても良くなった。概要で述べたように、ドライバーの運転操作に対する反応がとても素直。絶対的な速さはないにもかかわらず、フィールはスポーティで、楽しくすらあった。

ワインディングを道なりに漫然と走っているときには大していいとは感じられない。アンダーステアが強めという性格はデビュー当初と大きく変わっておらず、ハンドリングはナマクラな印象だ。が、ドライバーが走りの意思をちょっぴり込めると、新アクアは俄然生き生きとした動きになる。

たとえば回り込み角90度のコーナーがあったとする。そのコーナーの手前ではなく、減速しきるポイントをコーナリングの5分の1くらいに見切り、ブレーキをかけながら、言い換えれば前輪に少し余分に重みをかけてやりながらステアリングを切ると、鼻先が実に軽くターンし、リズミカルにコーナリングを駆け抜けることができるのだ。マツダ『デミオ』や昨夏に改良されたホンダ『フィット』のような路面に粘りつく安定感はないが、その代わりにシャープさがあるという印象だった。

テストドライブの最中はシャシーセッティングチームが改良を結構頑張ったのかなと思っていたのだが、後にある事情通からちょっと面白い話を聞いた。今回の改良でタイヤサイズは少し上がったものの、サスペンションのスペックやセッティングは初期型からほとんど変わっておらず、良いと感じられたとすれば、それは空力の改善によるものだというのだ。

トヨタのレーシングパーツ開発を手がけるTRDのエンジニアが、タイヤハウス内を含むフロントエンドまわりの空気をどう流せばいいかということについて良い発見をしたとのこと。そういえばフロントまわりのデザインがえらく滑らかで抑揚豊かなものになっていたが、体感できるくらい走りに貢献していたのかと、感銘を覚えた次第だった。

操縦性の良さとは対照的に、乗り心地の質感については大きな改善はみられなかった。改良のメニューにはボディ補強も入っているが、徹底したものとは言いがたく、路面のひび割れやアンジュレーション(うねり)、段差などさまざまなシーンでゴロゴロ感、ガタガタ感がつきまとった。これは走りの質感を損ねる。

相対的に良いのは路面の整備状況が良い高速道路やバイパス。ホイールの上下動が少なく、かつある程度スピードが出ている領域ではそこそこの滑らかさを発揮した。これ以上の改善はプリウス以降展開されている「TNGA」という新しいクルマづくりの設計法・工法を土台にする次期アクアまで待つことになろう。

先進安全装備のトヨタセーフティセンスCは、ライバルの進境著しい中、今やそれほど高機能とは言えない。レーンキープアシストなどのステアリング介入がないのは車格を考えればまあいいとしても、クルーズコントロールは追従機能つきにしてほしいところだ。ただ、シンプルなハイ/ロービーム切り替え式ではあるが、アクティブハイビームが装備されているのは好感できた。ヘッドランプの光量自体も不足はない。

室内は、短距離であれば4人乗りでの移動に耐えうる下限のスペースを持っているが、やや狭苦しい。また、運転席からの視界もあまり良くない。これは燃費性能こそ絶対正義という考えが支配的であった時代に、まさに燃費至上主義で開発が進められたがゆえの宿命で、やむなしというものであろう。

いい点はシートバックが思いのほか良好なホールド性を持っていたこと。上体がぶれにくく、ワインディングでもクルマの動きを的確に把握できた。惜しむらくは座面の部分の設計が雑なことで、連続運転をしていると疲れがたまりやすい。トヨタ車のシートを作るトヨタ紡織はこのところシート作りのレベルを急速に上げてきているので、次回作では大いなる進化を期待したいところだ。

「ちょっといいね」をブラッシュアップさせたアクア

このように、各要素についてはネガティブな要素も結構多いアクアだが、そうした優劣を超える部分でポジティブに感じられたのは、クルマ全体に漂う親しみやすさだった。室内は狭く、質感が高いわけでもなく、乗り心地が優れているわけでもないのに、しばらく乗っていると「こんなもんでいいのかもな」と思わされる。

こういうクルマ作りはトヨタの得意としてきたところだが、最近はそれだけではいけないと考えているようで、クルマを尖らせることに一生懸命になっている。ところが、クルマ作りに限らず、人間というものは板についていないことをやると、往々にしてちんちくりんなことになりがちだ。トヨタの尖っている系のモデル群も、その場で目立つという役割は果たせているものの、賞味期限は意外に短い傾向がある。

そのなかにあって、性能の良いハイブリッドカーをできるだけ安く作って庶民にお届けするという目的意識に徹して作られたアクアには、嫌味なところがない。近距離を少人数乗車で走り回ることへのホスピタリティを第一に考え、行動半径500kmを超えるような長距離ツーリングをする顧客には別のモデルを買ってもらえばいいという割り切り。それでいて、今回の東京~甲信越程度のツーリングには十分使える。

そんな「ちょっといいね」「ちょっと楽しいね」というクルマ作りこそがアクアの真骨頂だ。燃費だけが良くてあとはどうでもいいというクルマ作りであったら、ここまでの人気車には到底なれなかったであろう。今回の改良はその「いいね」をブラッシュアップさせることに注力しているように思えた。

高い走行性能を持つ本格的なミニツアラーが欲しいという顧客にとっては最初から選択肢に入らないだろうが、ちょっと先進的な機構を持つ足グルマが欲しいという顧客にとっては、モデルライフ末期の今購入しても10年間、十分に愛用できるクルマであり続けるだろう。しかもそのカーライフは決して無味乾燥なものではなく、いろいろな局面でちょっと楽しいという感覚を味わえる、それなりに楽しいものになるのではないかという気がした。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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