何年ものときをかけて向上し続けたクルマの走行性能。それらに加え、感じさせてくれる守られ感や、運転がうまくなったんじゃないかと気持ちよくさせてくれる感覚。こうしたプラスαの付加価値がいい意味で削ぎ落とされカタチを変えた。
『S660』に乗っていると、真正面からいやおうなしに、道とクルマに向き合わさせられる。
デザインのやんちゃっぷり。座ったときのオシリの位置の低さとドアを閉めたときの狭さからくるほどよい緊張感。走り出す前の演出は完璧である。アクセルペダルの踏力に対する加速はかなり重め。ちょんと踏んだら加速させ、軽快さを演出する手法は排除し、あくまでもドライバーの意思で速度をコントロールさせようとする。
さらに6速のMTは、この瞬間からの走りにあわせて的確にギアを選ばないと、とたんに機動力を低下させる。3速のままでこの速度でいってくれても…と密かにトルクに期待するも、そうしたさぼり根性はあっさりと却下されて、シフトダウンせざるを得ない。甘やかしてくれないのである。
ハンドル操作も同様にきびしく、切った分は即座に確実に反応し、切り方が遅れるとラインがだらだらになる。近年、多くのクルマが深い懐でもって受け止めてくれるがゆえにすっかり甘えていた部分が露呈して、恥ずかしくなるくらいだ。S660は、これでもかというほどのストイックさで、ドライバーに走りとはなにか、スポーティさとはどういうことかと、ぐいぐい訴えかけてくるのである。
走れば走るほど、クルマのボディがどんどん小さくなり、最後は生身の体で真剣をふりまわしながら突き進んでいくような感覚に襲われる(ふりまわしたことないけれど)。そのくらい、肌がひりひりする思いで走れるということ。自分の運転技量はもちろん、性格までをすべて周囲にさらしているようで、ものすごく恥ずかしいのだけれど、それでいて、そんな感覚で運転できる自分は幸せだと、しみじみしてしまうのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近はノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。