軽キャブオーバーの覇者スズキ『エブリイワゴン』が、今年2月、ほぼ10年ぶりとなるモデルチェンジを果たした。前モデルよりも室内超をさらに拡大し、動力性能も高めたその走りはまさに“軽ミニバン”と呼ぶに相応しい。その著しい進化ぶりをレポートする。
車内に乗り込んで驚くのが軽規格とは思えない広大なスペースだ。その広さは『スペーシア』や『タント』などよりもはるかに広い。何せ、リアシートを後端までスライドさせた状態でもカーゴスペースにはスーツケース4個を楽に収納できるのだ。逆にリアシートを最前位置までスライドさせても、フロントシートに膝が触れることもない。この余裕の広さにはただ驚くばかりだ。
ここまでスペースを拡大できたのは、前輪とインパネの位置を従来よりも前方へ移動させたから。エブリイワゴンはエンジンをフロントシート下に置き、後輪を駆動する基本スタイルは従来と同じスタイルを踏襲する。つまり、エンジンがこの位置にあったからこそ、この手法が可能になったというわけだ。
シートアレンジも実に多彩だ。リアシートは左右分割してスライドさせられ、リクライニングすることも可能。折りたためばフォールダウン機構のおかげでフラットなカーゴスペースが実現する。乗車人数に応じて積載スペースを自在にアレンジすることができるのだ。
また、カーゴスペースの使い勝手を高めるオプションが取り付けられるユーティリティーナットやラゲッジボードステーを標準装備。これを活かすことでカーゴスペースの使い勝手はさらに高まる。まさに人が乗っても、荷物を積んでも、その広さは中途半端なミニバンを超えると言っていいだろう。
そして、まさに"オモテナシ感覚"の装備と思えたのが、試乗車の「PZターボスペシャル」にのみ標準装備される「電動オートステップ」だ。助手席側スライドドアを開くと自動的に迫り出してくる仕組みで、年配者や小さな子供がある時に重宝するのは間違いない。また、フロントシートはウォークスルーが可能なベンチシートを採用。ドライバーチェンジも簡単に行える。
意外だったのは、オプションで取り付けてあったパナソニック製ナビ『CN-R301Z』を通して聴いたサウンドがとても心地良かったことだ。ボーカルがきちんと前方に定位し、低域もしっかりと聴かせる。高速域に入ると騒音で聴きにくくなるものの、一般道でドライブミュージックとして楽しむには十分なクオリティだ。
また、バックアイカメラを組み合わせることも可能で、その場合は左右後方から近づく人やクルマなどを検知。さらに上から見下ろす映像で駐車をサポートする自動俯瞰機能も備える。
では走りはどうか。エンジンは先代のK06A型から最新のR06Aインタークーラーターボに変更。これに4速ATを組み合わせる。注目なのは乗用車系モデルがほぼCVTを採用する中での4速ATということで、リニアな変速はCVTに慣れさせられた今はとても新鮮。必要以上にエンジンの回転が上がらないのにも好感が持てた。
アクセルを踏み込むと想像以上の軽快な動きにビックリ。1速をローギアードに設定したこともあり、4人フル乗車でも"トロさ"は微塵も感じなかった。ただ、高速域に入ると速度が軽快に上がっていくのは80~90km/h程度まで。それ以上は少々重さを感じるようになってくる。とはいえ、速度域まで達してしまえば100km/hクルーズが負担に思うことはない。
試乗で慌てたのは横風の影響だった。試乗した日が風が強めに吹いていたこともあるが、風に襲われるとステアリングは頻繁な修正が必要になってくる。これは横の投影面積が大きいスペーシアなどに比べても明らかに影響を受けやすい。とくに高速道路ではヒヤッとしたことが何度もあった。この辺の安定性がもう少し高まると申し分ないのだが。
何より、この手のクルマは走りよりもユーティリティを極めることが重要。その点、エブリイワゴンなら4人乗車でも十分なパワーを発揮しつつ、4人分の荷物もしっかり積んで出掛けられる実力の持ち主。しかも、それを維持費が安い軽自動車で実現しているのだ。少人数家族で4人乗車で十分というなら、小型ミニバンを選ぶ前にぜひ一度エブリイワゴンをチェックしてみることをオススメする。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
会田肇|AJAJ会員
1956年・茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。大学卒業後、自動車専門誌の編集部に所属し、1986年よりフリーランスとして独立。主としてカーナビゲーションやITS分野で執筆活動を展開し、それに伴い新型車の試乗もこなす。クルマを購入する時の適切なアドバイスとなるレポートを心掛ける。