『ウルトラ』といえば、ハーレーダビッドソンのいちばん大きいモデル。小柄な人が乗るには、かなりの勇気と決心が必要な超弩級クルーザーだが、車高を落とし、取り回しやすさを考えた『FLHTKL TC ウルトラリミテッドロー』が登場した。
広大な大陸のハイウェイを延々と走り続けることを前提に開発され、ハーレーの長い歴史とともに歩んできた「ウルトラシリーズ」。フルフェイスヘルメット2個を余裕で収納するトップケースやハードサドルケースのほか、快適なハイウェイクルージングを約束する特大のフェアリング、足もとをガードするロワーカウル、タッチパネルで操るオーディオシステムやグリップヒーターなど、その装備内容はオートバイとしては規格外の豪華さを誇る。
車体重量はじつに400kgオーバー。ライダーの両足が地面にしっかり届かなければ、取り回しに悪戦苦闘するのは明白で、ハーレーの生まれ故郷アメリカの人たちにくらべ、小柄な我々日本人としては、敬遠されがちだったことも否めない。
しかし、今回新たに発売された「ウルトラリミテッドロー」は、前後サスペンションを1インチ(約25mm)ローダウンし、クッション厚の薄いシートをセット。740mmだったシート高を685mmにまで落とし、足着き性を大幅に向上しただけでなく、地面に足を伸ばした際に足と干渉していたエンジンカバーの張り出しを抑え、パッセンジャー用のフットボードも小型化。さらに出し入れがスムーズにできるよう、サイドスタンドにはエクステンションバーを追加している。
跨ってすぐに感じるのは、両足が地面にベッタリ届く安心感に加え、ライディングポジションがひとまわり小さくなったこと。これはハンドルを2インチ(およそ5cm)プルバックさせ、グリップ位置を乗り手側に近づけたおかげ。グリップ自体も従来より細くなり、小柄な人にとっては、まさに至れり尽くせりといったところだ。
その走りは見た目とは裏腹に、軽快だからまた驚く。1689ccもの排気量を持つエンジンは、アクセルを少し開けただけで力強くその巨体を加速させ、高速道路に上がれば余裕のクルージング。たとえ市街地で渋滞にハマッても、シリンダーヘッドを水冷化したことで熱対策も万全としている。
これぞ、ハーレーの王様。そう言わんばかりの威風堂々のスタイルは、長年にわたって憧れの存在だったが、「ウルトラリミテッドロー」では乗り手の体格を問わず、ストップ&ゴーの多い日本の道路事情にも対応。憧れのトップエンドモデルを愛車にするという夢が、現実味を帯びた1台といえよう。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
快適度:★★★★★
タンデム:★★★★★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。国内外のモーターサイクルカルチャーに精通しており、取材経験はアメリカやヨーロッパはもちろん、アフリカや東南アジアにまで及ぶ。自らのMXレース活動や豊富な海外ツーリングで得たノウハウをもとに、独自の視点でオートバイを解説している。現在はバイク専門誌、一般誌、ウェブ媒体で活動中。