2024年11月の「EICMA」で電撃発表され約1年、ファン待望の新型スズキ『DR-Z4S』がついに日本上陸を果たした。オフロードコースで実現した国内初試乗の様子を、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオがレポート! その性能はいかに。
◆深い砂利にも負けない太いトルク!
スズキ DR-Z4S試乗コースとしてスズキが用意したのは、オフロードのクローズドコース。ダートの走破力に、かなりの自信があると見た。コースインすると、砂利の中に大きな石が転がる手強い路面であることがわかる。表面がゴツゴツしているので、うかつに進めば弾かれてしまう。
速度を落としきってしまうと、深い砂利にハンドルが取られて切れ込み、バランスを失う。それでも新型『DR-Z4S』は、ストロークに余裕のある前後サスペンションとパワフルなエンジンのおかげで、アクセルを開ければグイグイと突き進む。低回転域からトルクが太く、多用されるミドルレンジではパンチのある加速が味わえるため、スロットルを気持ちよく開けられる。
400ccの駆動力を活かせるよう、規模の割には直線部も長めに取られ、高回転域の伸びもしっかりと味わうことができた。車体に落ち着きがあり、サスペンションもしっかりと踏ん張るため、アクセルを開けていくほどに直進安定性の高さを感じる。
◆動きやすいシームレスな車体
スズキ DR-Z4Sの足つき
スズキ DR-Z4Sの足つき「軽い」「細い」「動きやすい」と、またがった瞬間に感じる。ボディは徹底的にスリム化され、シームレスに構成された車体はライダーの動きを妨げない。スタンディングポジションでの自由度も高く、前後への荷重移動もスムーズだ。ステップには脱着式のラバーが備わる。オフロードブーツのソールが食いつくよう、もちろん外した。
シート高は890mmで、身長175cm/体重67kgの筆者(青木タカオ)だと片足立ちでカカトがわずかに浮く。車体重量は151kgしかないから、つま先立ちでも不安はないはず。
国内仕様にはローシートが装備されている。よりオフロードを重視するなら、座面がフラットな『DR-Z4SM』用のシートを備えるのもよいだろう。
スズキ DR-Z4S◆卓越したコントロール性
3つのモードを選択できるスズキドライブモードセレクターを最もアグレッシブな「Aモード」に設定すると、パワーデリバリーがシャープになり、前輪が取られそうになっても、アクセルをひと開けしてやれば車体の姿勢を落ち着かせることができる。
砂利が深いコーナーでは、ハンドルが取られることがあっても急激にフロントからツルッとはいかないから、アクセルを開けて駆動力を活かして曲がった方がスムーズだった。ライン取りで言えば、インベタよりもアウトを使ったほうが気持ちいい。
本来は四輪車向けのコースだと説明を受ける。通りで起伏が少ない。そこにジャンプができるよう、踏み切り用のコブが特別に作られていた。
スズキ DR-Z4S筆者(青木タカオ)はありがたいことにドライとウェット、両方のコンディションでDR-Z4Sに乗ることができた。撮影日はあいにくの雨。水が溜まったコースは一段と難しい。それでもDR-Z4Sはジャンプもこなせるし、リヤが流れるほどアクセルを大きく開けても転倒する不安を感じない。
スチール製ツインスパーフレームを骨格とした車体が落ち着いているのと同時に、ライダーのスロットル操作に忠実なパワーデリバリーを実現していることが大きい。
◆ウェットコンディションだからこそわかる本領
スズキ DR-Z4Sジャンプはテイクオフでタイヤが滑ってしまうと、空中で車体の姿勢を崩してしまい、バランスよく着地できない。濡れたダートの斜面で着実にテイクオフするには、繊細なスロットルワークが欠かせないのだが、DR-Z4Sでは電子制御スロットルを採用しているにもかかわらず、あえてスロットルケーブルを介したライド・バイ・ワイヤ方式を採用し、ライダーの意志をそのままに駆動力として引き出してくれる。
たわんだ状態のケーブルを引く手応えをライダーが感じ取れるようにし、スロットルバルブのわずかな開度域でのコントロールをより研ぎ澄ました感覚で行えるようにした。
スロットル操作に対する優れた応答性は、速度の落ちるタイトコーナーの立ち上がりでも威力を発揮し、意図通りに操れる扱いやすさを乗り手に感じさせる。もっとも穏やかな出力フィールとなる「Cモード」も、単にパワーを抑えているのではなく、ピックアップが必要な領域ではもたつかないよう味付けされているのが見事だ。
アクセルを大きく開ければ、トルクの立ち上がりをセーブしたフレンドリーなセッティングが際立つ。雨の日は特に「Bモード」や「Cモード」が本領を発揮した。ドライだけでしか乗らなければ、Aモードがベストと決めつけていたかもしれない。
◆「Gモード」に舌を巻く
スズキ DR-Z4Sそして、トラクションコントロールを効かせて走れば、程よく介入してくれるのもありがたい。オフロードでは「G(グラベル)モード」がリヤを流れることを許容しつつ、車体姿勢が乱れそうになるところで空転を止めてくれる。
トラコンは「OFF」にもできるが、ジャンプの飛び出しでリヤが大きく滑ることも防げるからウェットコンディションでは得に有利だ。トラコンもまたドライだけの試乗なら不要と感じていたかもしれないが、濡れてスリッピーなコンディションで乗って恩恵にあずかることができた。
今回のコースでは試せなかったが、ヒルクライムのような急坂でもGモードは威力を発揮しそうだ。その登坂力は、きっと凄まじいだろう。ちなみにオンロードでは「1」、濡れたスリッピーな路面では「2」が推奨されている。こちらは一般公道で試してみたい。
◆全面刷新の400ccシングルエンジン
スズキ DR-Z4Sデュアルパーパスは250ccモデルが主流の中、スズキDR-Zは軽くスリムな車体のまま普通二輪免許上限の400ccエンジンを搭載する。24年前に国内ラインナップから姿を消した先代の「DR-Z400S」は、最高出力40psを誇り、これを選ぶライダーは少なからず腕に自信があった。少しくらい車体重量が増えたとしてもパワーで蹴散らすという、かなりツウ好み、ストイックなマシンだったのかもしれない。
そのDNAは最新型にも受け継がれていた。スペックだけを見れば、38psと一見下がったように感じるが、現代のバイクを知る者にとっては数値だけで昔と比較してはいけないことは重々承知だろう。DR-Z4Sもまた数値以上に全域でパワフルだ。
四半世紀近く前のモデルとは、言うまでもなく丸っきり違う。ツインスパー化したメインフレームはもちろん、水冷DOHC4バルブエンジンも90×62.6mmのボア・ストロークこそ変わらないもののフル刷新されている。
スズキ DR-Z4S当時の環境規制はEURO2で、一気にEURO5+まで引き上げるという難題が開発チームには待ち構えていた。全面的に見直さなければならないのは、想像に容易い。チーフエンジニアの加藤幸生(さちお)さんは、新型開発におけるポイントの一つだったとして教えてくれた。
エンジン設計を担当した城所琢也さんによれば、エンジンコンポーネントのアップデートは、チタン製インテークバルブやナトリウム封入中空エキゾーストバルブをはじめ、カムプロフィール、バルブスプリング、シリンダーヘッド、ピストン、クランクケース、アシストクラッチ、発電効率を高めるマグネトーなど、やはりオールニューといえるものだ。
キャブレターをFI化するのはもちろん、スロットル径を36mmから42mmに拡大している。10ホールフューエルインジェクターの導入により、高地や寒冷地への対応力も飛躍的に上がった。
◆なぜ6速化されなかったのか
スズキ DR-Z4S チーフエンジニアの加藤幸生さんひとつ気になったのは、なぜ6速化されなかったのかという点だ。報道陣を前にした技術説明会で、加藤さんはジャーナリストたちから質問される前に自らこう切り出した。
「軽量・スリム・コンパクトという設計思想と、耐久性という命題を両立させるために、5段変速が最適と判断しました」
「6段にすれば、エンジンとフレームの幅が広がり、スリムさと軽さが失われる。かといってケース幅を変えずに6速化すると、各ギアが薄くなり耐久性が落ちてしまう」
スズキ DR-Z4S「オフロードでは加減速の繰り返しにより、ギアに大きな負荷が掛かるため、高い耐久性が求められます。DR-Z4Sの5段変速はワイドレシオ設計で、トップギアの巡航域では6速車とほぼ同じエンジン回転数を保ちます」
つまり、軽さと信頼性を犠牲にせず、高速巡航性能まできっちり確保しているというのだ。
車両本体価格は119万9000円。年間目標販売台数400台であったが、発売を発表すると瞬く間にそれを上回るオーダーが入った。どれほどユーザーが待ち望んでいたかがわかる。
今回はオフロードでしか走れなかったが、次回はクルージング能力や峠道も確かめてみたい。
スズキ DR-Z4S青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。










