ヤマハのスポーツネイキッド『MT-25』に試乗。その最新モデルは、利便性や操作性の向上が図られ、オールラウンダーとしての資質がさらに高まっていた。
MT-25は2015年に初代モデルが登場し、2020年に倒立フォークの採用やデザイン変更を受けた後、2022年に排ガス規制への対応を済ませている。今回取り上げたのは、この4月から販売が始まった2025年モデルで、3パターンのカラーバリエーションがすべて新色になった他、下記の改良が施された。

■2025年モデルの改良点
・アシスト&スリッパークラッチの採用
・クラッチレバーの最適化
・USB Type-Aソケットの装備
・メーター液晶画面の変更
・コネクティビティ機能「Y-Connect」への対応
・シートとサイドカバー変更による足つき性の向上
・リア外装とテールランプの変更
・快適性が増したタンデムシート
・エンジン塗装色の変更
このように多岐に渡る、そして実利に富む改良ながら、価格は従来モデルから据え置きの63万2500円を維持。大幅な上昇が当たり前の昨今にあって、実にありがたい措置が取られている。
◆街中でのストップ&ゴーをストレスなく繰り返すことができる

MTシリーズ共通のフロントマスクの鋭さが、マットダークグレーメタリックと呼ばれる車体色によって一層際立っている。しかしながら、シートにまたがり、ハンドルに手を伸ばすとライディングポジションは存外に安楽だ。ステップこそ、やや高めに位置するものの、上体の前傾はほとんどなく、手を伸ばし、リラックスした姿勢を取ろうとした、ちょうどそこにグリップがある。
シート高の数値は780mmとこれまで通りながら、座面幅の狭小化とサイドカバーの見直しによって、足つき性がさらに向上。足を上げ下げする時のスムーズさも増し、リラックスした上体姿勢と操作力の軽いクラッチレバーの効果も相まって、街中でのストップ&ゴーをストレスなく繰り返すことができる。

◆なんら不足のない力強さを発揮するエンジン
パワーユニットは、水冷の直列2気筒エンジンをスチールパイプフレームに懸架する。これまで黒だったシリンダーやクランクケースの塗装色がマットダークグレーに変更され、存在感と上質さを演出。外装、フレーム、エンジン、アンダーカウルとダークの色合いが微妙に変化していく中、ほどよいアクセントをもたらしている。
エンジンの最高出力は35PS/12000rpm、最大トルクは2.3kgf・m/10000rpmを公称する。それぞれの発生回転数は高めではあるが、よく躾られた出力特性とギヤレシオによって、アイドリング+αの領域からなんら不足のない力強さを発揮。エンジンの扱いやすさもまた、街中でのストップ&ゴーで光るポイントながら、その魅力が本当に際立つのは、回転数とともに車速を引き上げていった時だ。

スロットル開度を増していくと、タコメーターのバーグラフがよどみなく連動する。それを高回転に留めておけばおくほど、サスペンションの動き、ステアリングの舵角、車体姿勢といったハンドリングをつかさどる他の要素とリンク。とりわけコーナーでは、乗り手の意思を汲んでくれるように素直な反応を示し、車体をスッとリーンさせることもそれをピタッと止めることも自在に操ることができる。
ペースをさらに上げたとしても、既述のライディングポジションのおかげで、躰のどこにも力は入らず、負担もない。ただハンドルに手を添え、コーナーの先へ先へと意識を送っていさえすればそれでよく、コーナリングの醍醐味に誰もが身を浸すことができる。
見た目はいわゆるストリートファイターにカテゴライズされ、実際、振り回すような乗り方にも応えてくれるモデルではあるが、それを実践しようとすれば、一体感と安心感がなければ始まらない。その意味で、MT-25はスポーツバイクとしての資質を高いレベルでクリアしている。そして、ライダーのスキルを引き上げ、押し上げてくれるモデルでもある。

■5つ星評価
パワーソース ★★★★
ハンドリング ★★★★★
扱いやすさ ★★★★
快適性 ★★★★
オススメ度 ★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。