マツダ『CX-60』が日本市場に登場してから早3年。当初から不具合、リコールなどが相次ぎ、その評価は必ずしも芳しいものではなかった。
主たるネガな要素はまず乗り心地の悪さ、そしてトランスミッションのギクシャク感などであった。とりわけ乗り心地に関しては、私のコメントがウィキペディアのCX-60欄に書かれてしまっているが、個人的に特に注視して試乗をさせて頂いているクルマだけに、応援の気持ちも込めて厳しい意見を書かせていただいた。
実は公表はしていないそうだが、2023年にはサスペンションの見直しを行っている。確かにそれによる効果は感じられたのだが、まぁ完ぺきではない。そして今回、2025年モデルとして大きく改良を施したCX-60が登場し、その試乗会が開催された。
いつも言うことだが、試乗時間は1台につき1時間である。だから、ここでのお話は断片的にならざるを得ない。じっくりとした試乗レポートは後に譲るとして、今回は乗り心地とトランスミッションの印象に特化してお話をしよう。
◆マツダは今回どんな改良を加えたか

試乗したのは素のディーゼルたる「XD」のAWD(全輪駆動)とRWD(後輪駆動)。そして「MHEV」のAWDの3台である。まずXDのAWDに乗り、間を開けずXDのRWDに乗った。このXDのRWDは、今回新たに追加投入された「SP」と呼ばれるグレードのモデルで、見た目の仕上げをスポーティーに。そして価格を極力抑えたいわばお買い得モデルである。そして最後がMHEVのAWDという順での試乗である。
マツダは今回どんな改良を加えたか。メーカーの言葉を借りれば、足についてはバネ、ダンパー変更を中心に、サスペンションセッティングの見直しによる操安性と乗り心地の向上。走行中の様々な騒音・振動への対策と言ったところである。
専門的な話はともかくとして、こうした改良でクルマがどう変わったかであるのだが、3台試乗して驚いたのは、その乗り心地に関してAWDとRWDでかなりの差があるということである。この件については後述するとして、以前から気になっていたリアの突き上げ感についてである。
6気筒の重いディーゼルエンジンを搭載しているから、フロントの車軸にはかなりの負荷がかかり、一方でリアはまあ、短絡的に書けば「軽い」である。このことによって、大きな入力が車体に加わった時、乗員は体感的に前に飛ばされるような間隔で上下動をしていたのだが、この傾向はだいぶ収まった。ホイールベースの長い『CX-80』ではこの傾向が多少なりとも強いが、CX-60についてはほぼ収まったと言ってよいだろう。この突き上げ感が消えたおかげで、乗り心地はだいぶ良くなった。
◆AWDとRWDで乗り心地に差

ただし、厳しい意見を言わせて頂けば、今回のモデルでも車両価格はAWDモデルが479万0500円である。乗り出しは当然ながら500万円を超える。この価格帯のクルマとしては、残念ながらフラット感のある乗り心地とはいえず、依然として細かい振動が室内に伝わる。
実は今回、リアのスタビライザーを外し、さらにリアのサブフレームのゴムブッシュを柔らかくするなどのチューニングが行われた。個人的な印象としては、このサブフレームの柔らかなゴムブッシュが、揺れの収束をピシッと止められない一因なのでは?と感じさせた。
そして本来リアは落ち着いてよいはずのAWD車でこの傾向が強いのである。AWDとRWDの重量差は50kgでしかないが、走りの軽快感は俄然RWDに軍配が上がり、電気的なアシストのない素のXDでは、AWDはもっさりとした加速感になり、回答性も含めた走りの軽快感は明らかにRWDが良い。
最後に乗ったMHEVの場合、このもっさり加速のイメージは薄いが、このMHEVもAWDであったことから、リアから感じられる微振動の収まりはよくなかった。因みに試乗したMHEV AWD車の価格は574万5000円。こちらは乗り出しで600万円を超える。そして2台目に乗ったSPという新たなグレードのXDは433万4000円であるから、これは結構な値段差となる。
時間もなかったので、乗り心地に関してはこのリアからの突き上げ感だけに特化してチェックをした。
◆トランスミッションの課題は

もう一つ気になっていたのは、当初どこから発する音かは不明だった、ごく低速で発する「ゴー」という何とも不快で、どこか壊れたんじゃないかと錯覚するような異音だ。その犯人は、実はトランスミッションだった。
以前のレポートでこのトランスミッションには低速域の断続でギクシャク感が出る話も書いた。実はこの「ゴー」というあたかも何かが挟まってしまったような異音については、それがステアリングを切った時に出ていたので、原因が特定できなかったのだが、原因は上述の通りである。
これについても注意を払って試乗してみたが、1時間の試乗×3回の間に発することはなかった。ただし、大きな「ゴー」は出なかったものの、ようやく耳に届く程度の「ゴー」は時々出る。まあ、ほぼ消し去ったと言ってよいと思う。それにギクシャク感については、渋滞などの低速の断続などが体験できなかったので、これは解らずじまい。ただ、全体としての繋がり感はよくなっている印象を受けた。
◆新グレード「SP」は走りだけなら上級モデルと同じ

最後にSPについて話をしよう。この新しいグレードは外装をブラックで引き締めて、グリルはハニカムに。20インチアルミホイールを装着などがベースグレードと異なる主たるポイントである(他にもあるが)。
インテリアは流石に簡素で、最後に乗ったプレミアムスポーツの内装と比較するとかなり見劣りする。実は上質な内装を謳うマツダにあっては、この内装こそ売りになるので、この点をケチるかどうかは判断の分かれるところ。
ただ、SPの基本スペックは上級モデルと何ら変わりがないので、走りに特化すれば上級モデルと同じである。少し間を空けてすべてのモデルをじっくり乗ってまたレポートする。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。