本稿は、2025年1月24日に開催されたセミナー「Season3中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.2 水素社会実現に向けたトヨタの取組み」の全文書き起こしです。
講演者: トヨタ自動車株式会社 水素ファクトリー プレジデント 山形光正 氏
モデレーター:ナカニシ自動車産業リサーチ 代表 アナリスト 中西孝樹 氏
講演の後、モデレーターの中西孝樹氏との対談や視聴者からのQ&Aは、セミナーの見逃し配信で視聴可能です。レスポンスビジネス プレミアムプラン、法人プランへの登録でアーカイブ視聴が可能です。ぜひこの機会に会員登録をご検討ください。
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トヨタ自動車水素ファクトリーでプレジデントをやらせていただいてます山形と申します。皆さん、本当に貴重なお忙しいお時間の中、ご参加いただきまして本当にありがとうございます。
少しでも皆さんのご期待にお応えできるように頑張りたいと思いますし、何か今日の中で1つでも、そんなことあるんだ、と気づいていただけたり、終わった後に皆さんが、俺も頑張ってみようかなと思っていただけたらありがたいなという思いで、今日コンテンツを用意させていただきました。
それでは早速、資料に基づいてご説明させていただきたいと思います。
皆さんご存じの通り、再生可能エネルギーは、基本的には電気になっていきます。この電気をそのまま使うことが最も効率的なんですが、時として、大量にためる、ないしは運ぶというニーズが出てきます。こういった時に、水素に一度置き換える必要が出てきます。
水素に置き換えたものは、できればそのまま水素で使う方が効率的ですので、水素のモビリティや燃焼発電機といった用途が考えられます。
また、この水素をさらにe-fuel、合成燃料ですとか、合成したアンモニア等に変換することによって、既存のインフラで使うことができます。社会にとってはこれが最も負担が少ないということになるんですが、変換を繰り返せば繰り返すほど効率は落ち、原価は上がっていきますので、このバランスをいかにうまく取っていくか。この電気と水素の調和というのが将来のカーボンニュートラルの社会に必ず必要なものだとトヨタ自動車は信じています。
ですので我々は、水素というものはエネルギーであるとともに、社会をつなぐ媒体になっていくと位置づけて取り組んでいます。
ここから、一昨年前に設立しましたトヨタ自動車の水素ファクトリーのご説明をさせていただきたいと思います。
まず、歴史です。我々は30年ほど燃料電池及び水素の技術開発に取り組んでまいりました。2014年に初代MIRAIを発表させていただきまして、2023年にクラウンFCEVを追加投入させていただいております。

この取り組みの中で、MIRAIを約10年間走らせているんですけども、1つ気づいたことは、乗用車の水素の需要だけでは、水素需要としては少なく、小さいということです。これが何を意味するかと言いますと、水素を供給するインフラに関わる方々、水素ステーションの事業者様やガス会社様が、なかなか収益を上げられない、継続的な事業はできないという課題が分かってきました。
この課題をなんとか解決するために、乗用車よりもたくさんの水素を使うことができるトラックやバスといった商用車を水素で走らせることによって水素の需要を増やし、水素を持続的に皆さんと一緒に使える状態を目指したいということで、我々は2019年から、積極的にこういった商用車の方々にも我々の技術を販売させていただきまして、需要を広げていくという取り組みを進めております。

こういった形で、商用車によって水素インフラを事業者様が続けられる状態になっていけば、我々の乗用車もまだまだこれから大きく広げていくことができると考えて進めております。
これは燃料電池市場の見通しですが、2030年辺りに世界中の様々な規制やインセンティブが集中しておりますので、こういった時期に市場が広がっていくだろうという予測があります。中でも、先ほど申し上げましたような中型・大型のトラック・バス、それから小型の商用車が市場を牽引していくのではないかと言われています。我々が外販をさせていただいてる中でも、こういった商用車に関するお問い合わせがたくさん来ております。

こういった社会の変化を踏まえまして、我々が30年間築き上げてきた水素の技術で、なんとかこの課題に貢献していきたいということで、2023年7月に水素ファクトリーを発足させていただきました。
この事業を進めていく上で、3つの軸を大切にしております。 1つ目が、まず何よりもマーケットがしっかりある国で開発・生産をしていく、その地域に合わせて対応していくということを大事にしています。

2つ目は、水素は「つくる・はこぶ・つかう」とよく言われますが、様々な方々が一緒になって進めていかないと水素社会というのは実現できませんので、こういった各地域の有力なパートナーの方との連携をしっかりやっていく。その中で標準規格化して安くお求めやすいものに水素の社会を変えていく。
それから3つ目は、そういったパートナーの方に必要とされるためには、我々に競争力がないといけませんので、これをしっかり技術革新として進めていくということを3つの柱として、ここ1年半ぐらいになりますが、進めてまいりました。
これが今の水素ファクトリーのグローバル体制になります。日本のみならず、中国、ヨーロッパ、アメリカにそれぞれ生産も含めた拠点を構えております。それから中東ですとかアジア、オセアニアといった、これから水素に関心が高まり広がっていくところにも、現地の事業体と連携しながら状況の変化に合わせて対応していく、こういった体制を敷いて事業を進めております。

ここからは各地域で我々が取り組んできた内容についてご説明したいと思います。 まず初めに、私自身もこの1年半ちょっとになりますが、この仕事を拝命いたしまして、世界中を回って色々な状況を見て、色々なパートナーの方のお話を聞いて進めてきました。
そんな中で、持続可能な水素社会、これは本当に大きな課題だと思うんですが、これを実現するためには4つのピースが必要だと思っています。

1つ目は、まずは水素でなければならない用途を明確にするということです。これは当たり前ではあるんですけれども、電気でもできる、バッテリーEVでもできる、こういったものに水素を使っているケースも中にはありますが、この場合は、水素はまだまだ課題も大きいですので、なかなか途中で息が切れてしまうと言いますか、続かなくなってきてしまいますので、まずは何よりも、やっぱり水素じゃなきゃ無理だと、水素じゃなきゃできないということを明確にするのがスタートポイントだと思ってます。
次に、コストを下げるための技術開発と法規制の整備です。ここは政府の意思と言いますか、水素はやはりエネルギーですので、エネルギー戦略の中でどのように水素を位置付けるのか、ならびにそれを実現するための規制やインセンティブを用意する、そして何よりも国民の皆様がそれに共感をしていただくということが大切だと思ってます。水素は危険というような認識を持たれている方々もまだたくさんいらっしゃいますので、こういったご理解を深めていくことも重要だと思います。
最後は、こういった土台の上で、意思あるパートナーの方々と「つくる・はこぶ・つかう」をパッケージにして、市場に一気に投入すること、これが非常に大きな要素になってきます。これがバラバラで動きますと、いわゆるニワトリと卵の関係になってしまいます。これをセットで、パッケージとして一斉に市場投入する、これが大きな要素になってくると思います。 これを少し頭に置いていただきながら、この後の話を聞いていただけると幸いです。
それでは、ここから地域ごとの取り組みのご説明をします。
まず中国です。左側はFCの商用車の販売台数を示しています。2023年までのグラフになりますが、世界中でこの商用車のFC化という動きはあるんですけれども、現実的に数字で表れているのは、中国が9割ということで、圧倒的に中国のスピードが早いです。
