2024年5月21日、イードはオンラインで「池田直渡の着眼大局セミナー」を開催した。第3回は、川崎重工の水素戦略本部から加藤美政課長と技術開発本部エネルギーシステム研究部の田中一雄部長が講師として登壇。「川崎重工の水素サプライチェーン構築とCO₂分離回収技術」と題し、同社の取り組みについて講演が行われた。その内容をダイジェストでお届けする。
なぜ水素・液化水素に注目したのか
水素は利用時にCO₂を出さないため、産業活動やモビリティの脱炭素化に幅広く貢献することが期待されている。無色・無臭・無毒な気体で様々な資源から作ることができるとともに、貯めて運べるメリットもある。
・日本のエネルギー課題
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、CO₂を排出しないエネルギーの確保が急務となっている。太陽光や風力などは気象条件に左右されるため、安定的な供給は期待できない。「様々な場所で作れて、貯めて運べる水素は、脱炭素化の“切り札”と言っても過言ではない」と加藤氏は話す。

・日本の水素政策
2017年、日本政府は世界に先駆けて「水素基本戦略」を制定し、水素技術の実証で世界をリードしてきた。この基本戦略は2023年に改訂され、現在200万トンほどの水素流通量を2040年には年間1200万トンにまで増やす目標を掲げている。また、今後15年間で官民合わせて15兆円の投資も予定されている。2050年には2000万トンの流通が計画されており、国内需要に対応するためには海外からの輸入が不可欠になりそうだ。

海外から水素を大量に運ぶ方法としては、液化するのが最も効果的だという。気体状態の水素をマイナス253℃に冷却すると、体積が800分の1の液体となる。極低温状態とすることで、不純物が取り除かれるメリットもある。
水素供給の道のり:パイロット実証から商用化まで
川崎重工は2010年、化石燃料に代わるエネルギーとして水素に注目。外国から海上輸送することで国内需要につなげる「水素サプライチェーン構想」を掲げた。海外からの大量輸送と国内での発電など大規模利用によりコストを下げ、普及につなげる考えだ。

当時、海外から液化水素を海上輸送した例はなかった。主な障害となっていたのは、長い航海の間、温度をマイナス253℃に保ち続ける点だ。川崎重工は、これを液化天然ガス(LNG)用運搬船と液化水素貯蔵タンク(※)で培った高性能な断熱技術を基に解消した。(※ロケット用燃料を貯めるため種子島に設置されている)
加藤氏によると、「100℃のお湯が1ヶ月経っても1℃しか下がらない」という追加冷却不要の真空断熱技術を開発。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造した。2022年2月には「日豪パイロット実証プロジェクト」を実施、液化水素をオーストラリアから日本まで運ぶことに成功している。
将来は、この船の約130倍となる1万トンの液化水素を運ぶことができる大型水素運搬船の建造も計画しているという。

水素利用技術の開発:発電からエンジンまで
・広がる水素利用
かつて水素の利用はロケット燃料や半導体製造などの産業現場に限定されていた。現在では、燃料電池とモーターで走るクルマやバス、さらには家庭用燃料電池(「エネファーム」)など日々の生活に密着したところにまで活用範囲が拡大している。近い将来は、航空機や鉄道、発電など大量に水素が使用されていくと考えられる。
