またもやホイール色に衝撃! 新型『MT-07』の斬新カラーをヤマハデザイナーが紐解く

歴代ヤマハMTシリーズは、そのカラーで市場にインパクトを残し続けている。右が「ブルーソリッド」のホイールを履いた最新のMT-07
  • 歴代ヤマハMTシリーズは、そのカラーで市場にインパクトを残し続けている。右が「ブルーソリッド」のホイールを履いた最新のMT-07
  • ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。
  • ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。
  • マットライトグレーメタリック4のボディにブルーソリッドのホイールを履く2025年モデルのMT-07
  • マットライトグレーメタリック4のボディにブルーソリッドのホイールを履く2025年モデルのMT-07
  • ヤマハの象徴「アイコンブルー」で統一したMT-07 2025年モデル
  • ヤマハの象徴「アイコンブルー」で統一したMT-07 2025年モデル
  • 定番カラー「テックブラック」のMT-07 2025年モデル

欧州ヤマハが10月24日に発表し、11月5日に開幕したEICMA2024でも目玉のひとつとなった2025年モデルの新型『MT-07』。第4世代に進化したそのデザインは、鮮やかな明るいブルーのホイールがまず目を惹く。そこにどんな想いが込められているのか? デザイナーを直撃した。

◆ブルーソリッドのホイール

ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル(海外仕様)ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル(海外仕様)

新型MT-07では3タイプのカラーコーディネイトが選べるが、やはり注目はブルーソリッドという新色のホイールを履く「アイスストーム」。タンクなどのボディ色には、既存色のマットライトグレーメタリック4を組み合わせている。

ちなみに「アイスストーム」は欧州ヤマハの色名で、カラーデザインを手掛けたヤマハ発動機のプロダクトデザイン部・CMFGグループリーダー渡邉祐也氏によれば、「開発当時はスカイフローと呼んでいた」とのこと。「澄み切った空のような、洗練されたクリーンなイメージ」という主旨である。(注:ヤマハではCMFに「グラフィック」を加えてCMFGという造語を使う)

空=スカイだから、やはり鍵はホイール色なのだが、スカイフローの「フロー」は蛍光の意味。となれば思い出すのが、2016年モデルのMTシリーズに投入された蛍光イエロー(正式にはアシッドイエロー)のホイールだろう。前例のない明るく鮮やかなカラーリングが大きなインパクトをもたらした。

あれからMTシリーズは一貫して彩度の高い色のホイールを用意してきた。その最新進化版が今回のブルーソリッドというわけだ。

◆アシッドイエローの挑戦

アシッドイエローで2017年のオートカラーアウォードを受賞したMTシリーズアシッドイエローで2017年のオートカラーアウォードを受賞したMTシリーズ

2016年モデルのCMFGを担当し、現在はスクーターのデザイングループでリーダーを務める安田将啓氏にも話を聞くことができた。あのアシッドイエローのホイールの生みの親だ。

それまではMT-07にオレンジ、『MT-09』にレッドのボディ色があったものの、「従来のモーターサイクルのセオリーに則ったカラーリングだった」と安田氏は振り返る。

「(2008年の)リーマンショックで市場が縮小した後、モーターサイクルを根底から見直そうと開発したのがMT-09/MT-07。ただ、スタイリングや乗り味に比べて、カラーについては、低迷した気分から立ち直るスピードが少し遅いと考えていた」

MT-09/MT07はネイキッドスポーツとモタードをハイブリッドしたような新コンセプトのバイク。MT=マスターオブトルクの車名の通り、絶対的な速さよりトルク感のある走り味を特徴とする。

アシッドイエローの登場は大きなインパクトがあった(写真はMT-09)アシッドイエローの登場は大きなインパクトがあった(写真はMT-09)

「ところが市場にMTを導入して評価を聞くと、需要が上向く兆しが感じられた。既存概念にとらわれずに、街中でトルクを楽しんで乗ることに感動していただけている。ならばカラーも新しい見え方にトライしようとなった」と安田氏。では、なぜそれが蛍光イエローという結論になったのか?

「安全だけどクールに見える。そんな見え方を考えたときに、ホイールという回転物に蛍光色を使う発想が生まれた」。安全性のための蛍光色となれば、黄色は順当な選択だろう。

「それを、交通誘導員の黄色い安全ベストのような見え方ではなく、カッコいいスタイルとして成り立つようにしたい。そうすれば、何か既成概念を超えて豊かさを届けられるものになるだろう。だから、あえて質感より彩度のインパクトを重視して、イエローの彩度を極限まで高めた。従来にない色に挑戦することが、その当時のMTシリーズには大事だった」

◆ホイール色の変遷

マットライトグレーメタリック4のボディに、バーミリオンのホイールを組み合わせた2019年モデルのMT-07マットライトグレーメタリック4のボディに、バーミリオンのホイールを組み合わせた2019年モデルのMT-07

2016年モデルのブルーイッシュグレーソリッド4のボディ色+アシッドイエローのホイールというカラーリングは、市場で好感されただけでなく、デザインのプロからも高い評価を得た。日本流行色協会が主催する「オートカラーアワード」で2017年、MTシリーズが2輪車として初めてグランプリの栄冠を獲得したのだ。

しかし2019年モデルを皮切りにアシッドイエローがラインアップから消える。「続けることも大事だが、MTシリーズでは新しさや驚きが必要なので、お客様の想定外のところに手を打ちたい。飽きられる前に、次の一手を仕込んだ」と、安田氏はその思いを語る。代わって2019年モデルで登場したのがバーミリオンという赤系の、これまた鮮烈なホイール色だ。

それから3年後の2022年モデルではホイール色にシアン(ややグリーン寄りの明るいブルー)を新採用。今回の25年モデルでそれがブルーソリッド(色相的にはピュアなブルー)に交代することになる。アシッドイエロー/バーミリオンの時代に比べて、シアン/ブルーソリッドは少し趣が異なるように思えるが…。

◆The Dark side of Japanの世界観

ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。

「もともとMTシリーズは普通のネイキッドではなく、Xスポーツなどのサブカルチャーに通じるクールなファッション性を持って生まれた。『The Dark side of Japan』のマーケティング活動によって、そうしたMTの個性をお客様に印象的に伝えることができたと思う」と語るのは、冒頭に登場した渡邉氏。そしてこう続ける。

「『The Dark side of Japan』でクールジャパンの世界観や夜をモチーフにした少し危うい世界観を訴求するなかで、バーミリオンはその世界観をより洗練させて表現した色。アシッドイエローを進化させ、世界観の純度を高めたのがバーミリオンだった」

「しかし次はもっとデジタルな世界で、日本のハイテクな文化を掛け合わせた表現にしたいと考えて、シアンを登場させた。アシッドイエローやバーミリオンではXスポーツなど他業界の要素を3次元の車体に巧く取り込んで再構成したのに対して、シアンや今回のCではデジタルの世界から飛び出してきたようなフューチャリスティックな要素を取り入れた」

マットライトグレーメタリック4のボディにブルーソリッドのホイールを履く2025年モデルのMT-07マットライトグレーメタリック4のボディにブルーソリッドのホイールを履く2025年モデルのMT-07

背景にあったのは、「デジタルとリアルの境界が曖昧になってきた」という現状認識だ。メタバースはその例だし、近年は画像生成AIがそこに拍車をかけている。「MTシリーズのなかでも、MT-07は大型バイクのエントリーカスタマーに訴求する役割がある。デジタルネイティブなZ世代のお客様の琴線に響くためには、『The Dark side of Japan』の世界観の見え方を進化させなくてはいけないと考えた」

「今回、ブルーソリッドのホイールにマットライトグレーメタリック4を組み合わせたのも、クリーンでフューチャリスティックなイメージを求めた結果。『The Dark side of Japan』だからダークな色というのではなく、セラミックのような硬質で無機質な色にすることでクリーンさやデジタルの世界を表現しようという狙いだ」

渡邉氏の話を聞いていて、リアルな夜の世界にデジタルの青空から光が射し込む情景が頭に浮かんだ。あくまで個人的な連想だけれど…。

◆さらなるWOW! へ進化は続く

アイコンブルー(左)とアイスストーム(右)のヤマハ MT-07 2025年モデルアイコンブルー(左)とアイスストーム(右)のヤマハ MT-07 2025年モデル

欧州ヤマハによれば、新しい2025年モデルのMT-07では「アイスストーム」の他に、「アイコンブルー」、「テックブラック」が選べる。

「アイコンブルー」はボディ色とホイール色を「レースブルー」とも呼ばれるお馴染みのブルーメタリックで統一(ボディはディープパープリッシュブルーメタリックC、ホイールがディープパープルブルーメタリック15)。レースで培ったヤマハのスポーツイメージを訴求する。2018年モデルからあるカラーリングだが、ヘッドランプ回りとフェンダーをマットブルーにしたのが2025年モデルの特徴だ。

「テックブラック」のボディ色はマットダークグレーメタリックD(仕向地、仕様によって呼び方は異なるが同じ色)、ホイールは「ローグロスブラック」。こちらもMTシリーズではお馴染みの継続色で、「お客様が選びやすく、どんなシーンにも調和するカラー」と渡邉氏はその位置付けを説明してくれた。

ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。ヤマハ MT-07 Y-AMT 2025年モデル。変わらず『The Dark side of Japan』をテーマに掲げる。

さて、アシッドイエロー、バーミリオン、シアン、ブルーソリッドと変遷してきた大胆なホイール色の系譜は今後、どんな進化を見せてくれるのだろう? いや、進化の余地はまだ残っているのか? 

「今はホイールの色をどうするかという手法しか展開できていないけれど、そもそもMTシリーズはお客様が自在に操れて、安心感を持って市街地からサーキットまで走れるバイクなので…」と渡邉氏。「アクセントカラーがどこにあったら、自由自在にMTを操る姿が魅力的に見えるのか? その答えはきっとホイールだけではないだろうから、そのさらに上のレベルのCMFGを考えていきたいと思っている」。

MTシリーズのカラーリングは今後も我々に“WOW!(ワオ!)”をもたらし続けてくれそうだ。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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