Hondaの軽自動車が元気だ。『N-BOX』の2021年の販売台数はじつに188,940台(※1)。軽自動車の新車販売台数で一位に輝いた。なんと7年連続の首位、しかも登録車を含む10年の累計販売台数ナンバー1というから驚かされる。もはや日本における国民車的ポジションだ。
ではなぜN-BOXは人気なのか。このカテゴリーで優先されるのは室内空間の広さである。軽自動車規格という限られたディメンションの中で、どれだけスペース効率を上げるかが勝負だが、このクルマは見事それに成功している。室内寸法はトップクラス(※2)と言っていいだろう。それに豊富なシートアレンジやスライドアが組み合わされるのだから鬼に金棒だ。先進の安全運転支援システム“Honda SENSING(ホンダセンシング)”(※3)が標準装備されるのもグッド。運転のあまり得意でない人には便利だし、上級者にとっても「安心」につながる装備はありがたい。
Hondaブランドに期待する走行性能も期待通り。いや、期待以上の仕上がりと言いたい。スムーズな加速と軽快なハンドリングはクルマ好きをも納得させることだろう。兎にも角にも運転が楽しい、と思わせるのだ。
そんなN-BOXが昨年末に10周年を迎えたのをご存知だろうか。販売開始は2011年12月、そして昨年5月にはN-BOXシリーズ累計200万台(※4)を記録した。“国民車的ポジション”と記述した理由はおわかりいただけただろう。この記録はN-BOXの支持率の高さを物語っている。
マイナーチェンジで「電子制御パーキングブレーキ」「渋滞追従機能付ACC」も
現行型N-BOXは、2017年9月にフルモデルチェンジした技術の上に成り立っている。プラットフォームやパワートレインはその時にアップデートされたものだ。助手席スーパースライドシートもこのタイミングで採用された。同時にHonda SENSING(※3)が標準装備となった。そして昨年12月、マイナーチェンジでさらに装備が充実。その人気にますます拍車がかかるであろう内容となった。

具体的には、電子制御パーキングブレーキ(※5)が採用された。手元のスイッチでパーキングブレーキのオンオフができる方式だ。しかも、アクセルペダルで自動解除するので、発進時の解除忘れはこれで解決。またオートブレーキホールド機能(※6)が追加されたのも注目ポイント。ブレーキを長く踏んでいると自動的にアイドリングをストップし、ブレーキペダルから足を離しても停車状態を保つ。アクセルオンで自動解除される仕組みだ。
Honda SENSING(※3)では「渋滞追従機能付ACC」(※7)の追加がニュース。これで渋滞時のストップ&ゴーや、だらだら続く低速運転時のストレスと疲労はかなり軽減されるだろう。イライラ解消が健全なドライブにつながる。

これらはすべて、ユーザー目線で考える「Nシリーズ」の開発思想に基づいているそうだ。ユーザーに近い存在の軽自動車だけに、それは重要なポイントとなるであろう。というか、その思想がこれまで多くのユーザーに支持されてきたのは明らかである。
ひと味違う大人仕様の「STYLE+ BLACK」

HondaはN-BOX 10周年のタイミングで、Nシリーズの新ブランドに当たる「N STYLE+」を立ち上げた。これは標準車とはひと味違うデザインを用いることで、より個性的なモデルを希望するマーケットに応えたプロジェクトだ。Nシリーズユーザーの7割が次のクルマもNシリーズにしたいという声から、この発想は生まれたという。確かに、中身は信頼と親しみのあるNシリーズで、デザインが個性的というのはいい考えだ。
その第一弾となるのが、今回ステアリングを握ったN-BOX Customに追加される「STYLE+ BLACK」となる。ホイールを含めたエクステリアに黒いパーツを取り入れ、クールさをアピールしている。言うなれば“大人仕様”のN-BOXだ。

具体的には、カスタムデザインフロントグリル、9灯式フルLEDヘッドライト、フルLEDリアコンビネーションランプ、フォグライトガーニッシュ、リアライセンスガーニッシュ、カスタムデザインリアバンパーにベルリナブラック加飾が施される。専用のアルミホイールもブラック塗装だ。また、助手席インパネガーニッシュやドアオーナメントパネルなどをメタルスモーク偏光塗装する。思いのほか、細かい部分にまで手を入れているのはさすがHonda。ボディカラーは3色。プラチナホワイト・パール、メテオロイドグレー・メタリック、クリスタルブラック・パールから選べる。ベース車両は、LとL・ターボ。共にFFと4WDが用意されている。
背の高い軽自動車であることを忘れてしまう

ここからは、「N-BOX Custom STYLE+ BLACK」のインプレッションをお届けしよう。今回の試乗車は「L・ターボ」ベースの「STYLE+ BLACK」。15インチタイヤを履いた上級グレードである。ドライビングポジションは身長180cmでも余裕、ヘッドクリアランスもしっかりあるから高いアイポイントでも視界は広い。フロントピラーが工夫されているので死角が少ないのもいい。それに足元も広い。エンジンがコンパクトなのも関係しているだろうが、左足を置くスペースは十分だ。
走り出せば、出だしからスムーズ。ターボが低回転で働くのと、CVTにラグがないのが好印象を受けた。言ってしまえば、現在市販されている中で最も秀逸なCVTと言ってもいい。というのも、スタートだけでなく中間加速もアクセルにリニアに加速する。エンジン回転だけが上がり加速しないという現象は皆無だ。通常であれば追い越し加速でパドルシフトを使いたくなるところだが、それもしなかった。パドル操作なしで市街地走行から高速移動まで広くDレンジのまま運転が楽しめる。

また、ハンドリングもかなりいい。パワステが軽すぎることなく、しっかりステアリングフィールをドライバーに伝える。しかもリアの追従もテンポよく、一体感をキープしたままコーナーで軽快なフットワークを見せる。レーンチェンジもインターでの高速コーナーもじつに安定しているのだ。
さらに言えば、重心が低いだけでなく、ロールセンターも低い位置に設定されるようで、キャビンがふらつくことがない。常に乗員の身体が安定したまま鋭いハンドリングで向きを変えられる。15インチのタイヤがどこまで踏ん張ってくれるか正直なところ不安もあったが、それは取り越し苦労でしかなかった。
そんな走りなので、運転していると背の高い軽自動車であることを忘れてしまう。脳はキビキビしたホットハッチでも走らせているような感覚のため、信号待ちでショーウィンドウに映る姿に、ちょっとしたパニックが起こりそうだ。

Hondaの真骨頂はここにある
「N-BOX Custom STYLE+ BLACK」は、モータージャーナリスト的見地から言えば、100%Hondaらしい走りを楽しめるモデルである。でもって、エクステリアもインテリアも黒を中心としたカラーで大人っぽく仕上げているのだから申し分ない。ある意味「出来過ぎ」と思えた。Hondaの真骨頂はここにあるのかもしれない。
いずれにせよ、売れているクルマをさらに魅力的に仕上げたのは確か。軽自動車を機能と走りの面からライフスタイルに取り入れるのは良さそうだ。と同時に、「N STYLE+」の今後の展開が楽しみになった。今後もNシリーズがHondaの基礎を支えていくのをこれで確信した。

九島辰也|モータージャーナリスト
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの"サーフ&ターフ"。 東京・自由が丘出身。
※1 全国軽自動車協会連合会調べ(2021年12月時点)
引用元:https://www.zenkeijikyo.or.jp/statistics/tushokaku-7359
※2 2021年12月時点。室内三寸法(室内長、室内幅、室内高)に基づく(Honda調べ)
※3 Honda SENSINGは、ドライバーの運転支援機能のため、各機能の能力(認識能力・制御能力)には限界があります。各機能の能力を過信せず、つねに周囲の状況に気をつけ、安全運転をお願いします。
※4 2011年12月発売から2021年5月までのN-BOXシリーズ(N-BOX、N-BOX+、N-BOX SLASH)国内累計販売台数(全軽自協調べ)
※5 作動・解除時に後輪付近からモーター音が聞こえますが異常ではありません。また、アクセルペダルによる自動解除は、運転席のシートベルトが着用されている時のみ作動します。
※6 シートベルトを着用し、エンジンを始動してからスイッチを押すと、機能がオンになります。
※7 前を走るクルマに対して加速・減速し、適切な車間距離をキープしてくれるアダプティブクルーズコントロール(ACC)に渋滞追従機能を追加。先行車がいる場合、停車中から作動し、先行車がいない場合は、約30km/h以上で走行中に作動します。先行車に接近しすぎる場合には、ブレーキペダルを踏むなどして適切な車間距離を保ってください。高速道路や自動車専用道路を運転するときに使用してください。