【日産 アリア】今までにない表現の集大成…エクステリアデザイナー[インタビュー]

日産 アリアデザインスケッチ
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フルEVのSUV、日産『アリア』は、新しい世代の日産のSUVを作る、日産を背負って立つ次世代車、既存のクルマではない新たなジャンルを切り開く存在のクルマを意識してデザインしたものだという。

日産として何が出来るか

これはエクステリアデザインを担当した、日産デザイン部マネージャーの山崎一樹さんに向けて会社から指示されたものだ。

その頃山崎さんは、「25年くらいカーデザインをやって来たが、最近のエクステリアはどのメーカーも割と同じようなクルマを作っている」と感じていた。昔は、「国ごと、メーカーごとにキャラクターがあり、そのクルマを見ただけでその国のイメージが浮かび上がるような、各ブランドで非常に個性的なクルマを作っていた。しかし今は、どこのメーカーだっけ? という感じに思えていた」ことから、「今回は日産として何が出来るか」を考えたという。

「日産はチャレンジングなメーカー。十数年前にインフィニティの初代『FX』や『ムラーノ』など、時代にエポックなSUVを出していた。その日産のアドバンテージ、日産ならではのチャレンジャブルな商品が最近少ない中、このプロジェクトはイケるのではないか、そういう表現が出来るのではないかと非常にテンションが上がった」。そこで、「新たなジャンルを切り開くような存在のクルマを作れたらと思いこのプロジェクトに挑んだ」と意気込みを語る。

そして完成したアリアを見て、「すごく上手くいったと思う。このクルマはボディーサーフェイスでリフレクションの動きをすごく丁寧に作り込んだ。東京モーターショー2019では艶消しになりリフレクションがなくなったのは残念だったが、色は“超”格好良いと思う」とコメントした。

タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム

アリアのデザインコンセプトは何か。山崎さんは、日産デザインのベースの考えとして、「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズムがあり、これはアリアと共に発展してきた」という。

アリアのグリルには組子パターンが取り入れられており、これは、「ダイレクトに日本文化からインスパイアされてデザインしたもの」。だが、「最初のプロポーザルではそういったものは入っていない、日本という表現がないアプローチもいくつかあった」と話す。が、「案のひとつとして、ジャパニーズDNAにこだわったプロポーザルがあった。その時にこれは少し新しいのではないか。次世代のEVとして表現したいこととリンクすることから、ジャパニーズというキーワードが絞り込まれ、ブラッシュアップされていった」とのことだった。

ではそのジャパニーズDNAは組子パターンなどのディテールだけではなく、全体で表現はされなかったのか。「ディテールはもちろんだが、クルマ全体の骨格などからもジャパニーズDNAを感じさせてデザインしている」と山崎さん。そして、「ジャパニーズDNAはすごくシンプルでダイレクト、かつ心地いいデザインだ」と述べる。

山崎さんは、「スケッチは何百枚も描くのだが、その時はデザインテーマを探すと共に形の純粋さをブラッシュアップ。どれだけ形を純粋に出来るかをキーワードに、今回はEVなのでいつもより作業を費やした」とのこと。

「単純にいうとシンプルということだが、このアリアのデザインで垣間見られるのが、ボディサイドのキャラクターラインがフロントからサイド、リアへ抜けて一本のオーバルで繋いでいること」を挙げ、その軸上に「ヘッドランプ、グリル、リアコンビなどの全ての機能を集約している。つまり軸を通してシンプルに出来ている。それがこのアリアのひとつのキーだ」と説明。

リアコンビも非常に薄く一本だけ基線が通っている。それに加え、「下の方にはグリルと同じ組子のような日本的なパターンからインスパイアされたものを散りばめている」という。

山崎さんによると、「これは最初からやりたかったことで、しかも非常に薄いヘッドランプとリアコンビでテクノロジー感も表現したい。そこは最初から一貫してブレずに、デザインのNGも出ず通せたところ。純粋さが表現出来ている」と述べた。

「エクステリアのランプ類も機能品。ただしそこに優しさや心地良さがあると、今までの単なる機能的なランプとは意味が変わってくる。しかもジャパニーズDNAをもとに発信している表現だ」と説明した。

EVらしさを表現したボディーサーフェイス

そのサイドのキャラクターラインを境に上の面と下の面とが綺麗にコントラストがついており、“面で勝負”しているようにも見える。山崎さんは、「その通りで、あくまでもキャラクターラインは結果的に入れた軸の話であり、それよりも大事なのはサーフェイスだ。しかもこのサーフェイスは普通のガソリン車では扱わない非常にナチュラルでピュアな面だ」という。

さらに、「クルマが走ると同時にリフレクションが流れていくのだが、その時にスピードシェイプのようにバンバン流れてスピードを感じさせるのではなく、ゆったりとたおやかに流れていく。その様がEVの滑らかな走りにリンクして、EVらしさをより表現したものになっている」とコメント。

「本当にこの面を作るのは大変だった」と山崎さん。「シンプルにすることで単位を大きくしたかったので、その面の面積を広げたかった。そうするとのっぺりと単調になってしまいがちなのだが、こだわった面を作ったことで、凝縮感が与えられて充実しながらも大胆なシェイプになった」とその完成度に自信を見せる。

面といえばもうひとつ、ドアハンドルの下あたりからリアホイールに向けて下がりながらの面構成も特徴だ。これは、「どちらかというとリアフェンダーに入っている塊をきちんと表現することが大事だった」と山崎さん。

そして、「このクルマの全てがフロントにある日産の新しいブランドアイデンティティから形が発生し、そこを起点にボディサイドに非常に強くて大胆な骨、塊がリアフェンダーにグッと入っている。内側にそういうちゃんとしたストラクチャーがある、そういう構造を表しており、ただのゆらゆらした面ではなく、艶やかでありながらしっかりと見えるところをキーとしてデザインした」と語る。

緻密さはテクノロジーの表現に繋がる

フロントは、「インバース面がサイドに向かって非常に大胆に3次元的に捻れて流れていく。その動きで全体を表現している」と山崎さん。その面に、「新しい日産のVモーションシグネチャーを添えた。どうしてもシグネチャーはVの字などのグラフィックで語られがちだが、そうではなく立体がエモーショナルなところにグラフィックがさらに加わることによって、より象徴的で新しい顔が出来た」と述べる。

さらにシールドについては、「『リーフ』から発展しているが、日産ならではのクリスタルな表現で、組子を表しており、新しさと日産の顔をさらに強くアピールしているのがポイントだ」という。

アリアのフロントに配された組子細工はグラデーションを描いている。山崎さんによると、「そのパターンは高度に熟練した昔の職人からリスペクトしている。作り込みをとにかく精密なデザインで表現することによって、テクノロジー感にまで表現出来ると考えた。そこからEVらしさと、この組子のパターンは根本的に繋がっているのだ。こだわった精緻な作りをすること、イコールテクノロジーを表現出来るのだ」と述べる。

そしてVモーションはボディ形状ごとに変えていくという。「日産のVモーションをビルトインしていく時に、いかにボディとVモーションのグラフィックを関連させるかはひとつのチャレンジだ。ただ単に平面にグラフィックを乗せるだけではすでに表現としては時代遅れ。そういった意味でアリアは大胆な形とグラフィックが上手くマッチングして、クルマ全体、顔全体でVモーションを表現していることに上手くいった点だと思っている」と語った。

最後に山崎さんは、「このクルマをやるにあたっては結構全てが今までにない表現の集大成みたいな感じでチャレンジだった」と振り返る。「エンジニアなどといろいろやったが、みんな新しい日産を作るという気合が根底にあるので、オーダーを出してほとんどNOといわずにチャレンジしてくれた。純粋にデザインの話だけではなく、このクルマを作り上げた皆の努力の結晶がいい形にアウトプットに繋がった自信作だ」と述べた。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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