受け入れてもらえるかドキドキだった…ジープ ラングラー 新型[開発者インタビュー]

FCA USラングラー・モデル開発部門シニアマネージャーのジョン・アダムス氏
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  • ジープ・ラングラー
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日本においてジープブランドは好調だ。2018年は『ラングラー』が11年ぶりにフルモデルチェンジするなどで、話題にも事欠かない。そこで、なぜ日本市場が好調なのか、また、ラングラーのフルモデルチェンジでのポイントなどについて担当者に話を聞いた。

四角いデザインとマーケティング活動がヒットの理由

----:日本市場において2018年1月から11月まででジープブランドは1万311台と2017年同月間8989台と114.7%を記録(JAIA調べ)。またここ数年ラングラーはその4割を占めていると聞いています。そこで、なぜ日本でジープブランドは売れていると思いますか。

FCAジャパンマーケティング本部プロダクトマネージャーの渡邊由紀氏:色々な要因があります。ひとつはSUVセグメント自体がブームであるということが挙げられます。その中で流線型のSUVが多く出ていますが、ジープのような四角いクルマはほとんどありません。従ってブームの中で特に尖っているデザインをまとっていることがあるでしょう。

それからディーラーのネットワークもかなり増えてきていますし、2010年くらいに価格の見直しを行ったことも大きな要因です。これは日本車からの乗り換えを増やしたいということもありましたので、『グランドチェロキー』のエントリープライスを398万円からなどにより、現在では日本車から乗り換えは6割ぐらいになっています。

またマーケティング活動として毎月毎月新しい限定車を発表し、必ずディーラーフェアを開催するようにしていることなど、こうしたこと全てがうまく回ったことで結果になったと思います。

----:日本車からの乗り換えはどのあたりからなのですか。

渡邊:ラングラーではトヨタ『ランドクルーザープラド』からが多くなっています。

----:そうすると本格四駆でかつ少しラグジュアリー系というところが魅力なのでしょうか。

渡邊:そのようです。いきなり日本車からドイツ車などに行くにはかなりコストアップとなりますが、価格設定も輸入車と比べると日本車との間あたりに位置していますので、そこで一度は輸入車もとお考えのお客様としては、ちょうどいいポジションのようです。

----:そうすると流出も結構ありそうですが。

渡邊:比較的この中で留まっておられるようです。

ユーザーは若い層

----:ラングラーのユーザー層はどういう人たちなのでしょう。

渡邊:実はこのセグメントの平均年齢よりも10歳くらい若く、特にラングラーはジープブランドの中でも一番若くて平均が37歳くらい。一番上の『チェロキー』でも42歳くらいです。他のブランドでは49歳あたりですので、全体的に若い人たちが乗っています。

現行車はそれほど燃費も良くなく、安全装備もついていないので、ある意味時代と逆行していますが、若い方が四角いデザインからファッション感覚で乗る傾向があります。

----:アメリカではこの傾向はどうですか。

FCA USラングラー・モデル開発部門シニアマネージャーのジョン・アダムス氏(以下敬称略):アメリカではもう少し年齢層は高く、平均は45歳くらい。若い人たちは中古のラングラーを購入しています。30歳で新型を買うというのはかなり資金的にハードルが高いですからね。

4気筒投入は燃費を考慮して

----:今回のフルモデルチェンジで一番大事なことは何だったのでしょう。

アダムス:まず最大のポイントは、いまのラングラーオーナーの声に耳を傾けるということでした。彼らがまず一番何を気にしているかということを把握することです。

そういった声を踏まえながら、開発、投入したのですが、実はパワートレインに関して大きな不安もありました。現行車のファンである人たちが今回導入した4気筒エンジンにどんな反応をするのかということです。実際に4気筒ターボを搭載したクルマを市場に投入したのですが、結果からすると、大いに受け入れてもらえたと非常に喜んでいます。

----:アメリカではV型6気筒3.6リットルと直列4気筒2リットルターボの割合はどのくらいですか。

アダムス:2018年の状況では3.6リットルが6割ぐらいですが、2リットルも人気がありますので、おそらく今後はその占める割合が増えてくるでしょう。

----:なぜ今回2リットルを投入したのですか。

ジョン:それは燃費です。今回の2リットルエンジンでは、従来のV型6気筒に比べて20%向上しています。因みに日本の基準では53%向上しすることになりました。これは5速のオートマチックから8速に進化したことも影響しています。

ライフスタイルに合わせて改造できるように

----:先ほど、市場の声に耳を傾けたということでした。その時にユーザーからラングラーとしてここは守ってほしいというところがあったと思いますが、それは何だったのでしょう。

アダムス:まずはソリッドアクスルです。これが一番でした。その理由は、このユーザー達はもともとカスタム化することが大好きな人達です。自分達のライフスタイルに合わせてクルマを改造する人たちですから、そのためにはソリッドアクスルは必要なものだったのです。そのほかにも、ドアやフロントウィンドウ、ルーフなどが全部取り外せることもありました。これがあるからこそのジープで、これは絶対にやめないでほしいということでした。

後は走破性を含む性能です。多分購入する人のうちの90%はこのポテンシャルを100%使い切る人はいないでしょう。しかしそういったことができるクルマであるというイメージが最も大事なのです。例えば四駆に入れることがないまま終わる人もいるかもしれません。しかしあくまでもそのイメージは必要なのです。

----:そういったところを11年分進化させ、かつ新型では必ずやり遂げなければいけないことがプライオリティとして上がりました。その中で今回のラングラーで市場の声を踏まえて一番やらなければいけなかったことは何だったのですか。

アダムス:性能をもっとアップしてほしい、もうちょっとパワーが欲しい、燃費性能もよくしてほしい、セーフティ装備がもっと欲しい、テクノロジー系を備えたインパネのあたりもよくしてほしいし、品質も信頼性も全部アップしてほしい。そして最後にこれを軽量化しながら達成するということです。お客様にとって重量はどうでもいいことですが、燃費をよくするためには軽量化も重要なのです。

成功するのかどうか

----:今回、ラングラーをフルモデルチェンジするという指示が会社から出た時にアダムスさんはどう思いましたか。

アダムス:今回のモデルチェンジにあたりユーザー調査を始めていた時の話です。アメリカの本部から50マイルくらいのところにあるレストランにグループ一同が介したことがありました。そこでボスから、「よしみんな一列に並べ。君達の中で今回の新型ラングラーで失敗すると思う奴、成功が納められないと思う奴は一歩前に出ろ」といわれた時、全員一歩前に出たのです(笑)。

実はこのプロジェクトに入る前に別のプロジェクトをやっていたのですが、その商品変更に対して市場のお客様からネガティブな反応が返ってきたことがあったのです。つまりその変更でお客様が満足してくれなかった。これは独立型のフロントサスペンションに変更したことが大きな要因でした。そういう経験があったので、今回も何か少しでも変えることによってラングラーのお客様に迷惑をかけてしまうのが怖かったのです。

私はサスペンションエンジニアですが、エンジニアとして「キャンプ・ジープ」に参加しました。そこで技術的なラウンドテーブルでお客様をお呼びしたのですが、非常に若い女性のチェロキーユーザーに、まさに怒鳴られたのです。「なぜソリッドアクスルを変えたのか!」と、ものすごい情熱と怒りを込めて、とても感情的な怒り方をされました。

----:そうすると今回のフルモデルチェンジではかなりドキドキしながら進めたのですね。

アダムス:そうです、本当にドキドキしながら開発しました(笑)。

“ジープウェイブ”というジープやラングラーのオーナー同士がすれ違う時に手を振りあうことがあります。今回新型を出して、旧型のファンやこれまでのラングラーファンが受け入れないものだったら、新型のオーナーに対してこれをやらなくなるのではないかという大きな不安がありました。しかし、いまとなっては、それは杞憂に終わったようです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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