【ダイハツ ムーヴキャンバス 400km試乗】“可愛いからいいのだ”で押し通せる…井元康一郎

試乗記 国産車
ムーヴキャンバス。VWタイプ2を彷彿とさせる2色塗りが可愛かった。
  • ムーヴキャンバス。VWタイプ2を彷彿とさせる2色塗りが可愛かった。
  • 明るいインパネ。ダッシュボード上面は黒いためウインドウへの映りこみは少ない。
  • 銀/白の2トーンカラーのホイールキャップ。タイヤはダンロップ「エナセーブ」。
  • キャビン上部をぐるりと囲むグラスエリア。
  • ムーヴキャンバス。基本的にはスクエアなフォルム。
  • 高速巡航のスタビリティは意外に高かった。
  • スーパーハイトワゴンより狭いとはいえ、後席はだだっ広いと言えるレベル。
  • 左右独立シートスライドが備わる。前に寄せても足元空間には十分な余裕が。

ダイハツ工業の軽トールワゴン『ムーヴキャンバス』で北関東を400kmほどドライブする機会があったので、ロードインプレッションをお届けする。

ムーヴキャンバスは同社のトールワゴン『ムーヴ』の変種。原型の持っているイカツさを排したコロッとしたファニー系デザインのエクステリアデザインと、シンプルカジュアルなインテリアによってイメチェンを図っている。特徴的なのは最安グレード以外の全てに設定された、フォルクスワーゲンの往年の名車『タイプ2』クラインバスを髣髴とさせる2トーンのボディカラーで、街中でもこの2トーンでないムーヴキャンバスは滅多に見ないというくらいの人気デコレーションとなっている。4WD(AWD:4輪駆動)と2WD(FWD:前輪駆動)が選べるがターボエンジンはラインナップされず、自然吸気のみというシンプルなラインナップだ。

試乗車は最上級グレードの「G “メイクアップ SAIII” 2WD」。シルバーリングつきのロードランプ、LED可動ヘッドランプ、高熱線吸収ガラス、花粉除去エアフィルターなど装備は豊富。さらにカーナビ&オーディオ、シルバー/ホワイトのホイールキャップなどのメーカーオプションもつけられていた。

ドライブコースは東京・高島平を出発し、北関東の栃木、茨城などを周遊して起点に戻るというもので、総走行距離は400.5km。おおまかな道路種別は市街地3、郊外路5、高速道路1、山岳路1。路面コンディションはドライ7、ウェット3。1~2名乗車、エアコンAUTO。

試乗を通じて得られたムーヴキャンバスの長所と短所の概要は次のとおり。

■長所
1. 2トーンカラーが可愛いレトロモダンな外観
2. 気分が上がる“ネアカ”なインテリア
3. びっくりするほではないが十分に満足の行く燃費
4. 十分に広く、アレンジしやすい室内
5. 軽自動車なのに可動ヘッドランプ装備で安心な夜間走行

■短所
1. 滑らかさに欠ける乗り心地
2. 低い操縦安定性
3. 低い動力性能
4. 室内への騒音侵入が大きめ
5. 長時間ドライブにはあまり向かないシート

◆デザインがもたらすウキウキ感

まずは総評から。ムーヴキャンバスは基本的に子供の送り迎えやお買い物など、タウンライドを主目的としたクルマだが、それを駆っての400kmという“プチ遠乗り”は、とても楽しいものであった。

楽しいと感じた要因はひとえに内外装のレトロモダンなデザインによる気分アゲアゲ効果。フォルクスワーゲン・タイプ2似の2トーンカラー、ファニーながら崩れのないマスク、明るいインテリアなど、仕立ては登場当初から結構目を引くもので、市場でもスライドドアの採用とあいまって、オリジナルのムーヴより販売台数が多いくらいの人気車になった。

実際に乗ってみると、デザイン性の良さがもたらす“うきうき感”は予想以上のものがあった。ドライブしているときはステンレス製のタンクローリーの後ろにつけたりといったことでもないかぎり自車のエクステリアは見えないものだが、シックな内装が目に入るだけで可愛いクルマを転がしているという気分になれる。ドライブ途中、レストランで食事をしたりなどして駐車場に戻ったときも、ゆるキャラ的なクルマがお出迎えしてくれると気分が和む。小さいクルマではとくに強く求められる愛嬌、親しみやすさについては抜群のものがあるように感じられた。

ハードウェア的には決して遠乗り向きではない。乗り心地は決していいほうではなく、ヒョコヒョコ感がつきまとった。シートはホールド性、座面およびシートバックの支持力ともに不足していた。ハンドリングは高速での直進性は良好なもののコントローラブルというレベルからはほど遠く、ワインディングロードでのアジリティ(敏捷性)はライバルと比較しても低かった。ターボエンジンを持たないため動力性能も900kgを超える重量の車体を転がす以上のものはない。

が、今回のドライブではそれらはほとんどネガには感じられなかった。そもそも400km程度のツーリングの場合、クルマのハードウェアの良し悪しなどほとんど関係ない。疲れたら休めばいいし、シャシーの性能不足が足を引っ張るような状況のときにはのんびり走ればいいだけのことだ。

後席左右独立スライドをはじめシートアレンジは豊富だし、オプションとして用意されているレトロ調のルーフキャリアをつければ荷物の積載性はさらに向上するであろうしと、行楽車としての実用性の高さは十分。ライトなツーリングであれば利便性と“可愛いから許す”の2点で余裕で押し通せるクルマだと思った。

◆意外にも?高速クルーズが得意

では、機能別にもう少し細かく見ていこう。ボディ、シャシー性能は操縦安定性、乗り心地の両面で、シティコミュータの域を出ない。苦手なのは山岳路で、筑波山のワインディングロードなどでは大して飛ばしていなくてもハンドル操作と身体に伝わるロール角のインフォメーションがバラバラな感じでまとまりがなく、千鳥足の感あり。郊外路でのフィールも凡庸。ただ、Cd値0.30のオリジナルのムーヴよりさらに良好という空力特性が好作用しているのか、常磐自動車道を100km/h巡航したときは直進性の良さが印象に残った。

乗り心地は全般的に荒い。アンジュレーション通過時は揺すられ感、路面のギャップを拾ったときには突き上げ感がそれぞれ強め。軽自動車はもともとサスペンションストロークが小さく、重量の大きなモデルの乗り心地をよくするのは難しいのだが、ホンダ『N-BOXスラッシュ』、スズキ『ワゴンR』、三菱『eKワゴン』/日産『デイズ』など軽トールワゴンのライバルに比べて落ちるのは言い訳が立たない。ほんのちょっとしたチューニングのスイートスポットの問題であろうから、ぜひ改良してほしいところだ。ちなみに乗り心地の点でも最も良好なのは高速クルーズであった。

次にパワートレイン。搭載される658cc直列3気筒DOHCエンジンのスペックは52ps/60Nm(6.1kgm)。試乗車の車両重量920kgに対するパワーウェイトレシオは17.7kg/psと悲惨な数値だが、それでも3000rpm弱の回転数で100km/hクルーズをこなせるのだから、十分と言えば十分だ。ホンダほどではないがCVT(無段変速機)の変速レスポンスも昔に比べるとはるかに上がっており、高速域や登り急勾配でなければ最低限の追い越し加速力もちゃんとある。それで足りないシーンでは、のんびり走ればよいのだ。

ツーリング燃費は良好。燃費計測区間332.1kmを走り、給油量は14.67リットル。すり切り満タン法による実燃費は22.6km/リットル。燃費計値は22.8km/リットルで、誤差は僅少だった。同じ軽の自然吸気トールワゴンではホンダN-BOXスラッシュでもロングツーリングをやってみたことがあり、それと比べると1割ほど低い。が、基本的にリッター20kmを超えていれば燃料代の財布への影響はかなり軽いので、目くじらを立てるほどの差ではなかろう。

◆使い勝手はムーヴキャンバスのハイライト

車内の使い勝手はすこぶる良く、デザインと並ぶムーヴキャンバスのハイライトと言える。さすがにスーパーハイトワゴン『タント』と比較すると全高が低いぶんスペース効率で後れを取るが、絶対的には十分すぎるくらい広い。リアシートには左右独立スライド機構があり、乗車人数と荷物の量に合わせてざまざまなアレンジが可能。とくに一人っ子家族であれば、結構な量の道具を積んでの行楽も楽勝であろう。

内装は明るい雰囲気。造形的にはクラシカルというわけではないのだが、アイボリーの調色が結構絶妙で、そこそこお洒落に見える。オーディオ部やドア内張りなど随所にボディ同色の加飾パーツが配されていたが、その控えめな差し色の入れ方もなかなか良いものだった。

シートは座面、背もたれの身体の支持性があまり良いほうではなく、横Gがかかったときのホールド性も低い。ムーブキャンバスはもともと近距離メインであるし、メーカー問わず、ミニバンを作るときはホールド性より利便性重視で上半身をある程度フリーに動かせるよう設計する傾向があるので、これは致し方のない部分もある。室内騒音がやや過大なのもマイナスポイントだ。

ムーヴキャンバスの場合、可愛らしく、のんびりとしたキャラがそのネガをある程度帳消しにしてくれるように感じられたのは面白いところ。疲れたら休めばいい、面白そうなところにちょくちょく寄り道すれば、それもいい休憩になる…というノリのドライブスタイルを取りたくなる。可愛いってトクだなと思った次第だった。

先進安全システムは「スマートアシストIII」というステレオカメラ方式の装置。衝突軽減・回避ブレーキが歩行者、自転車にも対応したという。その機能が試されるようなシーンはなかったが、安心感は増したと言える。車線逸脱警報、先行車発進お知らせなどの各機能は有効に作用した。ただし、ステレオカメラだからといってスバルの「アイサイト」のように前車追従クルーズコントロールのような便利機能があるわけではない。あくまで安全に焦点を絞った仕様であった。

ヘッドランプは最上級グレードだけに装備されるステアリング操作に合わせて配光特性を変化させるアダプティブ機能つきのLEDタイプ。また、ハイ/ロー自動切換え機能も実装されていた。動作はおおむね的確。闇夜の田舎道ではヘッドランプの性能によってストレスに大きな差が出るが、ムーヴキャンバスのLEDヘッドランプは軽自動車としては結構イケているほうであった。

◆少々足りないところがあっても

まとめに入る。総論で述べたように、ムーヴキャンバスは仕様的には中長距離ドライブにあまり向いていないもののの、少々足りないところがあっても“可愛いからいいのだ”で押し通せそうなクルマだった。しかも、単に装飾過剰で可愛くなっているのではなく、シックに仕立てられているので、飽きそうな感じがあまりない。加えて実用性、経済性も十分に高いなど、よく出来ている部分も多々あり、使い倒しにもいいように思われた。

日本自動車工業会のユーザー調査によれば、乗用車を保有する人の平均的な月間走行距離は400kmを切っているそうだ。今回のようにちょっと北関東を周遊するだけで400kmくらいはすぐに行くことを考えると、多くのユーザーは月に一度もそういうお出かけをしていないことは容易に想像がつく。平均走行距離の短い軽自動車ならなおさらで、ムーヴキャンバスももっぱら子供の送り迎えやお買い物に使われていることだろう。

だが、せっかくクルマがあるのなら、たまには休日にそれでどこかにお出かけしてみてほしいところ。可愛らしいクルマに荷物を積めるだけ積んでトコトコと遠出をするのは楽しいことだし、ライフスタイルとしても結構イケている。ムーヴキャンバスはそういう“遊び”を感じさせるという点で、なかなか好感の持てるクルマであった。

ライバルは軽自動車のトールワゴン、スーパーハイトワゴン全般。ムーヴキャンバスは全高はワゴンRなどが属するトールワゴンクラスの1655mmであるが、スライドドアを装備しているという点はN-BOXなどスーパーハイトワゴンと同様という独自のポジショニングにいるため、各モデルとの競合はあまり強くないであろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集