【インタビュー】i-MMDと大容量バッテリーが生む走りの新次元…ホンダ アコードプラグインハイブリッド 開発者

エコカー EV
本田技術研究所 四輪R&Dセンター 主任研究員 二宮亘治氏
  • 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 主任研究員 二宮亘治氏
  • 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 主任研究員 仁木学氏
  • ホンダ アコード プラグインハイブリッド
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昨年12月、日本市場で一般カスタマー向けの限定リース販売が開始されたホンダ『アコードプラグインハイブリッド(プラグインハイブリッド)』。

外部電源からの充電が可能な大容量バッテリーを搭載し、JC08モード走行時で37.6kmをEV走行可能という新世代のエコカーである。開発を担当した本田技術研究所 四輪R&Dセンターの主任研究員、二宮亘治氏と仁木学氏に、その成り立ちや魅力をきいた。

◆ノーマルハイブリッドとの走りの違いは、車重や重量配分などの諸元が変わったため

----:昨年、アコードハイブリッド発売後に行ったマスメディア向けの試乗会に、アコードプラグインハイブリッドも持ち込まれていました。2モーターハイブリッド「i-MMD」自体は共通なので、走り味も似たようなものではないかと考えていましたが、実際に運転してみると両者の間にかなりの違いがあるのが印象的でした。

二宮:アコードプラグインハイブリッドとアコードハイブリッドは技術的には共通性が高いのですが、バッテリーの出力、車両重量や前後の重量配分など、クルマの動きを左右する諸元が大きく異なっています。プラグインハイブリッドの重量はノーマルハイブリッドに対して約100kgの増加で、走り味を一言で表せば、重厚なプラグインハイブリッド、軽快なノーマルハイブリッドといった感じでしょうか。ただ、プラグインハイブリッドの重量が大きいからといって、1.7トン台の車重がマイナスに感じられるような重々しいフィーリングにはしたくなかった。あくまでホンダらしい、スポーティな走り味を目指しました。

----:たしかにワインディングロードを走っている時など、旧型北米アコードをベースとした『インスパイア』の3.5リットルV6と比較しても、回頭性はかなり軽快なイメージでした。2リットル直4と2モーターの組み合わせはV6と5速ATに比べてシステムとして軽いのでしょうか。

二宮:いえ、フロント重量はハイブリッドのほうが 気持ち軽いという程度で、大きくは変わりません。むしろボディ後方に大型バッテリーを積んだことによる重量配分の変化のほうが効いているのだと思います。

----:ノーマルハイブリッドと比べてどのくらい違うのでしょうか。

二宮:ノーマルがおよそ前60:後40であるのに対して、プラグインハイブリッドは55:45くらいです。

◆バッテリーパックの大型化がもたらした走りのメリット

----:フロントが55%というのは、FWD(前輪駆動)モデルとしてはかなり後ろ寄りの重量配分ですね。重量が1740kgと、決して軽量ではないはずなんですが、加速感自体は軽快でした。また、加速時にEV走行からハイブリッド走行に切り替わるスロットル開度がノーマルハイブリッドに比べてかなり深い。

仁木:バッテリーパックの大型化は、EV走行の航続距離を稼ぐためだけでなく、出力の増強にも寄与していますからね。ノーマルハイブリッドは瞬間出力が50kWほどですが、プラグインハイブリッドは70kWくらい出ます。踏み続けていると出力は定格に向けて下がっていきますが、5秒間の加速でも45から50kWくらいの出力は維持されます。

----:多少アップダウンがあっても100km/h巡航は余裕でこなせる出力ですね。実際にはどのくらいの加速度までEV走行できるのでしょうか。

仁木:首都高速のように合流区間が短いポイントでは、状況によってはエンジンがかかってしまう可能性もありますが、普通の高速道路の走行車線への流入はモーターだけでも十分に行けると思います。具体的には加速度0.15Gくらいだったら100km/hまでエンジンを使わずに加速可能です。

◆安全性に最大限配慮したリチウムイオンセル

----:EVモード時は大きなアドバンテージがあるようですが、充電量が減ってハイブリッドモードに切り替わったら、ノーマルハイブリッドと同じになりますか。

二宮:いえ、バッテリー出力が大きいので、ハイブリッドモード時もエンジン発電によって電力を補う必要が生じるポイントはノーマルハイブリッドより上です。

----:なるほど。アコードプラグインハイブリッドのバッテリーパックはノーマルハイブリッドの1.3kWhに対して6.7kWhと、5倍強の容量ですね。ノーマルはニッケル、マンガン、コバルトの3元素を正極材料に用いたリチウムイオンセルだそうですが、プラグインハイブリッドも技術面では同じなのでしょうか。

仁木:いえ、プラグインハイブリッドのバッテリーの正極材料はリン酸鉄系です。

----:リン酸鉄系と言えば、構造が強固なオリビン型ということで知られていますね。やはり耐久性のためですか。

仁木:もちろんそれもありますが、第一の目的は安全性の徹底強化ですね。ノーマルに比べて格段に大きな電気エネルギーを搭載するわけですから、損傷時の熱暴走をはじめ、あらゆるトラブルを想定し、その防止にとくに気を配りました。

◆エネルギーマネジメントをドライバーが主体的に行える機能も

----:ほか、ノーマルハイブリッドと異なる点としてはどのようなことがありますか。

二宮:単にEVとしても使えるハイブリッドというだけでは、プラグインハイブリッドとしてはセールスポイントに乏しい。そこで、エネルギーマネジメントをドライバーが主体的に行えるような機能を付加しました。たとえばEVとハイブリッドの使い分け。EV走行のメリットは高速道路より市街地のほうが格段に大きいので、高速道路でバッテリーのパワーを維持・回復させて、市街地ではEV走行をさせることも可能です。

----:回復ということは、高速で余分に発電して、その電力を市街地で使うのですか?

二宮:そうです。ハイブリッドモードに切り替える「HV」ボタンを長押しすると、バッテリーの電力量を回復させるチャージモードになり、エンジンパワーで充電することができます。

----:その機能には気づきませんでした。

二宮:あと、カーナビゲーションシステムのインターナビのルートガイダンスとエネルギーマネジメントも連動させているんですよ。高速ではハイブリッドで走り、市街地ではEVで走るといった選択をクルマが自動的にやるんです。また、あと数kmで目的地というときにバッテリー残があれば、目的地付近でちょうど残りを使い切るよう、EV走行で走り切るとか。

---- せっかく外部電源から充電した電力を残してしまうのはもったいないというわけですね。ところで春になった今は暖房の必要性が減ってきていますが、EVにとって真冬の暖房は無視できないエネルギーロスの要素です。熱源をエンジンの冷却液から取るのは、EV走行だけですむような距離を走る場合、とてももったいない。かといって、電気ヒーターはエネルギーを食ってしまう。

二宮:アコードプラグインハイブリッドの場合、水加熱ヒーターを装備しています。冷却液の温度が低い時には電気から熱を取り、冷却液が高温の時にはそこから熱を取るというハイブリッドタイプです。

----:電気で水を温めるのですか。それでパワーは足りるのですか?

仁木:大丈夫ですよ。マイナス10度までは電気ヒーターだけで車内を快適に保てます。それよりも気温が下回る状況ですとエンジンもかけて電気ヒーターと併用します。開発中、カナダのトンプソンという街で真冬にドライブしたのですが、水加熱ヒーターとエンジン熱のお陰でスタート時から快適でした。ちなみに一番温度が低かった日はマイナス39度でしたが、それでも十分でしたね。

◆“世界最高効率”を目指した相乗効果

----:燃費といえば、JC08モード走行時で29km/リットルという数値は、ノーマルハイブリッドに対して1km/リットルのビハインドですが。

二宮:大型バッテリーを搭載したことによる重量増の影響は避けがたいものですが、日常におけるEV走行を加味したプラグインハイブリッド燃費の審査値は70.4km/リットル。使い方によってはほとんどガソリンを使わないですむと思います。

----:編集部でテストドライブを行った時は、フル充電状態でなかったにもかかわらず25kmほどEV走行できたそうです。もともと充電1kWあたりの走行距離はかなり優秀なものになっていますが。

仁木:9.26km/1kWhという数値は、アコードプラグインハイブリッドよりもずっと重量が軽い純EVも含め、量産電動車の中ではトップランナーの数字。もともとアコードハイブリッドのi-MMDを設計するさい、世界最高効率を合言葉にモーター、パワーコントロールユニットなどあらゆる部分について熱損失を極限まで減らそうというポリシーを徹底させた。それがいい形で表れたと思っています。ハイブリッド、プラグインハイブリッド、さらには発電機を取り除いてEV、燃料電池車と、電動化技術を使ったクルマ作りに広く使えるシステムで、今後が楽しみなところでもありますね。

----:アコードプラグインハイブリッドをどういうユーザーにドライブしてほしいですか。

二宮:やはり、先端技術への関心が高いお客様にぜひ乗っていただきたいと思っています。われわれホンダにとって、石油由来でないエネルギーを電力として取り入れることができる“脱石油”モデルの一般カスタマー向け第1号車ですからね。それでいて、走りを我慢するようなこともなく、ホンダのスポーツサルーンとして十分に楽しんでいただける性能も持たせることができたという自負もありますし、ぜひ機会を見てテストドライブしていただきたいと思うところです。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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