【池原照雄の単眼複眼】ホンダ、国内100万台にHVリコールの試練

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  • ホンダ 伊東孝紳社長(ホンダ ヴェゼル 発表会)

空前の受注抱え、消費税増税前の繁忙期に

ホンダが『フィット』および『ヴェゼル』のハイブリッド車(HV)で難儀している。主として変速機制御プログラムの不具合で、2月までに3度のリコールを行った。軽自動車を含む新モデルの好調で国内では空前ともいえる受注を抱え、かつ消費税引き上げ前なので販売店も含め対応に忙殺されている。ホンダは今年、国内販売を初めて100万台に乗せたい方針だが、大台到達はこの試練を越えてからとなる。

リコールの対象台数はフィットが7万台強、ヴェゼルが約1万台。販売済みの顧客には制御プログラムの交換や、場合によっては部品交換も行う。工場(埼玉・寄居工場と三重・鈴鹿製作所)からの出荷、および販売店からの新車引き渡しは今週27日に再開の予定。2月10日のリコール発表から2週間余り滞留した。消費税引き上げ前の3月中の納車ができなくなるケースは「まだ把握できない状況」(ホンダ広報部)だが、かなりの数になるのだろう。

リコールにもフィット人気は陰らないだろう

変速機の制御プログラムの不具合対策は、新型フィット発売直後の昨年10月以降、今度で3回目となった。10日のリコール発表文で同社は「対策内容の確からしさの検証が不十分であったことは否めない」として、顧客に陳謝した。高い受注ペースに応えることや消費税引き上げを控え、急ぎ過ぎたということだろうか。と同時に、独シェフラーから調達しているこの「デュアル・クラッチ・トランスミッション」(DCT)という変速機を使ったHVシステムは世界でも初めてなので、チャレンジングなのだろうと感じる。

かと言って、もちろん不具合を連発していいわけではない。昨年7月にフィットHVのプロトタイプに試乗した時、走りや静粛性、燃費といった総合的な性能に「ホンダのHVは大きく進化した」と思った。伊東孝紳社長は就任2年目の10年夏に、ホンダの今後10年の指針として、「良いものを早く、安く、低炭素でお客様にお届けする」というフレーズを掲げた。新型のフィットシリーズこそが、4輪部門ではこの指針を最初に「具現化した」との実感だった。だから、現下のリコール問題でフィット人気が揺らぐとは思えない。

自前主義に拘泥せず開発のスピードを重視

このフレーズで伊東社長が、第1に「良いものを早く」と訴えたのは、リーマン・ショックを経た当時のホンダにもっとも欠けていたのが「スピード」だと認識したからにほかならない。その後は、軽自動車のテコ入れとシェア奪還、『アコードHV』を含む新HVシリーズの展開など、スピード感あふれる巻き返しになってきた。

いま問題となっているフィットHVやヴェゼルHV用のDCTは「ホンダの自前品ではないから、そんなことになる」という批判も成り立つだろう。だが、DCTの自社開発を待っていたのでは、HVでの新たな挑戦は完全に後手に回っていた。ホンダは現在、世界でも前例のない8速タイプのDCTを自社開発中であり、この技術も近々「手の内」のものとしていく構えだ。

クルマはマイクロコンピューターを多用した制御のかたまりとなってきたが、HVはさらに複雑なシステム制御が加わる。制御ソフトの不具合は、商品化直後だけでなく、2月にリコールしたトヨタ『プリウス』のように経年で表面化するケースもある。それでも製品安全の最優先を担保したうえで、スピード感をもって新技術に挑戦しなければ、日本メーカーのHVのアドバンテージもおぼつかなくなる。

《池原照雄》

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