これまでオフィシャルタイヤサプライヤーを務めてきたブリヂストンに換わり、2011年からは全F1チームにタイヤを供給することになったピレリ。彼らは、F1タイヤの生産拠点となるトルコ・イズミット工場に一部メディアを招いて、F1プロジェクトの全貌を明らかにした。
ここでは、個別インタビューに応えてくれたピレリタイヤのフランチェスコ・ゴリCEOの言葉から、彼らの意図とこれまでの道のりをたどってみることにしよう。
----:これまでピレリがオフィシャルサプライヤーを務めてきた世界ラリー選手権(WRC)とF1では、顧客層にどのような違いがあるとお考えですか?
ゴリCEO:まったく異なります。まず、ラリーに使われる車両は市販車に近いものです。また、ラリーに関心をもっているのはモータースポーツファンが中心となります。いっぽうのF1は世界中でたくさんの人たちが関心をもっています。ヨーロッパが中心のF1とは大きく異なります。
----:そうした違いがあるF1に参入しようと思ったのは、なぜですか?
ゴリCEO:現在、F1の人気は中国、インド、ロシアといった国々で上昇しています。自動車産業にとっては、どちらかといえば新しい市場です。こうした市場にピレリが参入することは非常に大切です。彼らにピレリが優秀なタイヤであることを知ってもらいたいと願っています。
----:ブリヂストンは1年前の段階でF1からの撤退を発表しましたが、これはピレリにとって都合のいいタイミングでしたか?
ゴリCEO:率直にいって、彼らが発表した段階では、我々はF1への参入は考えていませんでした。なぜなら、当時はまだ経済危機のまっただなかで、会社として支出を増やす訳にはいかなかったのです。そもそも我々は、F1はお金がかかりすぎると考えていました。ところが、その後、世界経済が持ち直し、我々の業績も回復しました。F1チームがタイヤのコストを一部負担すると言い出したことも、我々の判断に影響を及ぼしました。つまり、1年前とはだいぶ状況が異なったのです。そこで、我々はF1参入を真剣に考えるようになりました。
----:オフィシャルサプライヤーがピレリに決まるまでの過程では、ピレリ以外のタイヤメーカーも候補に挙がったと聞いています。最終的にピレリが選ばれた理由は、何だったのでしょうか?
ゴリCEO:最大の理由は、我々が2010年ルールを今後も維持すると約束したことでしょう。F1チームにとっては、タイヤサプライヤーが日本の企業からイタリアの企業に変わるだけでも一大事です。このうえルールまで変更したら、それはやり過ぎというものでしょう。そこで我々は現行ルールを維持すると約束したのです。
いっぽう、フランスのコンペティター(ミシュランのことを指す)は、ルールの変更を唱えていました。これはF1チームにとって重大な問題でした。少なくとも、心理的には大きな影響を及ぼしたことでしょう。この結果、投票では6チームがピレリに賛成し、残る6チームはフランスのコンペティターに賛成しました。彼らのタイヤを使っていたことのあるチームは、以前のサプライヤーが戻ってくる方が自分たちには有利と考えたのでしょう。いっぽうで、F1に新規参入したチームは、我々がタイヤを供給したほうがフェアな状況になると考えたようです。なにしろF1は競争ですから、敵に塩を贈るような真似はできません。
最終的にFIAはピレリを選びましたが、私自身はFOTA(Formula One Teams Association=F1チーム協会)の会議に出席していませんので、これらはあくまでも人から聞いた話です。
----:同じイタリア企業ということで、ピレリとフェラーリが特別な関係にあるのではないかと疑っているチームもあるようですが。
ゴリCEO:ノー、ノー、ノー。まったくそんなことはありません。我々とフェラーリの間に特別な関係は存在しません。フェラーリは、誰にとっても特別な存在なのです。
----:ピレリがタイヤを供給することで、F1は変わるでしょうか?
ゴリCEO:我々はF1をよりエキサイティングなものにしたいと思っています。それは簡単なことではありませんが、よりチャレンジングなレースにしなければいけないことは誰もが感じています。
いまのF1の最大の問題点は、あまりオーバーテイクができないことにあります。そこで順位が入れ替わりやすくなるようにするため、現在はピットストップが導入されている。いずれにしても、F1をよりエキサイティングなものとするには、タイヤが非常に重要な役割を果たします。きっと、我々のエンジニアは頭痛に悩まされることになるでしょう。しかし、私は来年、エキサイティングなシーンが繰り広げられると期待しています。そして、将来的にはF1がショーとしても楽しめるような演出を施していくつもりです。これらは、おそらく来シーズンの始めから実現できると考えています」