【ソフトバンク『カーナビプラン』インタビュー】新しいマーケットのため、価格ありきで考えた

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ソフトバンクモバイル 技術管理本部テレマティクス事業推進部テレマティクス推進課課長の佐上清司氏
  • ソフトバンクモバイル 技術管理本部テレマティクス事業推進部テレマティクス推進課課長の佐上清司氏
  • ソフトバンクモバイル 技術管理本部テレマティクス事業推進部テレマティクス推進課の村松佑樹氏
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2010年は“テレマティクス本格化の年”

2010年の前半は特にテレマティクス関連のビッグニュースが相次いだ。2月、ホンダが『CR-Z』発売に合わせてインターナビ『リンクアップフリー』をスタート。また6月には、ナビタイムジャパンが、通信モジュール内蔵PND(WND)の『カーナビタイム』を発表している。

思えばこれら今年のビッグニュースの前兆は昨年10月に発表されていた。幕張メッセで開催された国際自動車通信技術展(ATTT)で、ソフトバンクモバイルが2010年から210円の「カーナビプラン」をスタートするというアナウンスをおこなったのだ。他のキャリアからは「信じられない」というコメントが発せられるほどの思い切った価格設定のプランだ。

「カーナビプラン」とは、「パケットし放題」などパケット定額プランに加入していれば、210円のサービス料金で、トヨタ・ホンダ・日産3社の純正カーナビを利用したBluetooth通信のパケット代についても使い放題になるというものだ(G-BOOKについてはダイハツ車、カーウイングスについてはスズキ車でも利用可)。対応ナビは、メーカーオプションのみならずディーラーオプション品でも豊富に用意されている。

カーナビプランの導入により低価格・定額のBluetooth通信が実現し、いよいよカーナビの通信利用が本格化しテレマティクス時代の到来を予感させる。今回、カーナビプランを手がけた技術管理本部テレマティクス事業推進部テレマティクス推進課課長の佐上清司氏と、同課の村松佑樹氏に導入の経緯と狙いについて話を聞いた。

◆まずは通信料を下げること

佐上氏は、カーナビプラン導入の意図として「これを機にカーナビの通信機能を積極的に使っていただき、通信カーナビを活性化したい、という思いで提供を開始した」と語る。

振り返ってみれば、2002年のトヨタ「G-BOOK」登場からホンダの「インターナビ・プレミアムクラブ」、そして日産の「カーウイングス」といったメーカー純正サービスが相次いでスタートし、“テレマティクス”という言葉が現実味を帯びてきた。しかし、その後カーナビの通信利用は伸び悩んだというのが実情だろう。モジュール内蔵型や有線・無線による携帯電話接続型など通信をおこなうためのバリーションはいくつかあったが、いずれも通信料金がネックになっており、Bluetooth対応ケータイが増えた2006年以降も本格的な普及には至っていない。

「当社は、前身のVodafone時代からキャリアのなかでも早くから多くの端末にBluetoothを提供してきました」(佐上氏)。端末側のBluetooth普及が行き届けば、次の課題は“いかに使ってもらうか”ということになる。

「そこに通信対応カーナビとBluetooth対応ケータイがあります。カーナビは通信で飛躍的に価値が増すはず。ですがこれを推進したいと思っても、通信料が障壁になっていたことは事実です」と佐上氏は語る。

「そこで自動車メーカー、ユーザー双方からBluetoothの利用についていろいろな意見をいただきました。その結果、キャリアとして協力できるのは、まずは通信料をパケットの定額対象にするという結論になりました」(村松氏)。

◆旗振り役がいないと前に進まない

カーナビのヘビーユーザーなら、通信の実用利便性がいかに重要かは分かるだろう。だが、ニュースや天気情報の入手、渋滞情報の取得、そして更新地図のダウンロードと、これらのパケット量は相当なものになる。使い放題で月額210円という料金設定は、かなり思い切った決断と言える。この額は、どのように決まったのか。

佐上氏は「お客様に使っていただくということがまずありきの価格設定にしました」と語る。とはいっても、カーナビプランは、ビジネス的視点を欠いて盲目的に決めたものではない。

「当社の宮川潤一(取締役専務執行役員兼CTO)がよく言うのですが、『旗振り役がいないと前に進まない』。ビジネス的に見れば、モジュールやった方が儲かると思います。だがそれでは通信カーナビは普及していかない。安く提供して広げることができれば、そのつぎにアプリケーションやサービスのレイヤーが広がる。つまりマーケットができるのです」(村松氏)

同グループのソフトバンクテレコムはパイオニアやインクリメントPなどと共に、2008年に「ナビポータル」を設立し、前出のCTO宮川氏が代表取締役となってコンテンツやサービスのレイヤーで事業を広げている。「カーナビプランと通信モジュールが両輪となって通信カーナビの市場をつくるのだと考えています」(村松氏)

◆地図更新もOK、パケット量は気にしない

なおカーナビプランでは、日産カーウイングス利用時の地図ダウンロードなど一部のコンテンツを利用する際の通信は定額の範囲外になっている。また、G-BOOKアルファは当社で既に停波した2Gのみの対応のため、カーナビプランが利用できるのはG-BOOK mX端末のみ。佐上氏は「こうした制限は210円という価格を維持するためではありません。サーバーなどネットワークの仕組み上、こうした制限をせざるをえませんした」と説明する。

「地図更新はパケット量が多いからNGなどの発想はありません。逆に、定額制を生かした新しい通信ナビのサービスが増えることを期待しています」(村松氏)

「パケット定額サービスの加入率は年々上昇していまして、新規のお客様のうちのほとんどは、何らかの定額プランに入っています」(佐上氏)。なお、日本で発売されているiPhoneではBluetoothのDUNプロトコルが利用できないので、カーナビプランは利用できないという。「ソフトバンクのiPhoneがDUNに対応すれば、カーナビプランも使えるようになると思います」(佐上氏)

カーナビプランを利用するには、月額390円からスタートする「パケットし放題S」に加入しており、S!メールの送受信、ウェブやPCサイトブラウザを利用するために必要な「S!ベーシックパック」(月額315円)を契約していることが最低条件。6月30日までは月額費用が無料になるキャンペーンを実施中だ。

◆市販ナビメーカーにも門戸は開かれている

月額210円でナビの通信が使い放題にになるのは確かに画期的だが、問題は現状の定額対象が3社の純正ナビに限定されている点だ。3社以外にテレマティクスを利用している自動車メーカー、例えばG-BOOK対応ナビを出しているマツダやスバルはどうなるのか。

佐上氏は次のように説明する。「私たちは自動車メーカーというよりもインターナビ、カーウイングス、あるいはG-BOOKというサービスに対してカーナビプランを適用させていただいています。スバルさん、マツダさんについては、現状用意があるのはG-BOOK アルファ対応ナビだけで、G-Book mX採用ナビはありません。もしG-Book mX対応ナビがスバルなどから出てくれば、われわれが対応を拒む理由はありません」。

そして、市販カーナビメーカーへの対応については、「申し出があれば当然、検討します」(佐上氏)とのことだ。

◆しがらみにとらわれず、先駆けてやる

プランのスタートからおよそ2か月が経つが、肝心の会員の伸びはどうなのか。

「加入者の推移はオープンにはできませんが、順調に伸びています。各テレマティクスサービスのウェブサイトや当社の会員サービスサイトの双方で告知して、認知拡大を図っているところです。今後も、自動車メーカーとうまくコンビネーションを組んで利用者を広げていきたいですね」(村松氏)。

今のソフトバンクは勢いがある。「いままでなかったモノを先駆けてやる。しがらみにとらわれずやっていくという姿勢はキャリアの中でも強いと思いますよ」(佐上氏)。カーナビプランの登場は、その攻めの姿勢が車載分野にも発揮されたという印象だ。2010年、カーナビプラン発表の年が、“テレマティクス第二の夜明け”と記憶されるようになることを期待したい。

《聞き手 三浦和也/北島友和》

《まとめ・構成 北島友和》

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