【コラム*AutoStanding】ショールームから販売員が消えた…

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【コラム*AutoStanding】ショールームから販売員が消えた…
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従来の自動車商談プロセスの中で販売店ショールームは、販売店側から見ると、ダイレクトメールなど各種プロモーション活動の結果として来店した、クルマの購入を検討する見込み客との、リアルな場での最初の接点であった。

本来ショールームには、大別すると2つの使命がある。1つは、ショールームを目立たせたり入店し易い雰囲気を醸し出し、見込み客を来店させること。2つには、クルマを魅力的に演出したり実際に触れさせたりして、来店した見込み客を商談スペースの場へと誘導すること。

しかし販売の現場では、展示スペースと商談スペースとの機能分化が必ずしも明確ではなかった。ショールームに入るやいなや販売員が近寄ってきて商談(売り込み活動)が始まることが普通だ。顧客(見込み客)がそれを嫌がりショールームから遠ざかっていた一面もあろう。

このほど京都日産自動車株式会社がオープンした「京都日産フラッグシップギャラリー」と名付けられたショールームは、販売員がいない「無人ショールーム」である。呼ばれればいつでも駆け付けられるように別の場所に待機しているのであり、展示スペースと商談スペースとを明確に分離しているのである。それが「無人ショールーム」といわれる所以だ。

「無人ショールーム」では、来店した見込み客を商談スペースの場へ誘導する過程に、販売員は能動的には関与しない。見込み客はフリードリンクコーナやテーブルなどを活用しながら、クルマのデザインや乗り心地を確かめ、家族や恋人と話し合い、従来のショールームにある‘販売員の目’に気遣うことなく検討を進める。そしてクルマに関する質問がある時や、見積もりが取りたくなった時などに、内線電話で販売員を呼びだす。

◆販売店の購買代理人化

いってみれば、上記の仕組みの中で販売員は、売り手という立場に基づく営業的なアプローチはせず、顧客が望んだ時にだけ顧客の望むように接触するという、いわば顧客の購買代理人的な立場で存在する。

代理人を通した自動車販売は「無人ショールーム」に限ったことではない。例えば、株式会社オートサーバーでは、インターネット上で顧客が欲しいクルマを登録すると、カーオークションや流通在庫の車両データから探して、登録時のメールアドレスに通知する「AutoBee」というサービスを展開している。

つまり、これまで自動車販売には、C(顧客)とB(販売店)の間に、買い手と売り手という相対する関係があった。しかし、無人ショールームやAutoBeeを活用した中古車の販売は、Bが売り手ではなく、Cの購買代理人的な役割を持つようになってきたと捉えることができる。

購買代理人の具体的イメージを持つため、もう一歩進めて対面販売、側面販売、セルフサービスという販売形態の観点から整理しよう。

参考:一般的な販売形態の概要

●対面販売---販売員がデスクなど什器をはさんで顧客に対応する形態。高価で複雑な商品でも納得して買ってもらえるなどのメリットがあるが、販売員のコストがかかるなどのデメリットがある。貴金属や化粧品、医薬品の店舗で採用されることが多い。

●側面販売---販売員が顧客と同じ側に立って説明をしながら販売する形態。顧客が自由に商品を選べるなどのメリットがあるが、売り手が販売の主導権を握りにくい等のデメリットがある。スポーツ用品店やペットショップ、アウトドアショップ等で採用されることが多い。

●セルフサービス---顧客が自由に商品を選択する形態。販売員の効率は最もよいなどのメリットがあるが、顧客に商品知識が豊富でないと購入が進まないといった制約がある。ご存知のとおり、スーパーやコンビニ、ディスカウントショップで採用されることが多い。

これまでの自動車販売は、商品やサービスの説明のしやすさを重視した対面販売を主流としていた。購買代理人による販売は、顧客と同じ側に立って販売する側面販売と、顧客が商品を選択するセルフサービスとの中間に位置する。

この動きの背景には、BとCの情報格差が埋まってきたことに一因があると思われる。自動車という製品の複雑さ、高額ゆえのローンやリースといった支払・所有方法の複雑さ、自動車登録関連の手続きの複雑さなど、B側が所有したり理解できる情報が多かった。しかし商品の普及やITの進歩によりC側の情報力が強まってきたのだ。

とはいえ今後も、情報の非対称性や、登録などの煩雑さは完全にはなくならないので、それらを解消することにBの価値が残る。つまり側面販売とセルフサービスとの中間に位置する購買代理人的な役割を担うBは増えていくのではないだろうか。

また、対面販売と側面販売との中間に位置するBの動きもある。例としてレクサスがある。レクサスでは、上質なスーツに身を包んだ販売員が「セールスコンサルタント」の肩書きで、懇切丁寧にじっくり時間をかけ顧客へ対応し対面販売の付加価値を高めている。そして一方では「おもてなし」を重視して、顧客の立場に立ってソリューションを提供するという側面販売の機能、つまり購買代理人的な役割を担っているのである。

総じていえば、豊富な情報量や購入体験により賢くなるCに対応して、販売形態はB側からCの位置に近づいてきている。Bの購買代理人化こそが、小売業の方向性といえるのではないだろうか。

◆購買代理人化時代における新規参入のチャンス

Bの購買代理人化はビジネスモデルの変化も意味する。自動車販売で考えると、これまでメーカー、インポーターからの仕入原価と実売価格との差や、インセンティブを主な収益源としていたモデルから、広告収入、代行手数料、成約手数料などを主な収益源とするモデルへの変化である。

そして、これまで述べた購買代理人化という考え方は、新車・中古車販売に限らず、部品・用品や、その他の小売業においても通ずるところがある。特にITを活用したAutoBeeのモデルは、設備などの初期投資が少なく人件費などの固定費、販売費も削減できる。とりわけ、これまでのビジネスにしがらみを持たない新規参入者にとってはチャンスであろう。

筆者の所属する住商アビーム自動車総合研究所では、自動車業界に新規参入を検討中の企業や、すで に参入している中小企業に向け、資金面や販路面での支援をする事業を 展開している。ご興味のある方は、「AutoStandingアカデミー」のサイトを訪れていただければ幸いである。

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