【AutoStanding】ミドルセグメントのマーケティング・アプローチ

自動車 ビジネス 企業動向

◆2006年新車見積依頼ランキングと新車販売ランキング

オートバイテル・ジャパン(以下オートバイテル)が2006年の年間新車見積依頼ランキングを発表した。

ご存知の方も多いと思うが、オートバイテルは、インターネットを活用し新車に限らず中古車や用品、ファイナンスまで自動車購入に関わる情報提供サービスを行っている会社である。

同社のサービスの一つにこの新車見積依頼サービスがあるが、その内容は、ユーザーが希望車種やグレード、カラー、オプション、購入時期、氏名、住所といった情報を登録すると、オートバイテルのネットワークに加盟しているディーラーの中から条件に合致する最寄のディーラーにその新車見積依頼データが送付される。そして当該ディーラーがユーザーにコンタクトして見積もりを提示するという仕組みになっている。

インターネット経由の新車見積依頼は各自動車メーカーや販売店のページからでも行えるが、オートバイテルの場合には国産車、輸入車問わず全車種が対象であるという点で異なる。そのためオートバイテルのページから新車見積依頼がされた件数を車種別に集計すると、後述するような制約条件はあるものの、概ね「全車種の中から特定車種の見積依頼を行なった数」=「顧客が認知し、興味を持っている車種のランキング」を表していると捉えることができる。

一方で自販連等が発表している新車販売台数というデータは、認知・興味の段階を経て「最終的に購入にまで至った車種のランキング」と捉えることができる。両者をトップ10まで以下に並べてみた。

見積依頼ランキング(興味ある車)
1位:トヨタ・エスティマ
2位:マツダMPV
3位:トヨタ・ウイッシュ
4位:ホンダ・フィット
5位:トヨタ・ヴィッツ
6位:ホンダ・ストリーム
7位:ホンダ・ステップワゴン
8位:ホンダ・オデッセイ
9位:トヨタ・ヴォクシー
10位:トヨタ・アイシス

販売ランキング1(実際に購入した車)
1位:スズキ・ワゴンR
2位:ダイハツ・ムーヴ
3位:トヨタ・カローラ
4位:トヨタ・ヴィッツ
5位:スズキ・アルト
6位:ダイハツ・タント
7位:ホンダ・ライフ
8位:ホンダ・フィット
9位:トヨタ・エスティマ
10位:ダイハツ・ミラ

販売ランキング2(実際に購入した車。軽除く)
1位:トヨタ・カローラ
2位:トヨタ・ヴィッツ
3位:ホンダ・フィット
4位:トヨタ・エスティマ
5位:日産セレナ
6位:ホンダ・ステップワゴン
7位:トヨタ・ウィッシュ
8位:トヨタ・ラクティス
9位:トヨタ・パッソ
10位:トヨタ・クラウン


◆見積依頼ランキングと販売ランキングに差異が発生する理由

見積依頼は購入に至るまでの前段のプロセスであるから、直感的には見積依頼ランキングと販売ランキングには相関関係がありそう、つまり見積依頼の件数の多い車種は販売台数も多そうであるが、結果はそうはなっていない。この差異はどこから生まれるのだろうか。その理由として以下が考えられる。

第一に、時差が考えられる。顧客がある車種に認知・興味を持ってから実際に購入契約を結んで納車に至るまでの間には一定の時間を要する。また、モデルチェンジ直後の車種の場合、生産能力上の制約から需要に供給が追いつかず、需要や受注の割に販売登録が伸び悩むということが考えられる。

従って、見積依頼ランキングに上がった車種は未来の可能性を示しており、販売ランキングに登場している車種は過去の結果を示しているということが考えられる。もっとも、いずれも年間という広い括りで見ればその影響はこなれて来るであろうし、実際にベスト10に上がった車種の中に投入直後の新型車はない。

第二に、ユーザの妥協が考えられる。理想と現実の間にはギャップが存在するのが世の常である。受験シーズンになぞらえて言うならば記念受験の学校のようなものが見積依頼ランキングに現われ、実際に入学した学校のようなものが販売ランキングに現れる可能性がある。

しかし、実際に見積依頼ランキングに登場している車種を見ると、フェラーリやランボルギーニはもちろん、メルセデスやBMWのような車種は一つもないから、この理由でのバイアスは殆ど掛かっていないと見るべきだろう。

第三に、オートバイテルの加盟ディーラーに偏りがあることが考えられる。加盟するディーラーのチャネルや地域に偏りがあると、オートバイテルから見積依頼を取ろうとしても最寄のディーラーがなく見積依頼を取れない可能性がある。

特に会社設立当初は偏りが出そうであるが設立から7年経過していることや、Yahoo! JAPANやプロトコーポレーションを始めとした各種ポータルサイトと提携を進めており加盟することに一定の価値があると想定されるので、ここでは加盟ディーラーは平準化されているとしたい。

第四に、オートバイテルを利用するユーザーの属性に偏りがあることが考えられる。価格以外の要素を重要視する人、特定のディーラーや営業マンから購入すると決め込んでいる人、ネットで見積を取るという商習慣に馴染みや関心のない人、オートバイテルの存在やサービスを知らない人たちは、オートバイテルで見積依頼を取ることはないだろう。

そう考えると、オートバイテルの利用者はある特定の客層に限定され、市場全体を代表していないのかもしれない。

第五に、パーチェス・ファネル(認知・興味−購入・登録までの行動プロセス)のどこかで売り手側が取りこぼしている可能性が考えられる。見積依頼はパーチェス・ファネルの入り口部分の行動であるのに対して、実際の購入・登録はその出口部分での行動である。

従って、販売ランキングを上昇させるためには、顧客の認知や興味を惹くパーチェス・ファネルの上流域での活動に加えて、中下流域での売り手側の諸活動が必要になる。

商品や宣伝がいかに優れていても、販売チャネルの立地や設備、日頃の顧客とのリレーション作りや顧客DBの精緻化、購入の動機付けとなるキャンペーンやインセンティブが伴わなければパーチェス・ファネルのどこかで取りこぼしが発生する。

結局のところ、上記のうち主に第四・第五が両ランキングの差異をもらたしたという仮説が成り立つ。


◆ランキングの差異から読みとれること

上記のような観点から今回の結果を具体的に見ていきたい。

<パーチェス・ファネル管理に成功したミニバン>

見積依頼ランキング・ベスト10のうち8車種はミニバン(『エスティマ』、『MPV』、『ウィッシュ』、『ストリーム』、『ステップワゴン』、『オデッセイ』、『ヴォクシー』、『アイシス』)に占められている。

先ほどネットで新車の見積依頼を取るという習慣を持つのは一部の客層に限定される可能性があるという仮説に触れたが、結果から見る限りミニバンユーザは正にその限られた客層に該当すると考えることができる。

そしてエスティマ、ウィッシュ、ステップワゴンの3車種は販売ランキングにも登場する。パーチェス・チャネルの途中での取りこぼしを最小限に抑えた成功事例と見ることができる。

トヨタ
見積依頼ランキング:4車種(エスティマ、アイシス、ウィッシュ、ヴォクシー)
販売ランキング:2車種(エスティマ、ウィッシュ)

日産
見積依頼ランキング:0車種
販売ランキング:1車種(セレナ)

ホンダ
見積依頼ランキング:3車種(ストリーム、ステップワゴン、オデッセイ)
販売ランキング:1車種(ステップワゴン)

マツダ
見積依頼ランキング:1車種(MPV)
販売ランキング:0車種

一方、アイシス、ヴォクシー、ストリーム、オデッセイ、MPVの5車種は、見積依頼ランキングに登場しながら販売ランキングからは消えているから、パーチェス・ファネルの途中で取りこぼしを起していると考えることができる。

またチャネル毎に一押し車種を絞り込んでいるためとも考えられる(その場合は商品体系・チャネルごとの車種配分という上流域の問題とも言える)が、パーチェス・ファネルの中下流域に何らかの改善の余地がないか再考の価値があると考えられる。

<パーチェス・ファネル管理と無縁の軽自動車>

販売ランキングで『ワゴンR』、『ムーヴ』、『アルト』、『タント』、『ライフ』、『ミラ』という6車種がランクインしている軽自動車は、見積依頼ランキングには1車種もない。軽自動車が最初に見積依頼ランキングに登場するのは16位ワゴンRで、30位までに登場するのは加えて26位『i』(アイ)、27位『モコ』という状況である。

このようなケースでは逆にパーチェス・ファネルの下流域での力が上流域の力を上回っていると想定され、上流域での売り手側の諸活動(商品の差別化や宣伝活動など)を強化することで販売台数をもっと伸ばせる可能性がないかを検討する価値があると普通は考えるだろう。

ただ、ここで注意しなければいけないことは、見積依頼ランキングと販売ランキングのギャップのもう一つの原因である顧客属性の問題である。

軽自動車ユーザは、価格以外の要素を重要視する人なのかもしれないし、特定のディーラーや営業マンから購入すると決め込んでいる人なのかもしれない。ネットで見積を取るという商習慣に馴染みや関心のない人が多いのかもしれないし、オートバイテルの存在やサービスを知らない人が多いのかもしれない。

ここまで顕著かつ一律なギャップ(軽自動車が見積依頼ランキングに全く入ってこないのに販売ランキングの上位を占める)が出てくると、軽自動車ユーザにはパーチェス・ファネルを用いたアプローチは有効とは言えないと考えた方がよさそうである。つまり、認知・興味から顧客の購入プロセスが始まると考えるのではなく、販売チャネルを通じた顧客リレーションの強化など中下流域の活動が顧客にとってより重要性を持っているのかもしれない。

このことは、軽自動車と同様の傾向を持つ『カローラ』や『クラウン』にも当てはまると考えられる。ミニバンのセレナも同じ傾向を持つが、他のミニバンにはパーチェス・ファネルを用いたアプローチが有効であったことを考えると、こちらは上流域での工夫の余地があると考えるのが自然であろう。

<ミドル・セグメントのマーケティング・アプローチ>

昨今、消費者の関心は軽自動車と高級輸入車に二極化していると言われ、その中間に位置するミドル・セグメントの車種のマーケティングは難しくなっているとされる。

だが、見積依頼ランキングに登場するのは、ミニバン8車種と『フィット』、『ヴィッツ』の小型車2車種であって、軽自動車や高級輸入車は一つも登場していない。見積依頼ランキングで最初に輸入車が登場するのは、24位フィアットのニュー『パンダ』である。続く25位にBMW『3シリーズ』が入るが、上位50まで見ても輸入車はこの2車種だけである。高級車ブランドではBMWに加えて41位レクサス『IS』、46位レクサス『GS』の2車種のみである。軽自動車のトップは16位のワゴンRであることは既に述べたとおりである。

このことは、伝統的なパーチェス・ファネルからのアプローチは、軽自動車や高級輸入車には通じなくなってきているものの、難しくなってきているとされるミドル・セグメントの車種には引き続き有効なアプローチであることを示唆しているといえるのではないだろうか。

奇をてらうことなく、当たり前のことを実直に実行していくことが難しくなったといわれるミドル・セグメントのビジネスを再建する鍵だと筆者は考える。


◆おしまいに

今回は見積依頼と販売ランキングのデータを組み合わせて、パーチェスファネルや(誇張すると)クラスターというフレームワークを用いて、意味合いを抽出してきた。

しかし、データやフレームワークは世の中に溢れており、特定のデータやフレームワークが重要なのではない。また、筆者が提示したのもあくまで仮説に留まり、現場での検証を要する。

重要なことは、難しくなったといわれるミドル・セグメントのマーケティングに何か有効なアプローチはないかという課題を自らに設定をしたところにあると思う。課題の設定次第で、どのような情報を組み合わせるか、どのような意味合いを抽出するかが異なってくる。課題設定こそが重要と思う。
《》

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