ルノーの良さを一言で表すとしたら(あくまでも個人の意見)、その切れ味の良いハンドリングと、そのハンドリングを実現しつつ快適な乗り心地を提供してくれるところにある。
ざっくり80年代あたりまでは、シトロエンを除けば、プジョーもルノーも大体そのコンセプトは似たようなところを突いてきて、特にCセグメント以下のハッチバック車では、そのイメージが似ていたように思う。例を挙げればその時代のプジョー『205』や『206』、ルノーでいえばルノー『サンク』や『クリオ(本国名)』がそれにあたる。
いずれも軽快なハンドリングを持ちながら、抜群の快適性を誇った。まあ、プジョーの場合は90年代に入って少しドイツ系の乗り味に振られて、独特な猫足のヒタヒタ感が薄れてしまったが。
ルノーの場合は、少なくとも足のチューニングに関しては、この時代からまるでぶれていない。日産と合併してプラットフォームを共有するようになってからも(今も)、同じプラットフォームなのに、日産車と比べると…「何で?」という素朴な疑問符が付くほど足のセッティングは異なり、言っちゃ悪いがその足のチューニングに関しては、とても日産はルノーの領域に達していない。
◆ルノーとしての走りの醍醐味

話をキャプチャーに戻そう。実は初めにE-Techハイブリッドを借りて、それを返却してMHEVに乗り出した。システム出力がカタログには乗っていないのでわからないが、E-Techの場合は1.6リットル4気筒94psのICEと、49ps及び20psの二つのモーターを装備するから、単なる合算だと(もちろんシステム出力はそうではない)163psとなって、1333ccという中途半端な排気量を持つ4気筒ターボエンジンの158psは上回るのだが、仮に合算であってもその差は微々たるもの。性能的にはニアリーイコールといってよいと思うが、車両重量差は90kgあって、ガソリンターボのMHEVは1330kgである。
MHEVが存在しなかった2代目初期モデルで、実はガソリン仕様にはデビュー時には乗ったものの、E-Techとの直接比較はしていなかった。そしてE-Techの原稿を書いた時に、「E-Techは基本的にはガソリン仕様と比較してほぼ35%アップの燃費性能を実現しているが、モーターのアシストを得ているとはいえ、机上の性能としてはガソリン仕様と比べて少し見劣りする。しかも車重も110kgも重いから、確かに十分にシャープな運動性能を持つのだが、2台乗り比べてみると恐らく運動性能的にはガソリンにはかなわないかもしれない。」と書いていた。

今回初めてMHEVになったとはいえ、ダイレクトにガソリンエンジンでパフォーマンスを出すターボ車と、E-Techを乗り比べた結果、ルノーとしての走りの醍醐味は、やはりICE車に軍配が上がる。MHEVをお借りして280kmほど走行した平均燃費は15.9km/リットル。1.3リットルターボとしては、日本車と比較すると物足りないかもしれないが、運動性能や全体的に醸し出されるセンスの良さなどを考慮すれば、まずまずのスコアである。流石に今回は20km/リットル越えだったE-Techと比べると、およそ30%ダウン。つまりMHEVによって5%ほどリカバーした形といえよう。
◆E-Techとは明確に異なる性格
それにしてもE-Techから乗り換えた瞬間に、コートを1枚脱いだような走行感覚に襲われ、性格的に明確に異なることを実感した。
ステアリング初期入力の応答性や、7速EDCによるメリハリ感が強く、且つ機敏なシフト性能などは、瞬足とスムーズさを味わえるところに持ってきて、こちらにはドライバーの意思で加減速を自由に操れるパドルシフトが装備されるので、ルノーの醍醐味を味わおうと思ったら、文句なくこちらがお勧めである。

もちろんE-Techには、他ブランドにはない独創的なフルハイブリッドシステムがある。別に意味はないけれど、ドグクラッチを備えて実質的には十数段のシフトチェンジをクルマの側で行い、ルノー車をチョイスする判断基準に燃費という文字を入れた功労者だから、否定する理由は何もないし、単独で乗れば十分にルノー的愉しさを味わえる仕上がりを見せている。
ドグクラッチという機構は元来レーシングカーで用いられていたもので、シフトの俊敏性が売りの機構。60年代に当時の軽自動車ホンダZに、量産車として採用されたこともあったので、60年代オヤジには実にこの響きに弱いのである。
今回から19インチのタイヤを装備する、「エスプリ・アルピーヌ」というグレード。確かに見た目はダイナミックさを醸し出すのかもしれないが、乗り心地的にはルノーの良さを少しスポイルしている。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。