時速6キロで味わう優雅な水辺の時間、「電動ボート」でヤマハがめざす“感動創造”とは

ヤマハ発動機の新型次世代操船システム「HARMO」
  • ヤマハ発動機の新型次世代操船システム「HARMO」
  • ヤマハ発動機の新型操船システム「HARMO(ハルモ)」とマリン事業本部 国内事業推進部 事業推進部長の吉田竜也氏
  • ヤマハ発動機の新型次世代操船システム「HARMO」
  • 枠の内側ごと回転する「リムドライブ機構」により低速でも高い推進力を発生する。
  • ヤマハ発動機の次世代電動推進システム「HARMO(ハルモ)」を搭載したプレジャーボート
  • ヤマハ発動機の次世代電動推進システム「HARMO(ハルモ)」を搭載したプレジャーボート
  • 新型HARMOは配線の見直しなどによりトップ部分が大幅にコンパクト化。
  • 新型HARMOのコンパクトになったトップ部分

バイクメーカーとして知られるヤマハ発動機だが、実はその売上の20%以上を占めるのが「マリン事業」だ。さらに営業利益では全社利益の約半分を担う屋台骨事業となっている。船舶用エンジンの船外機を中心に販売を伸ばしており、2025年では5750億円の売り上げを見込む。

そんなヤマハは「海の価値をさらに高める」べく、2024年までの中期計画に「マリン版CASE」を掲げ、電動化にも取り組んできた。そのひとつとして開発されたのが次世代操船システム「HARMO(ハルモ)」だ。

ヤマハ発動機の新型次世代操船システム「HARMO」ヤマハ発動機の新型次世代操船システム「HARMO」

HARMOは燃料を使用する船外機に変わり、電気とモーターで船を推進するシステム。観光地での遊覧ボートのような近距離でのゆったりとしたクルージングを想定したシステムで、力強く、静かな推進が可能なことが特徴だ。2022年に登場した初代モデルでは欧州での販売を皮切りに、日本でも北海道小樽市や徳島県徳島市の観光周遊船、東京竹芝エリアなどで実証運行がおこなわれてきた。3月に発表した第2世代モデルでは、正式に日本での販売がこの6月より開始されている。

HARMOの特徴は、スマートなデザインと、プロペラ部分の中心を軸に回転するのではなく、リム(外周)ごとプロペラが回る「リムドライブ」を採用している点にある。これにより低速でも高い推進力を発生させることができ、さらに水の音や風の音を楽しめる静粛性を実現している。新型ではヤマハ独自のジョイスティックによる操船システム「ヘルムマスターEX」と連携することで、着岸時などの操船を容易にするほか、定点保持機能やオートパイロットにも対応した。

枠の内側ごと回転する「リムドライブ機構」により低速でも高い推進力を発生する。枠の内側ごと回転する「リムドライブ機構」により低速でも高い推進力を発生する。

さらに内部の配線を見直すなどでコンパクト化、従来の船外機と同等の取り付け方法となったことで、さまざまなタイプのボートへの搭載も可能となるなど進化を果たしている。

ヤマハ発動機 マリン事業本部 国内事業推進部 事業推進部長の吉田竜也氏は新型HARMOについて、「観光船などの商用利用ののみならず、一般のプレジャー用としても利用拡大ができるものとして非常に期待をされております」と今後の展望を語る。国内での販売台数については「3~5基程度から地道に広げていく」としながらも、乗船体験機会を増やし「電動ボート」の魅力を訴求していくという。

ヤマハ発動機の新型操船システム「HARMO(ハルモ)」とマリン事業本部 国内事業推進部 事業推進部長の吉田竜也氏ヤマハ発動機の新型操船システム「HARMO(ハルモ)」とマリン事業本部 国内事業推進部 事業推進部長の吉田竜也氏

10月には、横浜みなとみらいのウォーターフロントでクルージング体験ができるプロジェクトを開始する。国内におけるマリンレジャー活性化を目的として、2024年にオープンしたヤマハ発動機のeバイク(電動アシスト自転車)拠点「Yamaha E-Ride Base」と連携し、陸と海から横浜を楽しむことをコンセプトに、新型HARMOを搭載したポンツーンボート(船上でのBBQやアクティビティを楽しむためのパーティボート)でのクルージング機会を提供する。

みなとみらいを訪れる普段マリンレジャーに触れたことのない若年層や女性をターゲットに、「優雅な水辺の時間を楽しんでもらえることを期待しています」(吉田氏)。

ヤマハ発動機の次世代電動推進システム「HARMO(ハルモ)」を搭載したプレジャーボートヤマハ発動機の次世代電動推進システム「HARMO(ハルモ)」を搭載したプレジャーボート

新型HARMOの発売に合わせて、6月中旬に一部メディア向けに新型HARMO搭載艇の体験試乗もおこなわれた。生憎の雨模様だったが、内燃機関を搭載するボートとは異なり、無音に近い状態でクルージングする船上では、雨の音や波の音、乗客同士での会話もはっきりと聞こえ、風景やガイドを楽しむ観光地などでの用途に適したパワートレインであることが窺えた。また、音だけでなく振動も殆ど感じないため、ストレスなくラグジュアリーな時間が楽しめるだろう。

水上を航行する速度は約6km/h。人が歩く速度より少し速い程度だ。もちろんこれ以上の速度で航行することも可能だが、完全電気のHARMOは電気自動車と同じようにバッテリーに蓄えた電力で動くため、重量物であるバッテリーを極力小さくし、効率良い運行をおこなうにはこの「約6km/h」がベストとのことだった。試乗したボートのサイズであれば、200Aの鉛バッテリーとの組み合わせで一日6時間の運行が十分に可能だという。

ジョイスティックによる操船システム「ヘルムマスターEX」ジョイスティックによる操船システム「ヘルムマスターEX」

マリン業界でもカーボンニュートラルに向けた取り組みが始まっているが、電気とモーターを使用するものは近距離向け、より大きなボートや長距離運行には水素エンジンや燃料電池、そしてバイオ燃料や合成燃料などで賄うことを想定している。ヤマハ発動機としても、これらをマルチパスウェイ方針として開発を進めている。その中でHARMOは、観光や水辺でのレジャーに特化し高付加価値を提供、「感動」を創造することで海の価値をさらに高めることにつなげるねらいだ。

今後は、これまで実証運行をおこなっていた従来型HARMOからの置き換えをはじめ、全国の自治体や事業者との連携を加速していく。

従来型のHARMOを2基がけしたポンツーンボート従来型のHARMOを2基がけしたポンツーンボート
《宮崎壮人》

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