どこかにこんな目をしたペットロボットがいたよなぁ……が、筆者の個人的な第一印象。そんな不思議ちゃん的な風貌とユニークなディテールは、街中でもかなり人目を引いているようだった。が、この『インスター』の実態といえば、至って真面目で実用的なSUV風味のスモールBEVである。
◆フィアット500よりも小さいコンパクトEV

とにかく実車に接して驚かされのがコンパクトさ。とくに全幅は1610mmしかない手頃さで、どうも馴染めると思ったら我が家のICEのチンク(フィアット500=1625mm)よりさらに15mmも小さい!「ALWAYS三丁目の夕日」ほど遡らないまでも、かつての日本の小型車はこのくらいの小ささだったよなぁ……などと遠い目になったりして。
故に狭い路地裏や手狭なスーパーの駐車場へも(ステアリングレシオは僅かにスロー? ステアリングのリムは楕円の伝面形状の奥行き方向がやや太め?とはいうものの)臆せず入っていける。4mを切る全長も実に扱いやすく、後退で駐車スペースに停めたい場合、まずまず精細なカメラ画像で見計らいながら、車止めに後輪が当たる寸前でクルマを止められる。

一方でコンパクトなクルマながら居住空間は十分。後席はドア開口が大きくサイドシルも低いため乗降性はスムース。シートは左右個別でリクライニングとスライド(160mm)が効くため、座面は少し低めながらゆったりとした乗車姿勢がとれる。
一方でラゲッジスペースの容量も十分で、トノカバーの固定位置がなぜかリアゲート側のため、荷物の出し入れに支障がなくはないが、昔のボルボのエステートのように前席は前倒しでき(左右とも。操作はリクライニングのレバーと共用で前席ドア側から行なう)、長さのあるものの積載や、工夫次第で足を伸ばして車内でちょっとした休憩もできそうだ。

それと試乗車の「Lounge(ラウンジ)」は装備も充実。とりわけ前2席にシートヒーターとシートベンチレーションが標準なのは、暑がりで寒がりな家族(=ウチの家内がそう)がいるご家庭にはありがたいはずだ。冬場のステアリングヒーターも嬉しい。
◆日本専用のダンパーとステアリングの絶妙さ
そして何といっていいのが、実に穏やかな乗り心地のよさ。訊けば日本仕様はダンパーが専用品だそうで、発進からのザワついた感触がまったくなく、バッテリー分の車重でボディが路面に押し付けられることによるシットリとした乗り味、煽られ感とピッチングの小ささは格別といえる。

試乗経験を積むにつれ、ボディサイズからクルマの乗り味を予測するようになったらしい(!?)乗り心地・NVH評価担当の我が家の柴犬のシュンも、予想外の快適さに、試乗中ずっと上機嫌だった。
ちなみにステアリング(やADASの設定なども)のプログラムも日本仕様独自とのこと。「日本のユーザーに合わせて操舵力をやや軽くした」というが、アシストの量や立ち上がりのタイミングは絶妙で、低速ではスムースで高速走行では安定した手応えもあり、何気なく完璧な仕上がりぶりだ。

走行モードと回生の強さが変えられる(左パドルで選べば1ペダル走行も可能)動力性能もアクセル操作で自在にコントロールが可能。確認のため強めにアクセルを踏み込むと、路上でも軽くクルマの流れをリードできる加速が得られた。その際、EVらしく加速が鋭かったらしく、同乗のシュン(犬)は加速Gを感じるや前傾姿勢で前脚で踏ん張り、自分のカラダを保持するのを今回発見した。
普通充電/急速充電ともに充電の際の目標充電量の設定も可能。今回、試乗終了間際だったため試乗車の設定のまま上限80%の状態で90kW/200Aのスポット(2基のうち利用は1台)に立ち寄ったが、59%からものの10数分で80%の“ちょっと足し”の充電が完了した。試乗車の一充電走行距離のカタログ値は458km(Lounge)だが、日常+αの実用度は十分な高さだと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。