【ヨコハマ アイスガード7 試乗】相反する氷上と雪上性能の両立、高い操縦性は雪道の強い味方に…岡本幸一郎

モータージャーナリスト 岡本 幸一郎氏
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「優れた氷上性能のさらなる向上」、「消費者が実感できる永く効く性能」、「氷上性能と雪上性能の両立」を開発コンセプトに、2021年に登場したのが横浜ゴムの『アイスガード7 iG70』(以下iG70)だ。

その特徴をざっとふりかえると、氷上性能については、接地面積とブロック剛性を大幅に増加させた「専用トレッドパターン」により、イン側に「幅広リブ」、センター部に「縦長ベルトブロック」を配置することで発進と制動での安定した接地を実現。アウト側には互いのブロックを支え合う「大型ブロック」を採用している。

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雪上性能については、溝やサイプのエッジ量を大幅に増加させるとともに、イン側には傾き角度の異なる横溝を配置して発進と制動でのグリップ力を向上させたほか、センターグルーブとアウト側にはジグザグの縦溝を配してステアリングの手応えを向上させた。

さらに既存の「新マイクロ吸水バルーン」と新採用の「吸水スーパーゲル」をブレンドした、専用開発のコンパウンド「ウルトラ吸水ゴム」により氷上の水膜を吸水する効率を高めている。

これらの相乗効果により、iG70は従来比で14%もの向上をはたしヨコハマのスタッドレスタイヤ史上最高に達した氷上性能と、3%の雪上性能の向上を実現。双方を高いレベルで両立した。その3シーズン目を迎えるiG70の性能を改めて確認するため、北海道のTTCH(北海道タイヤテストセンター)へと向かった。

国内最大規模の屋内氷盤旋回試験路を開設、より緻密で迅速な開発が可能に

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タイヤ事業のグローバルな拡大に対応するために2015年12月に開設されてから、2018年1月に屋内氷盤試験場を新設。2020年11月には同施設に氷の表面温度をマイナス10度から0度までコントロールできる、国内最大級の冷媒装置を設置するなどTTCHには設備の充実が図られた。

2023年1月には冬用タイヤの氷上旋回性能のさらなる向上を目指し、国内最大という屋内氷盤旋回試験路を開設したばかり。屋内のため天候や気温など外的要因の影響を受けにくく、氷面状態を安定的に保つことができるため、試験データの精度が向上し、より高度な技術開発を効率的に行なえるようになったという。

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今回の試乗のメインテーマは、いかにちゃんと止まれて曲がれるか、接地技術(氷上性能)と溝エッジ技術(雪上性能)の最適解を検証すること。

そこで、市販状態のiG70と、iG70にも用いられている前出のウルトラ吸水ゴムを用いて、パターンを「氷上特化」としたタイヤと、溝をまったく入れない「SLICK(=スリック)」の3種類を同じカローラセダンに履かせる。それぞれ氷上と雪上で乗り比べ、旋回と制動をテストしてどのようになるのかを確認した。

氷上の確かな接地感、iG70の操縦性は氷の上でも変わらない

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氷上特化がどういうものかざっくり述べると、iG70に対してラグ溝を大幅に少なくして接地面積を稼ぐとともに、サイプを増やして接地性とやわらかさが高められている。氷上性能が向上する半面、ウェットや雪上性能は低下する傾向となる。

まずは氷上性能を確かめるため、屋内氷盤試験場で制動を比較した。走行条件は30km/hで走行してクルマのハナがブレーキポイントに差しかかったタイミングで、スタッフがホイッスルを鳴らしたところでフルブレーキングというパターンを、それぞれ3回ずつ試した。気温はマイナス2.3度、氷表面はマイナス2.6度、氷冷媒はマイナス2.1度だ。

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最初にiG70で走って感触を確かめておく。停止までの距離は概ね17mだった。それが氷上特化になると、グリップ感ががぜん高まる。停止まで16mぐらいで安定していた。フィーリングほど差が出なかった気もするが、気になったのはノイズだ。パターンが変わったことで、窓を開けたらかなり聞こえるぐらい音が出ていた。

スリックではやはりぜんぜん止まらない。ブレーキを踏んでも減速するかなと思ったらスッと前に出てしまう感じで、制動距離は27m~28mまで一気に伸びた。接地面は増えているのでトレードオフもあるかと思ったが、こんなに止まらないものかと驚いた。また、Uターンする際にステアリングを切っても、感触としては半分ぐらいしか曲がらず、横方向のグリップも低い。

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次に屋内氷盤旋回試験路で旋回比較を行なう。VSCオンの状態で同様に3種類のタイヤで5周ずつ走った。気温はマイナス2.9度、氷表面はマイナス2.4度だ。

iG70では20km/hまではすぐに出せたが、旋回速度を上げるにはさぐりさぐりという感じ。この状況で筆者のスキルでは24km/hが限界であった。
氷上特化はここでもグリップ感が高めで、iG70に対しては制動ほどの大きな差はない印象。加えて、アクセルを踏み増したときに前に進もうとする感覚も強いように感じた。舵角が小さい領域であれば限界を超えても修正しやすいが、大きいとややピーキーな面もある。旋回速度はコンスタントに25km/h出て、やはりラップタイムも速かった。

スリックでは走り始めた瞬間から様子が全く違うことを感じる。舵角を大きしないと旋回が維持しづらく、ちょっと油断するとアンダーステアやオーバーステアが顔を出して、滑り始めるとリカバリーが効かない。旋回速度は平均20km/h程度で、ときどき22km/hに達した。

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最後におさらいで、もう一度iG70で走った。限界を超えてからも修正のしやすく、乗りやすいことが改めて確認できた。やはり言葉通り氷上特化が速かったものの、iG70のクセのない安定した走りは好印象であった。

雪上では抜群の横グリップを発揮、きちんと行きたい方向へクルマが動かせる

続いて雪上性能を確かめるために、圧雪試験場で制動比較と総合圧雪試験路でジムカーナ比較を行なった。 制動比較は50km/hからフルブレーキングする条件。iG70を基準にすると氷上特化は制動距離が若干長く、スリックだけダントツで長かった。氷上特化も近しい距離で止まったのだがグリップ感は違っており、ABS の作動する間隔が長く距離が伸びたことに対し、iG70は緻密に制御できている感覚があった。

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氷上特化は発進からしてスリップがやや多めで、加速中も途中でハンチングする。操舵に対しても、やや応答遅れと横に逃げるのが見受けられた。スラローム区間ではVSCが横方向のグリップの低さを補って、なんとかコースを走れるようにしてくれている印象。全体的なグリップ感は、いわば一昔前のスタッドレスタイヤのような感じだ。iG70との違いがよくわかった。

こういう状況ではVSC のありがたみを実感する。車速さえ気をつけていればなんとか曲がってくれるので、ONとOFFでは全く違う挙動を見せる。

次にスリックを試したところ、発進は思ったよりも安定していたが、その後スリップして加速しないところをなんとか50km/hまで加速してフルブレーキング。やはり雪でも止まらず、感触としてもグリップする感覚が稀薄だ。

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スラロームでは最初から VSCが作動して、アンダーステアが強い状況。ステアリングを切っても曲がってくれないところ車速を最適に調整してなんとかパイロンをクリアできるように帳尻を合わせているという感じだ。

こうして特殊な条件で乗り比べることができたおかげで、iG70のバランス性の高さと相反する雪上性能=氷に効く/雪上性能=雪に効く を両立しているのかがよくわかった。

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その後にスポーツカーとのマッチングを確認するため、低扁平サイズのiG70を履かせたトヨタ『GRヤリス』と『GRカローラ』に総合圧雪試験路と圧雪試験路でジムカーナを試みた。予想に反して車両重量がありホイールベースの長いGRカローラよりも、GRヤリスとの相性がよかったのかよりコントローラブルなことが印象的だった。

特にiG70は横方向のエッジがしっかり効いている感覚があり、VSC オフでもコントロールしやすいことも付け加えておく。

刻々と路面状況の変わる一般道でも、路面を選ばない安心感

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翌日はiG70を装着したトヨタカローラフィールダー』で一般道を走行。我々は旭川を出発し美瑛町を走った。朝の気温はマイナス12度で、昼頃になってもマイナス9度だったので、交差点のあたりはかなりツルツルな路面も点在。ただし冬の北海道で最も滑りやすいシャバシャバな路面に出くわすことはなく、状況からするといくぶん有利だったように思う。

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映えるポイントとして知られる「パッチワークの路」のあたりは、写真のような圧雪路となっていた。少し離れると舗装が剥き出しているかと思えば、所々が凍結路と混じっている状況。

そんな中でも、とにかく乗りやすいことが印象的だった。外乱の影響も受けにくく、轍にも取られにくいあたりは特徴的なラウンドショルダーも効いてのことに違いない。雪で道幅が狭まった場所で対向車が来ても、正確に動くので不安はない。状況の変化に対しても特性が一定していて動きが読めるので、その時のグリップなりにイメージした通りに走れる。

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一方で舗装路を走ったときには、十分に確保されたな剛性のおかげでサマータイヤとあまり変わらない感覚で走れる。一昔前のスタッドレスのように、腰砕けになる感じもしない。

氷上も雪上もどちらでも得意で乗りやすく、舗装路も快適に走れてさらにはその性能が長く続くというのだからありがたい。横浜ゴムの製品にはもともと感心させられることが多かったが、TTCHが開設してからはよりその度合いが増したように思う。iG70は万能で完成度の高いスタッドレスタイヤに違いないだろう。

モータージャーナリスト 岡本 幸一郎氏モータージャーナリスト 岡本 幸一郎氏
《岡本幸一郎》

岡本幸一郎

1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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